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写真愛好家が初めてホタルを撮影する際に役立つ知識と技術

はじめに

本州では梅雨入りを間近に控えた初夏の季節がやって来た。6月初旬ともならば、清流の近くではゲンジボタルが飛翔するようになる。都会ではなかなか見ることができないホタルの乱舞が夏の風物詩の一つとして私は好きである。

写真撮影を趣味にしている私としては、ホタルも写真撮影の被写体に当然ながら含まれている。ホタルの写真撮影には、少し撮影技術が必要ではあるが、慣れればそれほど難しいものではない。

実は、ホタルの撮影星空撮影には、いくつかの共通点があるので、その星空撮影の延長でホタルの幻想的な写真が容易に撮れるようになる。

一方でホタル撮影には独特のコツとマナーがある。本稿では、初心者でも安心して挑戦できるホタル撮影における写真撮影技術の基本について紹介したい。

目次
はじめに
星空とホタルの撮影の共通点
星空とホタルの撮影の相違点
ホタルの生態を知ろう!
必要なアイテムの準備
撮影地と天候の把握
撮影モードの設定
構図とフレーミング
撮影テクニック
撮影手順
設定変更例
画像処理テクニック
撮影マナーを守る
あとがき

星空とホタルの撮影の共通点

  • 長時間露光が基本!
    • どちらも暗い環境で光の軌跡を捉えるから、シャッター速度は数秒〜数十秒と長め
    • 星の軌跡やホタルの光跡を美しく残すには、じっくり光を集める必要がある
  • 三脚とレリーズは必須アイテム
    • 手ブレを防ぐために固定できる三脚と、リモートシャッター(またはセルフタイマー)は撮影に欠かせない
  • 暗所に強いカメラと明るいレンズ
    • 高感度でもノイズが少ないカメラ
    • F2.8以下の明るいレンズ
    • 星もホタルもくっきり写せる!
  • 撮影場所の選定が重要
    • 街灯や車の光が少ない、暗くて静かな場所が理想的
    • 星もホタルも人工光に弱いから、ロケーション選びが成功のカギ
  • 比較明合成で幻想的な表現が可能
    • 複数枚の写真を合成して、星の軌跡やホタルの光を重ねる「比較明合成」は、どちらの撮影でもよく使われるテクニック!
    • 作品づくりの幅が広がる

星空とホタルは、どちらも夜の静けさの中でしか出会えない幻想的な被写体である。共通のテクニックを活かして、両方の撮影に挑戦してみるのも楽しい。


星空とホタルの撮影の相違点

項目星空撮影ホタル撮影
被写体星は地球の自転でゆっくり動くホタルは不規則に飛び回る
撮影時期年中可能(天候と月齢次第)初夏限定(6〜7月)
撮影場所高地や光害の少ない場所水辺や森林などホタルの生息地
光の強さ星は微弱で点光源ホタルは点滅しながら移動する光源
ISO設定400〜800800〜1600
F値設定F2.8〜F4F1.8〜F4
露光時間長め
15〜30秒
短め〜中
5〜30秒
マナー面周囲に人が少ないことが多い観賞者が多く、光や音に配慮が必要
合成技術比較明合成で星の軌跡を描く比較明合成でホタルの光跡を重ねる

星空は宇宙の静けさ、ホタルは命のきらめきである。どちらも幻想的だけど、撮影のアプローチは少しだけ異なる。


ホタルの生態を知ろう!

まずは、ホタルの習性や生態を知ることから始めよう!

