はじめに
若い頃は何を食べて美味しいと感じたものであるが、歳を重ねてくるとそうはいかなくなってきた。学生時代はワンダーフォーゲル部(通称、ワンゲル部)で学業よりも登山に夢中になっていた頃は栄養補給と称して先輩・同輩・後輩と共に食べ放題の飲食店によく行っていたものである。食事に対して「質よりも量」を求めた時代を過ごしたと言える。どんなに食べても太ることはなかった。むしろ食べないと体重が減っていた時代である。それほどに日頃のトレーニングや登山でカロリーを消費していたということだろう。
社会人になっても結婚前は、同僚とテニスやスキーに興じたり、単独行での登山を継続していたので、社員寮の寮母さんが準備してくれる食事を腹一杯に食べても太ることはなかった。
そんな私の生活に変化が訪れたのは、妻との結婚であろうか。結婚後に体重はメキメキと上昇の一途を辿り、学生時代の体重よりプラス10kgに到達するのにそれほど時間を要しなかった。周囲から「幸せ太り」と茶化されても動じることもなく、妻の手料理に大満足しながら、仕事の忙しさを理由に運動もしない時代が長く続いた。健康診断で初めて人間ドックを経験したときにはすでにメタボ体形になっていた。しかし、薬物療法をするまでもない、いわゆる「要観察」の時代も長く続いた。
結局、サラリーマン生活をリタイアし、現在に至るまで「要経過観察」の状態が続いている。しかし、シニア時代を迎え、自分の身体が若い頃とは随分と異なり、退化していることを実感するようになった。無謀な食生活をしてはいけないことを、頭での理解よりも先に身体が教えてくれるようになった。そんな現実と向き合わなければならない今を私は迎えている。
身体が悲鳴をあげる前に、基礎代謝量が格段に減っているシニア世代に役立つ「栄養バランスの良い食事」とは何かを今度は頭で考え、身体のために実行してやらねばなるまい。
<目次> はじめに 健康的な食事とは 食生活改善の効果 腸内環境が整う 自律神経の乱れを防ぐ 集中力が高まる 健康を維持できる きれいな素肌が保てる 栄養バランスがとれた食事とは 食事品目を意識して増やす 一日に必要な食品の摂取量/栄養量を見直す 朝昼晩の栄養バランスとは 代表的栄養素の特徴 糖質 タンパク質 野菜 認知症予防に効果的とされる食品 青魚 緑黄色野菜・果物 大豆製品 カレー コーヒー・緑茶 あとがき |
健康的な食事とは
そもそも「健康的な食事」とはどのような食事を指すのであろうか? 一般的には、「健康的な食事」とは、栄養バランスが良くて、腹八分目を心がけた食事のことだと言われている。しかしながら、具体的にはどのような食事を指すのか私にはイメージが浮かばない。
まず、栄養バランスとは、一般的には摂取エネルギー(カロリー)と消費エネルギーのバランスのことを指している。確かに食事のカロリーが消費エネルギーを上回ると肥満に、カロリーが消費エネルギーよりも低くなると栄養不足になることは分かる。
しかしながら、カロリーだけに注目するのではなく、一日に必要な栄養素、つまりは3大栄養素(タンパク質・脂質・炭水化物)とビタミンやミネラルなどの種類や量にも注目すべきである。
また、一日に必要な栄養素とエネルギーを補うためには一日3食をできるだけ決まった時刻に食べる、つまり規則正しい食事を意識するよう推奨されている。
食生活改善の効果
私たち現代人の多くは乱れた食生活をする傾向にあると言われており、かくいう私も例外ではない。食生活を改善すると下記のようか効果があることが知られている。
- 腸内環境が整う
- 自律神経の乱れを防ぐ
- 集中力が高まる
- 健康を維持できる
- きれいな素肌が保てる
腸内環境が整う
栄養バランスを考えた食生活は、腸内環境の正常化をもたらすと言われている。腸には、善玉菌と悪玉菌、日和見菌という3種類の腸内細菌(腸内フローラ)が存在している。これら3種類の菌がバランス良く存在することで腸内環境は正常に保たれ、健康な体や健やかな肌が維持できるとされる。
