はじめに
エンディングノートとは、自分の人生の終末について記したノートのことである。自分の万が一に備えて、家族あるいは友人に伝えておきたいことや自分の希望などを書き留めておくものとされている。
自分の人生の終末について記したノートであるため、エンディングノートは死をイメージしやすいと思う。しかし、エンディングノートは決して「死に向かう」ためのものではないと思う。むしろ、自分の人生を振り返り、自分を見つめ直すきっかけとなり、残りの人生をより豊かな気持ちで生きていくために、頭の中を整理することができる便利なツールの一つと捉えるべきであろう。
本稿では、私たちシニア世代が終活の一つとして、エンディングノートを作成することの効用と、作成する際に参考となるようなアイデアやヒントを記したいと思う。
エンディングノートとは
エンディングノートは、遺言書のように決められた事柄だけに縛られることなく、自由に自分の意思や希望を書き留めることができる。しかし、エンディングノートと遺言書の違いをよく理解して、それぞれの特徴を上手に活用する必要がある。
遺言書とエンディングノートの決定的な違いは、法的効力があるかないかである。どちらも遺産相続などについて希望を書くことができるが、遺言書の内容は法的に強制力があり、エンディングノートには法的な強制力はない。
遺言書がなければ、いくらエンディングノートに希望を書いていても100%叶えられるという保証はない。しかしながら、遺産の相続トラブルが起きそうにない場合にはエンディングノートの作成で十分であり、遺言書を作成する必要はないのではないかと思ってしまう。
その理由は、遺言書には何を書いても良いというわけではなく、
遺言書に書くことができるのは「死後」に関してのみで、範囲も遺産相続や子どもの認知など厳格に決められているからである。
一方、エンディングノートは、法的な強制力はないながらも遺産相続などについて希望も書けるし、「生きている間」のことについても書くことができる。残された家族が判断に困らないよう、本人が不治の病気や不慮の事故にあった時の延命措置についてや認知症を患った際の介護、葬儀・お墓への埋葬など、様々な内容について本人の判断や希望を判断力のあるうちに記しておける。
残された家族が判断に困らないよう、本人の身に起きるいざという時に備えるのがエンディングノートの役割であろうと私は思っている。そして、エンディングノートは、本来、そのような目的のためにこそ作成しておくべきであると思う。
したがって、エンディングノートには市販の専用ノートを活用することもできるが、普通のノートや手紙形式でもOKである。法的効力がない分、気軽に書いて、何度でも書き直しすれば良いと思う。 市販のエンディングノートでは『一番わかりやすいエンディングノート』(東優監修・リベラル社刊)がお薦めである。
エンディングノートの目的
エンディングノートは、遺言書のように決められた事柄に縛られることなく、自由に自分の意思や希望を書き留められる。では、エンディングノートを書く目的は一体何だろうか?
ちなみに私がエンディングノートに期待する目的は次のようなものである。
- 自分の思いを託す、家族へのメッセージ
- 家族の負担を減らす
- 自分の経済状況を見える化する
- 残りの人生と向き合う
自分の思いを託す、家族へのメッセージ
エンディングノートを書くことで、自分以外に家族も知らなかったことや想い出を家族と共有することができ、遺された家族への愛情を示すこともできる。家族へのメッセージや形見分けリストなどで、自分の思いを伝えられることを期待したい。
家族の負担を減らす
エンディングノートには、認知症になった場合における介護の希望や、不慮の事故に会った場合の延命措置のこと、死後における葬儀や費用の捻出方法などを明記しておきたい。
そうすれば、私自身の判断力が衰えたり、意思表示ができなくなった場合においても、家族が判断に悩んだり迷ったりせずに容易に判断・選択できるだろう。そうすれば、残された家族は、辛い気持ちも和らぐのではないかと思う。エンディングノートの利用価値は、本来はそのためにあるのではないかとさえ私は思う。
自分の経済状況を見える化
自分の資産を正確に把握することはエンディングノートを作成する上でも大切な作業であると思う。エンディングノートに記すことで、自分の現在の経済状況を客観的に把握できるので、残りの人生と終末期をどのように過ごすべきかを考え、不足があるなら準備するのに役立つとはずである。
また、資産を明確にすることは遺産相続にも関わる大事なことであるので、家族と情報共有しておかなければならない。
残りの人生と向き合う
エンディングノートを作成することは、遺された家族のためだけでなく終活をする上でも役に立つ。何故なら、残りの人生を充実したものにするために、自分の人生を見つめ直すきっかけとなるからである。
エンディングノートの書き方
エンディングノートの書き方に決まった形式はない。何でも自由に書けるので、エンディングノートを書く目的を明確にして、その目的に合った書き方をすれば良い。
例えば、人生を振り返りたいなら、自分史や履歴をメインに書けば良い。楽しかった想い出や困難を乗り越えた苦労話を書いて残したいなら、それを自分史のように書いて、自分の人生を振り返りながら自分の心をワクワクさせたり、充足感(満足感)を味わうこともできよう。逆に、書くことで、高揚感を落ち着かせることができるかも知れない。
もし、自分の万が一のことが起こったときの対処法を重視するならば、葬儀や相続の項目が充実したものになるはずである。例えば、自分の死後に家族の負担を減らしたい、相続や葬儀のやり方に希望がある場合には、それぞれの項目に沿って自分の要望をきちんと書くことが重要となるであろう。
あるいは、自分自身の残り人生に備忘録として活用したいのであるならば、銀行口座や証券口座の項目を備忘録として活用できるようエンディングノートにも忘れずに記録しておくべきであると思う。昨今、銀行口座や証券口座はネットでアクセスすることが多いのでパソコン使用時のログインパスワードや取引に必要な暗証番号などを記録しておく必要もある。
