はじめに
ホタル(蛍)は、コウチュウ目(鞘翅目)ホタル科に分類される昆虫の総称で、発光することで知られる昆虫である。
日本でホタル(蛍)と言えば、ゲンジボタルやヘイケボタル、それにヒメボタルが有名である。
ゲンジボタルは、本州・四国・九州に分布し、その幼虫は清流に生息して、カワニナ(巻き貝の仲間)などを食して成長する。
ヘイケボタルは、ほぼ全国に分布し、その幼虫は小川の他、水田や池などにも生息し、カワニナやタニシなどを食して成長する。
一方、ヒメボタルの幼虫は陸生で、カタツムリなどの陸生貝を食べて成長し、成虫も森林内に生息することが多いという。
日本で最も有名なホタルといえば、ゲンジボタル(体長15 mm前後)を指すことが多い。ヘイケボタル(体長8 mm前後)よりも大きく、明らかに異なる特徴がある(下表参照)。
特性項目 | ゲンジボタル | ヘイケボタル |
---|---|---|
発光の強度 | 強い | あまり強くない 揺れるような光 |
飛び方 | 曲線的 | 直線的 |
明滅回数/分 | 25回~30回 | 30回~40回 |
成虫の出現時期 | 5月~7月頃 | 6月~8月頃 |
生息地 | 本州以南 | 日本全国 |
生息場所 | 清流 | 田んぼ、小川・池 |
餌 | カワニナ | タニシ、カワニナ |
ゲンジボタルは、本州以南の日本各地(おもに本州、四国、九州)に分布し、5月~6月にかけて孵化する。肉食性のコウチュウ(いわゆるカブトムシなどと同じ)仲間であるので清流に住むカワニナを餌にしている。(引用:ウィキペディア)
ゲンジボタルの成虫は初夏に発生するため、日本ではホタルは夏の風物詩と捉えられ、夜の蛍の発光を鑑賞する蛍狩りが行われる。(引用:ウィキペディア)
ゲンジボタルの乱舞は、5月~7月ぐらいに川沿いで見られる。発光は強く、飛び方は曲線的である。明滅回数は1分間に25回~30回ぐらいであることが知られている。
<目次> はじめに ホタル前線 ほたるの里・養父市奥米地【兵庫県】 ゲンジボタルの乱舞写真 ホタルはなぜ光るのか ホタルが飛ぶ時間と気象条件 ホタル鑑賞のマナー ほたるの里の環境保全活動 あとがき |
ホタル前線
ホタル前線とは、ある年の各地のホタルの初見日を結んでできる線のことをいう。桜であれば、観察の対象となる木(標本木)を観測して満開などを予測して、それを結んだ線が桜前線である。
ホタルの初見日とは、ゲンジボタルまたはヘイケボタルのいずれかの成虫が発光しながら飛んでいるのを初めてみた日をいう。
ホタルの初見観測は、気象庁によって3月下旬から沖縄地方で始まる。そしてホタル前線は、5月中旬~下旬に九州地方中部、四国地方南部、5月下旬に九州地方北部、中国地方南部、四国地方北部から近畿地方の一部に達する。
6月上旬に中国地方北部、近畿地方から東海地方、関東地方南部を結ぶ地域に達する。6月中旬~下旬に北陸地方、その後、7月下旬まで東北地方を北上し、そして北海道地方に達する。
ホタルの初見日の情報は、気象庁により提供されているが、ホタル前線は、梅雨前線に追いかけられる様相を呈する
ほたるの里・養父市奥米地【兵庫県】
夏の風物詩として「蛍狩り」は情緒がある。昔は、日本各地のどこでもホタルを観ることができたものであるが、現在ではそう簡単にホタルを観ることができなくなった。
兵庫県養父市奥米地【やぶしおくめいじ】は、ほたるの里でもある。養父市奥米地を流れる米地川流域は、環境省の「ふるさといきものの里」に選定されているゲンジボタルの生息地である。
ゲンジボタルの乱舞写真
養父市奥米地には豊かな自然が広がり、6月上旬~下旬の夜には清流の岸でゲンジボタルが乱舞する。それは 祭囃子のない静かな初夏に行われるホタルによるホタルのための祭りである。
暗闇の中のホタルの乱舞に見惚れてしまい、誰もが無口になる。