ホタルの飛翔や発光を撮影をするには、まずはホタルの生態をよく理解しておく必要がある。

ホタル(蛍)は、コウチュウ目(鞘翅目)ホタル科に分類される昆虫の総称。発光することで知られる昆虫である。日本でホタルと言えば、ゲンジボタルヘイケボタル、それにヒメボタルが有名である。

日本で最も有名なホタルといえば、ゲンジボタル(体長15 mm前後)を指すことが多い。ゲンジボタルは、本州・四国・九州に分布し、その幼虫は清流に生息して、カワニナ(巻き貝の仲間)などを食して成長する。

次いで有名なホタルは、ヘイケボタル(体長8 mm前後)であり、ゲンジボタルより小ぶりのホタルである。ヘイケボタルもほぼ全国に分布し、その幼虫は小川の他、水田や池などにも生息し、カワニナやタニシなどを食して成長する。

ヘイケボタルの成虫の出現期間は長く、6月~8月頃ぐらいに田んぼや小川・池で見られる。ヘイケボタルの発光は、あまり強くなく、揺れるような光を出すといわれている。そして飛び方は直線的で、明滅回数は1分間に30回~40回ぐらいらしい。

ゲンジボタルとは明らかに異なる特徴がある(下表参照)。

特性項目ヘイケゲンジ
発光強度あまり強くない。揺れるような光強い
飛び方直線的曲線的
明滅回数/分30~40回25~30回
成虫の出現時期6~8月頃5~7月頃
生息地日本全国本州以南
生息場所田んぼ、小川・池清流
タニシカワニナ

一方、ヒメボタルの幼虫は陸生で、カタツムリなどの陸生貝を食べて成長し、成虫も森林内に生息することが多い。西日本に生息し、5月~6月ぐらいに林のなかで観察される。ヒメボタルの成虫は、飛翔しないで、林の中で、フラッシュをたいているような短い間隔で点滅しながら発光する。ヒメボタルのこの発光の特徴は、明らかにゲンジボタルやヘイケボタルとは異なる。ゲンジボタルやヘイケボタルは、点滅しながら飛翔するからである。写真撮影をすれば、その違いが明らかである。

  • 活動時期と時間帯  
    • ホタルは5月下旬〜7月上旬にかけて、湿度が高く風の少ない夜に活発になる
    • 日没後1〜2時間が狙い目!
  • ロケーション選び  
    • ゲンジボタルは清流、ヘイケボタルは田んぼや湿地が多い
    • 街灯や車の光が届かない暗い場所が理想的
  • 事前の下見(ロケハン)
    • 昼間に現地を確認して、安全な足場や構図をチェックしておく

必要なアイテムの準備

ホタルの飛翔、つまり光の軌跡を美しく撮影するためには長時間露光でブレずに撮る必要がある。そのため、下記のような機材が必要となる。

  • カメラ
    • 三脚使用の際は、誤作動を防ぐため手ブレ補正機能をオフにしておく
  • レンズ
    • 広角レンズ(24mm〜35mm)
    • 明るいレンズ(F1.4〜F2.8)
    • 広角(24mm)〜標準レンズ(50mm程度)が使いやすい
    • 単焦点レンズならF値の低いもの
  • 三脚
    • カメラを三脚に固定して、手ブレを防ぐ
  • リモートシャッターレリーズ
    • リモートコマンダーがあると便利

広角レンズがお薦めである。ズームレンズの場合は、レンズの広角側(焦点距離が短い側)を使えば、より多くのホタルを写すことができる。

また、明るい単焦点レンズは光を多く取り入れることができるため、ノイズを抑えてホタルを撮影することができる。


撮影地と天候の把握

  • 適切な場所と時期
    • ホタルが多く飛ぶ場所と時期を事前に調査しておく
    • 湿度が高い夜や月明かりの少ない日が狙い目

撮影モードの設定

カメラの撮影モードは、絞り優先モード(A)に設定する。

  • ISO感度
    • 高めのISO値(1600〜3200)を設定する
    • ノイズと明るさのバランスから800〜1600に設定することも
    • ホタルの光をしっかり捉える
  • 絞り
    • 開放絞り(F1.4〜F2.8)に設定
    • できるだけ多くの光を取り込む
    • または、F1.8〜F4.0に設定
    • 明るいレンズが有利である
  • シャッター速度
    • 15〜30秒の長時間露光を試みる
    • 5〜30秒で光跡を捉えてみる
    • ホタルの光跡を美しく写せる可能性が高くなる

