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続・アニメ『薬屋のひとりごと』に私がハマった理由は物語の展開だけでない!

(2024年3月14日更新)

はじめに

アニメ『薬屋のひとりごと』は、大陸の中央に位置する架空の大国の後宮を舞台にした日向夏のミステリー(謎解き)とファンタジー、ラブコメディの要素を含んだ魅力的な作品を原作としたものである。

主人公は、花街で薬師をしていた少女・猫猫【マオマオ】が人攫い【ひとさらい】に遭い、後宮の下働きの下女として売り飛ばされ、宮中で働くところから始まる。できるだけ目立たないようにして、年季明けを待つ日々を過ごしていたが、ある日、帝の御子と寵妃たちが呪いによって衰弱しているという噂を知り、正義感から花街の薬師だった経験を活かしてその原因を匿名で寵妃たちに知らせた。そのことがきっかけで、後宮を束ねる美形の宦官・壬氏【じんし】の目に留まり、皇帝の寵姫の毒見役に抜擢される。壬氏に気に入られた猫猫は、その後もさまざまな事件や面倒事を押し付けられることとなる。自らの「毒への好奇心」もあって、深い洞察力と薬師としての薬学知識を使い、次々にそれらの難事件や難問を解明・解決していくという話である(第1クール;第1話~第12話)。そして、ある事件に余波で、猫猫は後宮を去ることになるが、壬氏に身請けされ、外廷の壬氏宅で働くこととなる。そこでも深い洞察力と薬師としての薬学知識を使い、次々に難事件や難問を解明・解決していくという話が続いていくが、それらの事件にはきな臭い「政治的な陰謀」が隠されているようで、黒幕(ラスボス)が出て来そうな展開である(第2クール;第13話~第24話)。

アニメ『薬屋のひとりごと』の第1クールのオープニング主題歌は、緑黄色社会の「花になって」、エンディング主題歌はアイナ・ジ・エンドの「アイコトバ」であったが、第2クールのオープニング主題歌はUruの「アンビバレント」に、そしてエンディング主題歌がwacciの「愛は薬」に変更されていた。

アニメ『薬屋のひとりごと』は、昨年には第1クール目の全12話(2023年10月~12月)が放送された。そして第2クール目の全12話(2024年1月~3月)がABEMAでも現在放送中である。その2クール目も10話分が既に放送されたところである。

引用)2024年放送TVアニメ
『薬屋のひとりごと』PVカット
引用)2024年放送TVアニメ
『薬屋のひとりごと』PVカット

このアニメの物語の魅力は、宮中や花街で起こる様々な難事件を、薬学知識を持つ主人公猫猫【マオマオ】が解決していくミステリー作品である。私がこのアニメに魅せられる理由は、前回も述べたように、物語の随所に薬物や毒物の話や、化学実験並びに疾病の話などが主人公の口を介して語られる点である。

本稿でも、前回と同様に過去の放送でどんな薬物や毒物、化学実験や疾病の話が登場したかをレビューしてみようと思う。


<目次>
はじめに
第13話『外廷勤務』:ビャクダン(白檀)
第14話『新しい淑妃』:粉塵爆発
第15話『鱠』:海藻による食中毒
第16話『鉛』:超低融点合金の調合
第17話『街歩き』:化粧による変装術
第18話『羅漢』:梅毒の治療薬
第19話『偶然か必然か』:牛黄
第20話『曼荼羅華』:チョウセンアサガオ
第21話『身請け作戦』:でんぷん糊と牛の唾液
第22話『青い薔薇』:ベンデラブルー
あとがき

第13話『外廷勤務』:ビャクダン(白檀)

第13話では、物語の最後で軍部の施設内に知らずに立ち入った猫猫がビャクダン白檀)の香りを嗅ぎ、そこが軍部の施設であることを悟る話が登場する。ビャクダンは、その香りが特徴的な植物で、その香りは精油分に由来する。ビャクダンは薬としても利用されるので、薬師である猫猫が気付いたのは理解できるが、それにしても猫猫の嗅覚はすご過ぎる!