しかし、悪玉菌が増え、善玉菌が減ってしまうと、腸内環境が悪化し肌に悪影響を及ぼすらしい。
したがって、健康的な食事を意識し、善玉菌のエサとなる栄養素やビタミン・ミネラルなどをバランス良く摂取することで、腸内環境を整える効果が期待できるとされる。
自律神経の乱れを防ぐ
自律神経が乱れると、心身がリラックスできず、疲れがとれないものである。また、寝つきが悪くなるなどの悪影響が出てしまうこともある。
このように自律神経の乱れは、健康や美容に悪影響を及ぼすため日々の食事の栄養バランスを意識し、体の内側から調子を整えることが重要となる。
集中力が高まる
決まった時刻に食事を摂ることを習慣化すると、体内時計がきちんと働き、仕事や勉強に集中できるようになるものである。
私たちが生活する1日は24時間と決められているが、体内時計は24時間よりも実際は少し長くなっているらしい。そのため、生活リズムが崩れて体内時計が乱れるようなことになると、体調を崩しやすくなる。そして体調が悪いと、集中力も低下する。
私たちが体内時計をリセットするには、朝日を浴びたり、朝食を食べたりすることが必要となる。また、栄養バランスの良い食事を決まった時刻に食べる習慣によって体内時計が正常に機能し、生活リズムが整えられることに繋がるとされる。
したがって、生活リズムが乱れ、日中に眠気を感じているような場合には、まずは食生活から見直すとよいかも知れない。
健康を維持できる
健康的な食生活は、体の健康維持に役立つと言われている。食べものに使用される肉や魚、野菜や果物には、たくさんの栄養素が含まれている。食材に含まれる栄養素の力を借りて、私たちは健康を手に入れていると言っても過言ではない。
もし私たちが糖質や脂質の多い食事を毎日のように続けているならば、私たちの体はたちどころに調子を崩してしまうかも知れない。それは食べものの消化の際に、胃や腸には負担をかけてしまい、腸内細菌のバランスが乱れて腸内環境も悪化してしまうからである。
きれいな素肌が保てる
栄養バランスのしっかりした食事が、私たちの肌本来の美しさを保つためには重要であるとされる。
私たちがもし毎日のように揚げ物やファーストフードといった脂質の多い食事をしているならば、皮脂が過剰分泌されることがあると言われている。
皮脂の過剰分泌は、毛穴の開きや黒ずみ、肌荒れなど、あらゆる肌のトラブルの原因となるらしい。
肌本来の美しさは、肌の表面だけでなく、体の内側からも影響を受けている。もし素肌に自信がない場合や肌の健康を護りたい場合には、まずは食事の内容を見直してみると良いかも知れない。
栄養バランスがとれた食事とは
食事品目を意識して増やす
健康的な生活を送るうえで、食事は欠かせない要素である。適度な運動を継続できたとしても、健康の源である食事が疎かでは健康に生きることは難しい。
既に毎日の食事に気をつけている方も多いかも知れないが、日々の食事に偏りがあるようではいけないという。健康に良いからと毎日同じものばかりを食べ続けるようではダメらしい。その理由は、栄養バランスが偏ってしまうからである。
食事品目を意識し、いろいろなものを広く食べることで栄養バランスの偏りが防げることができる。具体的には、魚や油、肉、乳製品、野菜、海藻、いも、卵、大豆、果物といった10種類の食品を積極的に摂取することが大切らしい。これらの食品群を毎日食べていれば、シニア世代を迎えても(つまり、高齢になっても)元気で過ごせていることが分かっている。
栄養バランスのとれた食事を実現するために、ある団体が考案した合言葉に、「さあ、にぎやか、いただく」というのがある。この合言葉は、摂取すべき10種類の食品の頭文字をとって、並べたものらしいが、実にうまく、覚えやすいようにできている!