カメラの撮影モードをマニュアルモード(M)に設定して撮影する場合は下記のような設定にすると良い。

  • ISO感度
    • 100400程度に設定し、ノイズを抑える
    • 使用レンズの開放値がF2.8以下の場合、ISO400に設定
    • F3.5以上であれば、ISO800からISO1600に設定
  • 絞り
    • 開放
    • F8F16くらいに設定し、ホタル全体をシャープにする
  • シャッタースピード
    • 10秒前後

構図とフレーミング

  • 前景と背景を活かす
    • 自然の要素を取り入れ、ホタルの光だけでなく、周囲の風景も魅力的に撮影する
  • 構図に工夫を
    • 水面の反射や木々のシルエットを入れると奥行きのある写真になる
  • リードインライン
    • 木々や川の流れなど、視線を導く要素を活用して、写真に動きと深みを与える

撮影テクニック

  • 適切な場所に立つ
    • ホタルが多く飛ぶ場所を選び、背景に自然の美しさを活かす構図を選択する
  • フォーカス
    • ピントはマニュアルフォーカス(MF)にして、ライブビューで拡大しながら合わせる
    • 暗いシーンではオートフォーカス(AF)が合わない
    • マニュアルフォーカス(MF)では、MFアシストやピント拡大を使い、拡大しながらピントを合わせると良い 
    • 暗い場所ではAFが迷いやすいので事前にピントを固定しておく
  • 動かない
    • シャッターを押した後は、カメラを動かさないようにする
    • リモートシャッターやセルフタイマーを活用すると良い
  • 複数枚撮影試し撮り
    • ホタルが光り始めたら試し撮りをする
    • 試し撮りの結果から設定を調整する
    • 長時間露光を繰り返し撮影し、後でベストな写真を選ぶ
  • リラックス
    • ホタルが飛び交う様子を楽しみながら撮影する
    • 焦らずに、自然なタイミングを待つ
  • ホワイトバランス
    • 太陽光もしくはオートホワイトバランス(AWB)
    • 電球 or 蛍光灯に設定し、オートは避けよう!
  • 長秒時NR(ノイズリダクション):入
    • 1秒より長いシャッタースピードに設定すると、撮影直後にノイズを軽減するための処理を行う。この処理には、設定したシャッタースピードの長さと同じ時間がかかり、処理中は撮影できないので要注意。

撮影手順

  1. 背景となる写真を撮影する
  2. ホタルの光跡は見えるが、背景は暗く沈む程度の露出で複数枚撮影する
  3. ロック機構付きのリモートコマンダーを使うと便利
  4. ドライブモードを[連続撮影]にしてレリーズボタンをロックすれば、自動でシャッターを切り続ける。連続撮影時は、長秒時NR(ノイズリダクション)は[切]に設定する。

設定変更例

風景が明るくてホタルの光跡が見えにくい場合には、シャッタースピードを速くする、ISO感度を下げる。

ホタルの光跡は写っているが風景が暗すぎる場合には、シャッタースピードをBULBにして1分、2分と長めに露光する。 

ホタルの光跡が太く明るすぎる場合には、絞りを1~2段絞る。ノイズが出るのでISO感度を下げ、シャッタースピードを遅くする。


画像処理テクニック

多くのホタルの光跡を一枚の写真にする

三脚でカメラを固定し、フレーミング(構図)を変えずに複数枚撮影して画像処理ソフトで合成すると、一枚の写真にたくさんのホタルの光跡を表現できる。

明滅を繰り返しながら移動するたくさんのホタルをバランスよく合成すれば、記憶に残る光景により近い写真に仕上げることができる。

このような画像処理には、比較明合成ができる画像処理ソフトが必要となる。比較明合成は、複数の写真の明るい部分だけを重ねていくことができる。

比較明合成で光跡を重ねる  

複数枚の写真を合成して、ホタルの軌跡を描くと幻想的な仕上がりになる。


撮影マナーを守る

ホタルは光ることによって、オスとメスがコミュニケーションを図って子孫を残している。明かりへの配慮が必要である。

ホタルの撮影にはマナーを守って、安全にも気を配る必要がある。

フラッシュなどは決して使用しない(フラッシュ発光禁止!)。内蔵フラッシュ搭載カメラの場合は、フラッシュをポップアップしない。AF補助光は「切」に設定し、FINDER/MONITOR切換設定は「ファインダーのみ」に設定しておく。モニターミュートまたはモニター消灯を活用して適宜消灯するようにする。