エンディングノートへの記載事項
エンディングノートは自由記載であるから、必携項目は特に決まっているわけではない。しかしながら、本人の死亡後には遺族のためのノートとなるわけであるから、終末期医療や葬儀・お墓などの希望や連絡先、財産などの情報を記しておいた方が実用的であるのは言うまでもない。そして、何よりも家族に自分の思いが伝わるようなメッセージが残しておくことが大切である。
したがって、エンディングノートへの記載事項としては、一般的には下記のような事項を記載しておくと良いのではなかろうか。
- 自分の基本情報
- 財産・資産について
- 身の回りのこと
- 家族・親族について
- 親しい友人・知人について
- 医療・介護について
- 葬儀・お墓について
- 相続・遺言について
- 連絡先
- 家族へのメッセージ
自分の基本情報
エンディングノートに自分の基本情報を書くことで、万一の時に家族が慌てふためくことがないようにしておくことができるはずである。例えば、下記のような事項を一目瞭然で分かるように記載しておけば、自分自身を振り返り、今後何をすべきかが見え、新しい自分を発見できるかも知れない。何より家族への情報提供となるはずである。
<記載事項例>
- 生年月日
- 本籍地
- 血液型
- 家族
- 家系図
- 学歴、職歴、資格
- マイナンバー
- 運転免許証番号、健康保険証番号
- 自分史
- 人生のターニングポイント
- 性格、信念
- 人脈、仲間
- 趣味・特技
- 好きな食べ物
財産・資産について
年金証書や保険の証書、介護保険証や健康保険証、通帳・印鑑、貴重品などの保管場所は家族であっても知らないケースがある。
それらの保管場所をエンディングノートに書いておけば家族が対応しやすくなるはずである。
<記載事項例>
- 預貯金(現金資産)
- 不動産
- 有価証券
- 貴金属や美術品
- 価値のあるコレクション
身の回りのこと
ブログやSNSなどのデジタル情報は、ログインIDやパスワードが分からないと永久に残ってしまう。アドレスやパスワード、退会手続きなどの操作方法をエンディングノートに記しておくと良いと思う。
家族・親族について
家族や親族との想い出や感謝の気持ちなどを残しておくと良いと思う。形見分けリストを作っておくのも良いかも知れない。誰に何を渡そうかと考えるのも想い出を振り返る良い機会になるはずである。
親しい友人・知人について
友人や知人、お世話になった方々への感謝の言葉を綴って、日頃言えなかった「ありがとう」の気持ちを残しておきたいものだ。
写真を一緒に貼っておくのも良いかも知れない。
医療・介護について
不慮の事故などで終末状態になった時、家族は延命措置などの決断を迫られることがある。家族の精神的負担を軽減させるためにも自分で判断ができなくなった時の対応方法を事前に決めておくことは大切であろう。
また、認知症を発症して家族と意思疎通ができなくなった場合のことも考えて、介護方法のことや費用捻出方法などについても記載しておくべきであろう。
葬儀・お墓について
密葬や家族葬など葬儀の形態が変化してきている。家族と自分の死について話しづらい場合には、自分がどのような葬儀をしたいかやお墓のことなどについても記載しておくと良い。
<記載事項例>
- 信仰する宗教(仏教の宗派など)
- 葬儀の方法(密葬・家族葬など)
- 納骨の方法・場所
- お墓について
- 遺影に使う写真
相続・遺言について
遺された家族同士で相続トラブルにならないよう遺言を残しているなら保管場所を記しておくと良い。
また、預貯金(現金資産)、不動産、有価証券などの相続財産を整理しておくのも大切である。借金やローンも相続財産となるため、正直に書いておかなければならない。
連絡先
自分の親族や親しい友人の連絡先を記入しておくと良い。自分が亡くなったことを連絡してほしい人がいる場合には、その旨記載しておくと良いかも知れない。
家族へのメッセージ
自分史や家系図などを書くことで、これまでの人生を振り返ることができる。家族への感謝のメッセージを残すことで、残りの人生において家族との関わりをより充実したものにするためのヒントが得られるかも知れない。
エンディングノートの見直し
エンディングノートは、一度書いたら終わりというわけではないはずである。定期的に見直して、心境の変化や身体的変化、資産状況などが変わった時は書き直す、つまりアップデートする必要がある。
毎年1回、日付を決めてエンディングノートを見直すのもその機会に人生を振り返られるので良いかも知れない。
エンディングノートの保管
エンディングノートにはパスワードや通帳の保管場所など重要な情報を記載する場合がある。したがって、自己責任の下、簡単には見つからない場所に厳重に保管する必要がある。
しかしながら、見つけるのに苦労する場所だといざという時に誰にも見つからない恐れもある。だから信頼できる家族や親類に存在を教えておくのも良いアイデアかも知れない。
あとがき
エンディングノートは、本来は自分の人生の終末期について記すものであるが、決して死を迎えるためではなく、より良い人生を過ごし、遺される家族の負担を軽減し、より良い人生の終末期を迎えるためのノートと捉えたい。
エンディングノートの書き方は自由であり、人によっては書くべきことが多岐にわたり、何からどう始めればいいのか分かりずらいものである。そのため書くのが億劫になり、先の話だからと後回しにしている人も多いのも事実である。
しかし、生きている限り、いつ何が起こっても不思議ではない。
エンディングノートを書くことは早ければ早いほどよいと言われる所以である。
エンディングノートを書くことで、自分自身を見つめ直し、自分の終末期を想像してみることで残りの人生をより豊かに変える機会にしたいと思う。