それぞれの文字が何を指しているかについては、下記に示す。
さ 魚
あ 油
に 肉
ぎ 牛乳・乳製品
や 野菜
か 海藻
い いも
た 卵
だ 大豆
く 果物
毎日少なくとも上記の食品10品のうち5品以上は食べるようにしたいものである。そうすれば、炭水化物やタンパク質、ビタミン、ミネラルなどをバランス良く摂取することができ、栄養が偏る心配もないらしい。
一日に必要な食品の摂取量/栄養量を見直す
多くの種類の食品を口にしても、摂取すべき栄養量が足りていない可能性もある。そのため、食品の種類数だけでなく摂取量(栄養量)についても考慮する必要がある。
栄養バランスのとれた食事を考える場合は、種類だけでなく、その摂取量についても考慮する必要があるわけである。そして、その摂取量は、厳密に言えば、年齢や体格、1日における運動量、個々の基礎代謝などによって必要な食事量やバランスは異なるから一概に明示できないから厄介である。
そうは言っても目安ぐらいは知りたいものである。そんな場合は農林水産省や厚生労働省が食事バランスガイドを発表しているので、1日に何をどれだけ食べればよいのかを知りたい方は参考までにチェックしてみるのも良いかも知れない。
農林水産省発行の食事バランスガイド |
index-3.pdf |
厚生労働省発行の食事バランスガイド |
gaido-kihon.pdf |
朝昼晩の栄養バランスとは
一般的に私たちは朝昼晩の三食を日常的に摂取する。これが基本的な規則正しい食事の摂取の仕方だと長い年月をかけて刷り込まれている。私は、それを1日2食にしようというつもりは決してない。
理想的な食事の量やバランスは、人によって異なるため、ここで一概にはいえない。前述したように、年齢や1日における運動量、個々の基礎代謝などによって必要な食事量や栄養バランスは変化するからである。
基本的には3食をきちんと食べ、活動量が多くなる朝や昼は多めに、夕食はやや少なめにといったバランスで考えるのが良いのではなかろうか。
私の最近の経験では、夕食は糖質を避け、高タンパク質の食事にするだけで体重の増加は止まり、逆に減量に成功している。ヘルスメーター(体重計)で日々チェックしながら、翌日の配分を考えるのもありだと私は思っている。
個人的な話で恐縮だが、旅先の旅館の夕食や朝食では普段以上に食べることが多い(私だけかも知れないが、出されたものは完食してしまうからである)。そんな場合はどうするか? 私の場合は、旅から帰った後の1週間は粗食で過ごすようにしている。そうすることで、旅行中に増えた体重が元に戻るようにしている。
代表的栄養素の特徴
糖質
私の好きなうどんやラーメンなどの炭水化物主体の食品を食べ過ぎると太る、といったイメージがある。炭水化物とは、糖質と食物繊維の総称である。確かに、糖質を必要以上に摂り過ぎてしまうと肥満の原因となり、生活習慣病の原因にもなってしまう。
一方、糖質は人間の体を動かすために必要なエネルギー源となる必須の栄養素である。そのため、少な過ぎると脳が働かなくなったり、疲れやすくなるといった症状が生じる。疲労感が出たり、集中力が減少してし、日常生活に支障をきたすおそれもある。
したがって、ダイエット目的などで糖質を全く摂取しないというようなことは決してしてはいけないことを肝に銘じておこう。
タンパク質
動物性タンパク質が豊富な食品と言えば、肉類である。肉類には脂身も含まれるため、たくさん食べるとコレステロールが上がり体に悪い、といったイメージがあるかも知れない。
確かにコレステロールが増え過ぎると、動脈硬化が進み心筋梗塞や狭心症などを引き起こす原因にもなる。しかし、少な過ぎると脳内にある毛細血管の血管壁が脆弱になり、高い血圧から脳出血に至るおそれもある。
しかしながら、肉類には体を作る元となるタンパク質が多く含まれているため、摂取量が少な過ぎると筋肉量を減らしてしまうことにもなる。したがって、重要なタンパク質源としての肉類を食事に加えないというような選択肢は避けるべきであると思う。私の知り合いの元気な高齢者は例外なくお肉が大好物である。
野菜
野菜は健康に良いイメージがある。確かにカロリーが少なくヘルシーイメージがあるため、ダイエット食品としても人気である。実際、野菜は低カロリーで栄養価が高く、健康増進には欠かせない食品といえる。ビタミンやミネラル、食物繊維などの栄養素を豊富に含んでいる。さらに、炭水化物を体内でエネルギーに変える役割も果たしている。
低カロリーのイメージが強い野菜ではあるが、中には高カロリーな野菜もある。例えば、アボカドのような高カロリーの野菜もあることを知っておくとメニューを考える際に役立つ。
認知症予防に効果的とされる食品
私たちシニア世代になる認知症を発症することが怖い。そのため認知症の予防策に対しては関心が高くなる。食品(食べ物)
認知症予防に効果的とされる食べ物としては下記のようなものが知られている。
青魚
青魚は、認知症の予防に効果があるとされている食品の一つである。青魚にはオメガ3脂肪酸が豊富に含まれており、脳の健康をサポートすると言われている。