カメラからの発光以外にも、車のライト、ハザードランプ、懐中電灯、スマートフォンの液晶画面などの明かりは、ホタルの繁殖行動を邪魔してしまうの使用を控えよう。

懐中電灯は赤セロファンで光量を抑えると良い。強い光はホタルの活動を妨げるから注意する。

また、他の鑑賞者や撮影者への配慮も必要である。明るいうちにカメラの設定を済ませておき、撮影中にカメラの液晶を確認する場合は黒い布を被るなどして周囲への配慮を忘れないようにしょう。

虫よけスプレーはNGである。ホタルも昆虫だから、使うと逃げてしまう。

静かに、そっと撮影すること。ホタルの生息地を荒らさず、他の観賞者にも配慮しよう!


あとがき

ホタルの飛翔を撮影するのは、結構難しい。だから、うまく撮影できたなら率直に喜べば良い。

ホタルが棲む里山はとても暗い場所であることがほとんどである。夕暮れなど少し明るい時間に行って、辺りの状況を確認しておくと良い。道が細いことも多いので、三脚を立てる位置など他の人の迷惑にならない場所をあらかじめ検討しておく。つまり、ホタル撮影では明るいうちに準備が撮影成功のポイントとなる。

また、夏場の夜間の撮影では虫に悩まされることが多い。適切な防虫対策を忘れずに行う必要がある。

ホタル撮影は、自然との対話みたいなものである。準備と優しさを忘れずに、夜の森で光の精霊たちとの「一期一会」の出会いを大切にしたいものである。

ほたるの里の環境保全活動

ホタルの乱舞は、初夏の風物詩の一つである。私が幼い頃には田舎の田んぼの周りでホタルが飛ぶのが当たり前の光景であった。しかし、現在はホタルを観るには限られた場所に行くしかない状況である。

ホタルは環境に敏感な生物であり、環境汚染が進んだ河川や農薬散布などが行われる田んぼでは生息しない。それは餌となるカワニナやタニシなどがそのような環境の場所では生育しないからである。

現在、ホタル観賞の名所になっている場所では、河川の清掃や洗剤など混ざった生活用水の不放流など積極的な環境保護が行われているか、または農薬を全く使用しない有機栽培の田んぼなどである。手つかずの自然が残されている場所もホタルの生息地ではあるが、そのような場所は本当に限られた場所になっている。

ほたるの里」と呼ばれる限られたホタルの生息地があるが、そこは地域住民や自治体の積極的な環境保全活動によって成り立っている「ホタルの生息保護区」の地域ばかりである。ホタルが飛ばない場所は、環境汚染が進んだ場所と言ってよい。つまり、ホタルの生息は環境汚染のバロメーターだ。

かつて日本の各地で観られたホタルの乱舞が現在では「ほたるの里」でしか見られなくなっているということは、それ以外の場所では環境汚染されているということだ。その限られた「ほたるの里」でのホタルの保護活動が維持されなければ、やがてホタルも絶滅危惧種になる可能性がある。そうなれば、ホタル前線も死語になってしまう。それを避けるにはどうすればよいか?

ホタルの保護活動、つまりは環境保全活動がもっと日本各地で積極的に行われてもよいのではないか。現状は、限られた数のボランティアの厚意に国民全体が甘えているように思う。何か自分にできることはないか。役に立つには何をすべきかを考えたい。


【参考資料】
ホタルの光を写し撮る | デジタル一眼カメラ α(アルファ)で写真撮影を楽しむ | 活用ガイド | デジタル一眼カメラ α(アルファ) | サポート・お問い合わせ | ソニー (sony.jp)
【ホタル撮影】プロ写真家が初心者向けに蛍の光跡の撮り方を解説します | 一眼レフの教科書| 写真教室フォトアドバイス【公式】 (camera-web.jp)

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