ビャクダンは、その木部や茎、枝が薬用に使われる。薬効としては、ストレス緩和、抗炎症、殺菌、消毒作用があるので咽喉炎、尿路感染、にきびなどに用いられる。また、鎮痛作用、止嘔作用、食欲増進、嘔気改善などの薬理作用があるとされる。

ビャクダンの香りは、エキゾチックな優しい香りで、その香りは「サンタロール」という香り成分によるものである。この香り成分は化学的に合成できないため、ビャクダンの精油は重宝されている。

ビャクダンの香りは、お香や線香として使われることが多い。また、アロマセラピーでは、リラックス効果があるとされ、頭痛やストレスなど、神経系の興奮状態を抑える効果があるとされる。さらには、集中力を高める効果もあると言われている。これらの効果は、すべてビャクダンの主成分であるサンタロールによるものとされる。


第14話『新しい淑妃』:粉塵爆発

第14話では、軍部の施設内にある穀物倉庫の一つが爆発を伴う火事を引き起こした原因が、猫猫によって「粉塵爆発」であることが解明される話が登場した。

軍部の穀物倉庫には小麦粉の粉塵が充満していたようで、誰かが倉庫内でキセルでタバコを吸っていた形跡も残されていた。それらの状況証拠から、猫猫は穀物倉庫の火事が「粉塵爆発」であることの可能性に気付いた。そして、そのことを知り合いの武官で原因究明の任に当たっていた李白【りはく】に指摘した。

さらに、それを検証するために木箱を自作して、その中に小麦粉を入れて、火縄の火で点火して「粉塵爆発」の実験を行う。それを目の当たりにして武官の李白も納得するという話が展開された。確かに、物語としては非常に面白い。

しかしながら、物語に登場するような試作の木箱で「粉塵爆発」をさせることは不可能であろう。実は、製薬企業で使用する造粒機の一種に「流動層造粒機」というものがあり、生産用の大型機では「粉塵爆発」から作業者を守るための方策としてかつては爆発放散口が設けられていたものである。現在では、粉塵爆発時の薬物の外部環境への放出を防止するために耐爆発圧力衝撃設計が採用されている。一方で、小型のラボ機(1L)ではこのような防御機構は組み込まれていない。

何が言いたいかと言うと、「粉塵爆発」を起こさせるためには相当な量の粉塵の密度が必要であり、小型の実験装置ではそのような条件を再現することは不可能であるからだ。

だからと言って、私は物語の展開に難癖をつけるつもりは毛頭ない。むしろ自分の仮説を実験によって検証する猫猫の行動は賞賛されるべきことであると思っている。『憶測でものを言っちゃいけないよ』という養父・羅門の言いつけを猫猫が忠実に守っている証左でもある。科学に身をおく者は猫猫を見習うべきである。


第15話『鱠』:海藻による食中毒

第15話では、鱠【なます】の話が登場する。鱠(膾とも表記)は、切り分けた魚肉や獣肉に調味料を合わせて生食する料理を指す。魚肉を用いて同様の調理をしたものは「鱠」、獣肉を用いた物は「膾」と表記するようである。

日本では魚介類や野菜類、果物類を細く切り、酢を基本にした調味料で和えた料理に発展した。日本の鱠は「酢の物」とも呼ばれる。

物語では、当初、フグ毒による中毒を疑われていたが、状況証拠や料理人の証言からはフグ毒ではなく、原因が特定できずに困った状況であった。これと同様の不可解な事態は過去にもあったらしいことが壬氏付きの宦官・高順【ガオシュン】の口から語られていた。

この原因不明の食中毒が鱠の具材に用いられた季節はずれの海藻であることに猫猫は気付いた。流石である。

そして例によって、それを実験によって確かめようと、食中毒の原因物質を自ら食べようとするが、さすがにそれは壬氏によって引き留められた。

このように、海藻を食べる際には注意が必要であるとの啓蒙が物語によって示された。特に、自分で海藻を採取する場合や、知らない海藻を食べる場合は、その海藻が安全であることを確認することが重要である。また、市販の海藻でも摂取上限を超えると危険なこともあるという。海藻を食べる際には、適量を守ることが大切であることを肝に銘じたい。