特にDHAという成分は、脳の構造と機能を維持するのに重要な栄養素である。さらに、青魚には抗酸化物質も含まれており、脳の老化を防ぐ効果があると言われている。
青魚を定期的に摂取することで、認知機能の維持や向上に役立つ可能性がありそうだ。ただし、食事だけでなく、生活習慣全体が重要であることは言うまでもない。
認知症予防になる食べもの | 具体的な食材 |
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青魚 | サバやサンマ、アジなど |
含まれる栄養素 | DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸 |
機能 | 脳を活性化させ、 記憶力や判断力の向上に寄与 |
緑黄色野菜・果物
緑黄色野菜や果物は、認知症の予防に効果があるとされる。特に、ビタミンCや抗酸化物質が豊富な食品は、脳の健康をサポートすると言われている。
例えば、ブロッコリーやほうれん草などの緑黄色野菜や、オレンジやイチゴなどの果物が該当する。
これらの食品をバランスよく摂取することで、認知機能の維持や向上に役立つ可能性がある。
認知症予防になる食べもの | 具体的な食材 |
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緑黄色野菜・果物 | ほうれん草やにんじんなど |
含まれる栄養素 | ビタミンB群の一種である葉酸 |
機能 | 血中コレステロールの値を下げ、 血管の老化を防ぐ抗酸化作用を高める |
大豆製品
大豆製品は、認知症の予防に効果があるとされている。大豆にはアミノ酸の一種であるアルギニンが含まれており、脳の神経伝達物質であるドーパミンの生成を助けると言われている。
また、大豆製品にはオメガ3脂肪酸や抗酸化物質も豊富に含まれており、脳の健康をサポートするとされている。
認知症予防になる食べもの | 具体的な食材 |
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大豆製品 | 豆腐や味噌、納豆など |
含まれる栄養素 | 大豆レシチン |
機能 | 神経伝達物質を生成することで 記憶力の低下や認知症の予防に効果がある |
カレー
カレーには認知症予防に効果があるとされる成分が含まれているらしい。特に、カレー粉に含まれるクルクミンという成分は、認知機能を向上させる効果があるとされている。
また、カレー粉に含まれるカルシウムや抗酸化物質も脳の健康に良い影響を与えると言われている。
認知症予防になる食べもの | 具体的な食材 |
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カレー | カレールー |
含まれる栄養素 | ウコン(ターメリック)中の クルクミン |
機能 | 免疫細胞を活性化したり、 アミロイドβの蓄積を抑えたりする 効果があるとされ、認知症予防に期待 |
コーヒー・緑茶
コーヒーと緑茶には、認知症予防に対する効果があるとされる成分が含まれているらしい。
コーヒーには、カフェインやポリフェノールが含まれており、これらの成分が脳の神経細胞を保護し、認知機能を向上させるとされている。
緑茶には、カテキンやEGCG(エピガロカテキンガレート)が含まれており、これらも脳の健康をサポートし、認知機能を維持する効果があるとされている。
ただし、これらの効果には個人差があり、過剰摂取は逆に健康を害することもあるので要注意である。
認知症予防になる食べもの | 具体的な食材 |
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コーヒー・緑茶 | コーヒーや緑茶 |
含まれる栄養素 | カフェインやポリフェノール |
機能 | 血液中の不要なたんぱく質を排出させ、 血流が良くなり、脳内の神経伝達を 円滑にし、認知機能の低下を防ぐ |
あとがき
食は医なり、腹八分目医者いらずという格言がある。これは賢い食事を心がけることで健康管理ができるという意味である。また、暴飲暴食は寿命を縮めるとも指摘されている。
さらには、医食同源【いしょくどうげん】という用語もある。これは、日常の食生活に気を配ることが、一番の病気予防になるという意味で使われる四字熟語である。「医食」とは医薬品と食事のことを指し、病気の治療のために服用する医薬品と日常の食事は、どちらも健康を維持するためのものであり、根本は同じであるという意味で使われることが多い。
いずれも食事の重要性について語っている。それほどに食事は私たちの健康には重要な役割を担っているということである。食事は、単に空腹を満たしたり、美味しい料理で幸福感を得て、それでおしまいではないということである。
健康のためには、もっと日常の食事について知識を得ておく必要がある。そのことをシニアになった今頃、恥ずかしながら、私は痛感するようになった。それも一人暮らしを始めて、自炊をするようになってからだから自分でも可笑しいとは思う。