はじめに
文明が進化し、地球上のあらゆる場所が地図に記されるようになった現代。 それでもなお、誰とも接触せず、独自の文化を守り続ける人々が存在する。
彼らはイゾラド(Isolados)――ポルトガル語で「孤立した人々」を意味する、アマゾンの奥地で暮らす未接触部族である。
私がイゾラドについて知ったのは、2025年11月16日(日)に放映された『NHKスペシャル・イゾラド 最後の森の奥で』というNHK制作の特別番組である。この番組では、南米アマゾンの奥地で10年ぶりに姿を現したイゾラドの大集団に焦点を当て、彼らが周辺集落に接近・接触する緊迫の状況や、過去に出会った“あの家族”との再会が描かれた。 また、イゾラドの変化や、彼らを取り巻く環境の異変についても最新映像を交えて報じられ、大きな反響を呼んだので、記憶に新しい。
本稿では、イゾラドとは何者なのか、なぜ彼らが注目されているのか、その謎について整理してみたい。
イゾラドとは何者か?
「イゾラド」とは、外部社会と意図的に接触を持たず、独自の生活を続けている先住民族のこと。 主にブラジルのアマゾン熱帯雨林の奥地に暮らしており、政府や研究者によってその存在が確認されているものの、直接的な接触は避けられているのが現状である。

✔ 名前も言語も不明なまま
多くのイゾラドは、部族名すら分かっていない。 彼らの言語、信仰、生活様式は、観察や空撮、衛星画像などを通じて間接的に推測されている。
なぜ接触しないのか?
イゾラドの多くは、過去に外部との接触で病気や暴力に苦しんだ歴史を持っている。 そのため、彼ら自身が外の世界を拒み、自らの文化と命を守るために孤立を選んでいると考えられている。
また、ブラジル政府も「非接触政策」を採用しており、イゾラドとの強制的な接触を禁止している。 これは、彼らの健康と文化を守るための重要な措置であるという。
どうやって存在が確認されているの?
- 衛星画像やドローンによる空撮
- 森林の中に現れる畑や住居跡から、集落の存在が推測される
- 周辺部族の証言
- 他の先住民族が、イゾラドと間接的に接触した経験を語ることがある
- 現地調査隊の観察
- 遠くからの観察や、残された道具・痕跡の分析によって情報が集められている
イゾラドと接触した事例
イゾラドと接触した過去の事例としては以下のような報告が知られている。
1. フネオ族(ブラジル・アクレ州)
2014年、ブラジルのアクレ州で、イゾラドとされていた若い男性たちが自ら近隣の先住民族の村に現れたという出来事が報告されている。
彼らは、違法伐採や麻薬密輸組織の侵入によって生活圏を追われた可能性が高いとされている。 接触後、彼らはインフルエンザなどの感染症にかかり、緊急医療支援を受けることになった。
この事例は、外部との接触が命に関わるリスクを伴うことを改めて示し、ブラジル政府が「非接触政策」を強化するきっかけにもなったと言われている。
2. ヤノマミ族の一部(ベネズエラ・ブラジル国境)
ヤノマミ族は広く知られたアマゾンの先住民族であるが、その中には長らく外部と接触を持たなかった集団も存在していた。
1970年代〜80年代にかけて、金鉱採掘者(ガリンペイロ)たちがヤノマミの土地に侵入し、強制的な接触や暴力、病気の蔓延が発生した。 これにより、多くの命が失われ、文化的な衝撃も大きかったとされている。
3. タスカ族(ペルー・ブラジル国境付近)
2000年代初頭、ペルーとブラジルの国境地帯で、タスカ族とみられる未接触部族が一時的に姿を現したという報告があった。
森林伐採や石油開発の影響で、彼らの移動ルートや生活圏が圧迫されていたと考えられている。
接触のリスクと教訓
これらの事例からわかるのは、未接触部族との接触は非常にデリケートで、命に関わる問題だということである。
外部の病原体に免疫がない彼らにとっては、たった一度の接触が致命的になることもある。だからこそ、現在では「彼らの意思を尊重し、遠くから見守る」という非接触・非介入の原則が国際的にも重視されている。
イゾラドが直面する危機
アマゾンの森林破壊や違法伐採、鉱山開発などにより、イゾラドの生活圏は年々脅かされている。
彼らの存在は、人類の多様性と自然との共生の象徴とも言えるものである。 そのため、国際的にも保護の必要性が叫ばれている。
私たちにできること
イゾラドの存在を知ることは、現代社会が見落としがちな「多様な生き方」への理解を深める第一歩である。 彼らの文化や命を守るために、私たちができるのは――
- 森林保護や先住民族支援の活動に関心を持つ
- 違法伐採や開発に対する問題意識を持つ
- 多様な文化の価値を尊重する
先住民族保護の国際的施策
先住民族の保護は、人権・文化・環境の多様性を守るためにとても重要な国際的課題である。先住民族保護の国際的な取り組みとしては、以下のような活動が知られている。
国連の「先住民族の権利に関する国連宣言(UNDRIP)」
2007年に国連総会で採択されたこの宣言は、先住民族の権利を包括的に保障する国際的な基準となっている。
主な内容:
- 自己決定権
- 自分たちの政治・経済・社会・文化を決める権利
- 伝統的な土地・資源への権利
- 言語・文化・宗教の保護
- 自由な事前の情報に基づく同意(FPIC)の原則
これは、開発や政策の前に先住民族の同意を得ることが必要という大切な考え方である。
ILO第169号条約(先住民族および部族民条約)
国際労働機関(ILO)が1989年に採択した条約で、先住民族の労働・生活・文化の権利を保護する法的枠組みである。
特徴:
- 土地と資源の権利を明確に保障
- 教育・医療・雇用における平等な機会の確保
- 伝統的な社会制度や慣習の尊重
しかし、批准している国は限られていて、日本はまだ未批准であるらしい。
NGOの活動:
Survival International
世界中の先住民族の権利を守るために活動している国際NGO。 違法伐採や土地収奪、強制移住などに反対し、未接触部族(イゾラド)を含む先住民族の声を世界に届けている。
その他の団体:
- Cultural Survival(文化的権利の保護)
- Amazon Watch(アマゾンの先住民族と環境保護)
- Rainforest Foundation(熱帯雨林とその住民の支援)
環境保護と先住民族の連携
実は、先住民族の土地は世界の生物多様性の80%以上を保有しているとも言われている! だから、彼らの土地と文化を守ることは、地球環境を守ることにもつながるとされている。
先住民族の保護は、単なる人道的な問題だけじゃなく、人類全体の未来に関わる大切なテーマ。 彼らの知恵や暮らしは、持続可能な社会のヒントにもなっているんだ。
あとがき
文明の影に生きる“もうひとつの世界”
イゾラドは、私たちが当たり前と思っている「文明」とは異なる価値観で生きる人々である。 その存在は、人間の可能性と自然とのつながりを問い直すきっかけを与えてくれる。
アマゾンの奥深く、誰にも知られず、しかし確かに生きている―― イゾラドの謎は、私たち自身の未来を映す鏡なのかもしれない。自然と人間の関係に少しでも関心がある者なら興味が尽きない話題である。
先住民族の保護は、単なる人道的な問題だけではなく、人類全体の未来に関わる大切なテーマでもある。 彼らの知恵や暮らしは、持続可能な社会のヒントにもなっている。
日本のアイヌ民族に関する国際的な視点についても私たちは決して忘れていけないと思う。
【参考資料】
| FUNAI(ブラジル先住民保護財団) |
| Survival International |