第16話『鉛』:超低融点合金の調合

第16話では、三人の息子にそれぞれ遺産と「謎」の遺言を残したまま秘伝の彫金技術を伝えずに亡くなった彫金師の話が登場する。その「謎」の遺言を解き、秘伝の彫金技術を解明してほしいとの依頼が、羅漢から壬氏、そして壬氏から猫猫に伝えられた。

猫猫は、その難問を見事に解明し、依頼の問題を解決するわけであるが、そこに登場するのが「超低融点合金」の話である。

物語では硝子製の金魚鉢をレンズ代わりにして太陽光をタンスの鍵穴に集光し、その太陽熱(約3000℃か)でタンス内の超低融点合金を溶かし、その合金をタンス内の鋳型に流し込んで鍵を作る仕掛けになっていた。その鍵はタンス上段の引き出しの鍵になっていた。ちなみにタンス上段の引き出しは3個あり、各引き出しには異なる鉱物が入っていた。異なる3種類の鉱物は、ビスマス、鉛【ナマリ】、錫【スズ】であった可能性が高い。そして、引き出しの幅がそれら鉱物の配合比を表していると猫猫は推察している。3兄弟の父親である彫金師は、「はんだ」よりも低融点で溶融する「超低融点合金」の組成を見出し、それを息子たちに伝承させたかったのであろう。この超低融点合金は、現代では「ローズ合金」と呼ばれるものであったかも知れない。

兄弟仲が悪い3兄弟が自分の死後に協力しやい、協働して稼業を盛り立てて欲しいと考えた父親の願いが猫猫の知恵と機転によってしっかりと三兄弟に伝わることができたわけである。

物語の最後に羅漢が解説しているように、父の彫金師を引き継いだのは才能のあった三男であるが、長男と次男も自分の得意とする分野で協力しあって稼業を繁盛させているようであった。羅漢曰く、適材適所でお互いにリスペクトしながら協働しているわけである。まさに彼らの父親が待ち望んでいたことである。

フィクションとは言え、この彫金師の父親は巧妙な仕掛けをよく考え付いたものである。そこには生前に言葉では伝えることはなかったが、父親の息子たちへの愛を感じる。


第17話『街歩き』:化粧による変装術

通常は、化粧メイク)というものは美しく見せるためにするものだが、第17話で壬氏が猫猫【マオマオ】に依頼したのはその逆、つまり醜くして別人に見える変装メイクであった。さすがに「国を滅ぼす原因にもなりかねないくらい」の美女顔負けの美貌をもつ壬氏からの依頼である。他人とは違う依頼である。

猫猫は壬氏からの依頼を引き受けることになった。そして猫猫の変装へのアイデアが炸裂する。壬氏の体にさらしを巻いて小太りの不恰好な体型にさせたり、洗濯前の臭いのある服を着せて平民のような恰好にさせたりする。壬氏の美貌の顔には日焼けして見えるようにおしろいを塗り、爪の先まで化粧で汚した。こうして壬氏の容貌は貴人から平民へと見事に変身した。

壬氏の要望に応えた猫猫は久しぶりの休みをとって里帰りを考えるが、高順【ガオシュン】に引き止められた。そして、壬氏付の初老の侍女・水蓮【スイレン】によって猫猫自身は商家のお嬢様のように変装させられてしまう。只、猫猫の場合は、素顔が美しいだけに普通の化粧と綺麗な服装を着るだけで十分であった。

こうして壬氏と猫猫は、主従逆転の主従のような恰好に変装し、二人だけで街を歩くことになる。目的地は花街通りのある店舗である。そこで壬氏は羅漢に会うことになっているらしい。その店舗までの道中の猫猫と壬氏のからみが愉快であった。


第18話『羅漢』:梅毒の治療薬

第18話では、壬氏と街で別れて里帰りした猫猫は、羅門に頼まれて緑青館の離れに薬を届ける。そこには病(梅毒)に伏せる妓女がいて、猫猫は薬を飲ませつつ、昔の緑青館や当時の妓女たちのことを思い出して、物思いにふける。