一期一会【いちごいちえ】とは、一生涯にただ一度会うかどうかわからぬほどの縁。出会いを大切にすることのたとえである。今宵みたホタルの乱舞は、一期一会の想い出となることだろう。
ホタルはなぜ光るのか
ホタルが光るのは、オスとメスが愛をささやき合う信号であると言われている。オスのホタルは、暗闇の中で光を出して飛びながら、自分の相手を探す。
メスのホタルは弱い光を発して、草や木の葉の上でじっと止まり、オスが来るのを待つ。オスはメスの光を見つけると、強い光を出してメスに信号を送り、それに答えるようにメスが同じリズムで強い光をオスに送るとやがて2匹は交尾する。
ホタルの発光は、ルシフェラーゼなどの酵素が混ざると酸化して光る特性を持っているからとされている。
ホタルが飛ぶ時間と気象条件
ホタルが最初に活動的に飛び交う時間は午後7時~9時頃といわれている。オス、メス両方とも光るが、飛んで光っているほとんどがオスである。それ以降はオスとメスのどちらもが草や木の葉にとまって光るので、乱舞する様子が見たいのであれば午後8時前後がお勧めらしい。
そして2回目に飛ぶのが午後11時前後で、最後の3回目に飛び始めるのは夜中の午前2時頃とされている。
ホタルの活動しやすい気候は、風が少ない雨あがりの湿度が高くて、蒸し暑い日とされている。このような気象条件を選んで行くとホタルのより活発な活動を目にすることができるかも知れない。勿論、月あかりの夜よりは暗い方がよりよく見えるはずである。
つまり新月で、風がなく、雨あがりの湿度が高くて、蒸し暑い夏の夜が、絶好のホタルの観察日和ということである。
ホタル鑑賞のマナー
ホタルの鑑賞にはマナーを守る必要がある。
マナーとは、ホタルを捕まえない、ホタルに光を当てない(フラッシュ撮影しない)などの他に、声を出さずに静かにすることである。
また、ホタルは環境に敏感な生物なので、環境を汚さないようゴミは捨てずに必ず持ち帰ることがマナーであるとされる。
「ほたるの里」の環境保全活動
現在、ホタル観賞の名所になっている場所では、河川の清掃や洗剤など混ざった生活用水の不放流など積極的な環境保護が行われているか、または農薬を全く使用しない有機栽培の田んぼなどである。手つかずの自然が残されている場所もホタルの生息地ではあるが、そのような場所は本当に限られた場所になっている。
「ほたるの里」と呼ばれる限られたホタルの生息地があるが、そこは地域住民や自治体の積極的な環境保全活動によって成り立っている「ホタルの生息保護区」の地域ばかりである。
ホタルが飛ばない場所は、環境汚染が進んだ場所と言ってよい。つまり、ホタルの生息は環境汚染のバロメーターだ。
あとがき
ホタルの乱舞は、初夏の風物詩の一つである。私が幼い頃には田舎の田んぼの周りでホタルが飛ぶのが当たり前の光景であった。
しかし、現在はホタルを観るには限られた場所に行くしかない状況である。
ホタルは環境に敏感な生物であり、環境汚染が進んだ河川や農薬散布などが行われる田んぼでは生息しない。それは餌となるカワニナやタニシなどがそのような環境の場所では生育しないからである。
かつて日本の各地で観られたホタルの乱舞が現在では「ほたるの里」でしか見られなくなっているということは、それ以外の場所では環境汚染されているということだ。
その限られた「ほたるの里」でのホタルの保護活動が維持されなければ、やがてホタルも絶滅危惧種になる可能性がある。そうなれば、ホタル前線も死語になってしまう。それを避けるにはどうすればよいか?
ホタルの保護活動、つまりは環境保全活動がもっと日本各地で積極的に行われてもよいのではないか。現状は、限られた数のボランティアの厚意に国民全体が甘えているように思う。何か自分にできることはないか。役に立つには何をすべきかを考えたい。