一方、後宮に戻った壬氏は、ことあるごとに壬氏に絡み、猫猫に興味を示す軍師の羅漢と話すうちに、猫猫と羅漢の関係に気づく。そう羅漢は猫猫の実の父であったのだ。猫猫自身はその事実を既に知っており、何故か羅漢を非常に嫌っているようである。

そして、緑青館の離れで伏せる妓女こそが羅漢が唯一惚れた女性であり、身請けの大金を用意できない打開策のために、身請け価値を下げるために孕ませたという伎女(鳳仙【フォンシェン】)であった。つまり、この伎女こそが猫猫の実の母であった。

何故、羅漢が価値の下がった妊婦の鳳仙をすぐに身請けしなかったのかは不明である。おそらく何か事情があったのだろう。猫猫の養父・羅門と羅漢の関係はおそらく血縁関係にあるのだろう。猫猫の出生の謎が少しずつ解明されてきた。

羅門が鳳仙のために処方し、猫猫に届けさせて鳳仙に服用させていた粉薬は何であったのか非常に気になるところではある。


第19話『偶然か必然か』:牛黄

第19話では、牛黄【ゴオウ】と呼ばれる高貴な漢方薬が主人公の猫猫【マオマオ】のモチベーションを最高度に上げる報酬(エサ?)として登場する。牛黄は、牛の胆石(牛の胆のう中に生じた結石)であり、古来、その希少性が高いことから非常に高価格な漢方薬として重宝されてきた。現代では、ますます高騰化しており、グラム当りの市場価格は【キン】と同等になっているという。猫猫がその名を聞くだけで興奮してしまい、壬氏から事件解決の報酬とて貰えるとなれば俄然やる気を出してしまうのも無理はない。薬師にとっては垂涎の高貴な漢方薬なのである。

牛黄(胆石)を持つ牛は千頭に一頭(確率0.1%)とも言われ、衛生環境の整備された牧場が多くなった現代では更に胆石持ちの牛が少なくなっているはずである。ますます希少性が高くなる!

そんな牛黄につられて、猫猫は事件解決に尽力することになる。猫猫は、元々李白から相談を受けたことがきっかけで、これまでに起きた一連の事件に偶然とは言い切れない妙な繋がりを感じていた。それで、猫猫は壬氏に相談して事件の再調査に乗り出すことになったわけである。

一連の事件とは、先日のぼや騒ぎ(14話)に乗じて祭具が盗まれたことや、酒で亡くなった祭具の前管理者の事件(9話)や海藻の毒に倒れた祭具の現管理者などの事件(15話)、さらには彫金師の遺言話(16話)など一見、偶然の事故に見える祭具に関連する一連の事件を指す。

最終的に、これらはすべて祭具の管理に関わっており、偶然を装った周到に計画された(必然性を狙った)殺人事件であることに気付く。そして、最終目的は祭事場での祭具の落下による皇帝の殺人計画であることに猫猫が気付いた。そして猫猫が必死でその殺人計画を阻止しようと祭事場に向かうが、警備の武官に邪魔されてしまう。殴られて怪我をするも、羅漢の助けで、祭事殿に向かうことができた。そして、間一髪で救うことができたのは皇帝ではなく壬氏であることを失神しながら知ることになるという展開であった。次の展開が気になるところである。


第20話『曼荼羅華』:チョウセンアサガオ

第20話では、タイトルの「曼荼羅華【まんだらげ】」という薬用植物名が物語中、主人公・猫猫【マオマオ】の会話に登場する。曼荼羅華は、仏教用語で、天上に咲くとされる芳香を放つ白い花を指し、その色は美妙で、見る者の心に悦楽を感じさせるとされている。

曼荼羅華は、チョウセンアサガオまたはムラサキケマンという薬用植物の別名としても使用されることがあるようだ。

チョウセンアサガオは、ナス科の植物で、その美しい花から園芸用途で広く利用されているが、かつて薬用植物として用いられた歴史がある。チョウセンアサガオにはヒヨスチアミン、スコポラミン、アトロピンなどのアルカロイド類といった有毒物質が含くまれており、誤食すると強い中毒症状を引き起こす。そのため、取り扱いには注意が必要とされる。

一方、ムラサキケマンは、ケシ科キケマン属の越年草で、花色が紫色で、花の形が仏殿に吊るす仏具の華鬘【けまん】に似ていることから、その名がつけられたとされる。しかし、ムラサキケマンもプロトピンという有毒物質を含有しているので、誤食すれば嘔吐・呼吸麻痺・心臓麻痺などを引き起こす可能性がある。そのため、ムラサキケマンは見た目は美しいが、取り扱いには注意が必要とされる。

では、物語で猫猫が「曼荼羅華」と語った薬用植物はどちらか?その答えは、チョウセンアサガオの方である。外宮で出会った医薬に造詣がありそうな官女・翠苓【スイレイ】との会話の中で、猫猫が興味を抱く蘇生可能の効能をもつ「蘇りの薬」の原料としてアサガオが登場することから、この物語中の曼荼羅華はチョウセンアサガオを指していることで間違いはないだろう。実際に、翠苓は「毒薬」を飲んで仮死状態になったあと蘇生しているようなので「蘇りの薬」を調合できるのかも知れない。

江戸時代の医師である華岡青洲は、このチョウセンアサガオを主成分とする麻酔薬「通仙散」を完成させ、1804年に世界初全身麻酔手術で乳癌の手術を成功させている。

このようにチョウセンアサガオに含まれる成分には副交感神経を遮断する作用がある。女官・翠苓が仮死状態になり、自殺を偽装するために服用した「毒薬」にもチョウセンアサガオが使用されていた可能性が高いと猫猫が気付いていたようである。次の展開が待ち遠しい。


第21話『身請け作戦』:
でんぷん糊と牛の唾液

第21話では、主人公の猫猫【マオマオ】に「やぶ医者」と呼ばれている医官の実家の話が冒頭で登場する。後宮で唯一の医官であるこの宦官の実家は宮中でも使用されるという高品質の紙漉きを営んでいるらしい。ところが最近、紙の品質が低下しており、宮中へ納品ができなくなるなど経営難に陥っているという。例によって、この問題が作業効率化のために導入された牛によるものであるはずだと猫猫が指摘するという話がアイスブレイク的に語られた。第21話の本筋ではないが、猫猫と「やぶ医者」の会話には癒しがあり、私は彼らのやり取りが好きである。

ところで、紙の品質低下と牛の関係であるが、それは紙の製造に使用される「でんぷん糊」の加水分解が牛の唾液中に含まれる消化酵素・アミラーゼによって引き起こされている可能性を猫猫が見抜いたことである。何と素晴らしい洞察力であろうか!

「やぶ医者」の実家では古来から紙の製造工程に伝来のでんぷん糊が使用さているようで、製造工程自体は変えていないということである。それ以外の材料や製造方法は一切変更を加えていないということであった。そこで猫猫が着目したのは重労働を軽減するために牛を飼い始めたという「やぶ医者」の一言である。

小麦粉やコーンスターチなどに含まれるでんぷんは、多糖類の一種で、D-グルコース(ブドウ糖)の重合体ある。約20%のアミロース(直鎖状重合体)と約80%のアミロペクチン(分枝状重合体)で構成されている。

このでんぷんは水に溶けにくいが、水を加えて、60~80℃に熱すると、でんぷんは糊化してでんぷん糊(α化デンプン)になることが知られている。

一方、アミラーゼは私たちの唾液や膵液などに含まれる消化酵素であり、でんぷん分子を切断して、マルトース(二糖類)に分解する働きがある。この反応は加水分解と呼ばれ、アミラーゼは酵素としてこの加水分解を促進する働きがある。アミラーゼは、私たちの消化プロセスに欠かせない酵素であり、食物を栄養に変える重要な役割を果たしている。

アミラーゼは牛の唾液にも多く含まれているので、猫猫が物語中で指摘したようにでんぷん糊を製造するための水に牛の唾液が混入していれば、でんぷん糊の糊としての品質は低下している可能性は高い。したがって、問題の解決策は、でんぷん糊の製造用水と牛の飲み水とは厳格に分離して管理する必要があるということである。

このように品質に変化があった場合は、何か原因が必ずあるはずである。この考えは品質管理の基本中の基本の考え方であり、医薬品産業のみならず製造業に従事するすべての者が品質管理について肝に銘じておくべき点である。二十歳に満たない猫猫が薬師としての資質を十分に備えているとは驚きである。


第22話『青い薔薇』:ベンデラブルー

第22話のタイトルは『青い薔薇【そうび】』となっていた。薔薇【バラ】は、平安時代に中国から日本に伝わった漢字で、音読みでは「そうび」または「しょうび」と読まれていたという。古今和歌集にも「薔薇」は登場し、「そうび」と音読みで和歌に詠まれているらしい。

日本語の「バラ」に対応する漢字が存在しなかったため、バラの花を表すために「薔薇」という漢字が使われるようになったという経緯が知られており、「そうび」の方が「バラ」よりも歴史は長いようだ。このように「薔薇」は漢字と日本語の交流から生まれた興味深い言葉であるとされる。

さて、物語に登場する「青い薔薇」は、かつては自然界に存在しないとされていた。バラの遺伝子には青い色が存在しないためであり、自然界のバラに使える青い色素も存在しないと考えられていたからである。物語でも「青い薔薇」は超珍重な植物の一種として扱われていた。

第22話では猫猫【マオマオ】の実父・羅漢の画策によって「青い薔薇」が園遊会で必要となり、壬氏から相談を受けることになる。猫猫がその難題を画策した張本人が羅漢でことに気づき、対抗心もあって「青い薔薇」を咲かせるために奮闘する姿が描かれた。園遊会が迫る中、季節外れのバラを咲かせるためにサウナ風呂を改良して「温室」を作り、開花時期を早める方法が採用されていた。そして、その温室で丈夫な白いバラ(ベンデラという品種か?)を育てていた。

そして「青い薔薇」、つまり「ベンデラブルー」のアイデアは、育てた白いバラの青い染色液を吸わせて、元々は白いバラの花弁を青色に染色させるというものであった。つまりベンデラブルーはベンデラ(丈夫な白いバラの品種)に青い染料を染み込ませて作ることができる。

こうして誕生した青い薔薇(ベンデラブルー)の切り花は園遊会当日に間に合い、羅漢の鼻を明かすという話であった。しかし、この話にはまだ続きがあるようで、次回の展開が気になるところである。

尚、染色法ではなく「本物」の「青いバラ」の開発は、日本のサントリーフラワーズ社とオーストラリアの植物工学企業が共同研究で2004年に成功したことで知られている。バイオテクノロジー(遺伝子組み換え技術)によって可能となったものである。

その世界初の青いバラは、2009年に「サントリーブルーローズ アプローズ(SUNTORY blue rose Applause)」と名付けられたという。アプローズ(Applause)は、「喝采」を意味し、花言葉である「夢かなう」を象徴しているとされる。


あとがき

主人公の猫猫【マオマオ】が壬氏の庇護の元、王宮の内外で起きる単発の難事件を彼女の薬学知識と卓越した推理力で解決していく物語であるとばかり思っていたが、19話でかつての事件がそれぞれある目的のために故意に引き起こされていた「一連の事件」であったとは秀逸のストーリー展開である。素晴らしい!

第2クールのアニメ『薬屋のひとりごと』では、オープニング主題歌でも表現されているように、壬氏の猫猫に対するひたむきな愛情が随所に表現されていた。一方の猫猫と言えば、その壬氏の自分への愛情を全く気付いていないようである。そのギャップが第2クールの物語全般を面白くしているのかも知れない。

アニメの最終話までの展開は、原作小説や漫画に基づいていると思われるが、詳細は明らかになっていない。放送予定では、最終話は2024年3月23日に放送されることになっている。アニメの最終話までどんな展開が続いていくのか毎回の視聴が楽しみである。