はじめに
私はツバキ(椿)の花木が大好きである。下の写真は、私が還暦の記念に自宅の庭に植えた「夢」という名の椿である。
名前に魅せられて衝動買いした苗木であったが、今では他の椿に先駆けて毎年、多くの花を咲かせ、私を癒してくれる。12月から咲き始めて3月まで咲き続ける。花期が長いツバキである。
「夢」は、叶えば「目標」となり、叶わなければ「妄想」となる。この秋桜に似た花弁をもつ椿の苗木を前に私はどんな夢を抱いたのかは胸にしまい、椿の品種について書いてみたいと思う。
椿の品種ですぐに脳裏に浮ぶのは、赤部赤人の歌碑で有名な観光スポットである万葉の岬のつばき園のことである。このつばき園には約30品種、約200本の椿が植栽されていて有名な椿の品種を学ぶことができるし、開花の時期が合えば実物の花弁を観ることができる。
<目次> 万葉の岬 万葉の岬の「つばき園」 ツバキ(椿)について ツバキの種類(原種、園芸品種) 自宅の庭の椿たち |
万葉の岬
万葉の岬(兵庫県相生市相生金ケ崎5321)は、相生湾(播磨灘に面する湾)の東端にある金ヶ崎【かねがさき】の岬である。
奈良時代の歌人、赤部赤人【やまべのあかひと】がこの地で歌を詠み、その歌が万葉集に記載されていることからこの岬を「万葉の岬」と呼ぶらしい。
【山部赤人が詠んだ歌(万葉集巻三・三五七)】 「縄の浦ゆ 背向に見ゆる 奥つ島 漕ぎ廻る舟は 釣しすらしも」 |
万葉の岬(金ケ崎)は、 相生湾(瀬戸内海)が180度展望できる絶景スポットであり、晴れた日には、東は明石海峡大橋、南に四国の稜線、西は牛窓まで見通すことができるという。ここから眺める朝日や夕日もきっと素晴らしいに違いない。
万葉の岬・つばき園
万葉の岬(金ケ崎)には、相生市の市木にもなっている椿が咲き誇る「つばき園」がある。園内には約30品種、約200本の椿が植栽されており、12月~4月にかけて開花するという。
残念ながら、私が訪ねた3月上旬には4種ほどのツバキしか咲いていなかった。それでも相生湾を見ながらゆっくりと椿を鑑賞することができ、十分に楽しむことができた。
ツバキ(椿)について
ツバキ、植物学上はヤブツバキ(藪椿)は、学名をCamellia japonicaといい、ツバキ科ツバキ属の常緑高木で、光沢のある濃い緑の葉をもつ(広葉樹)。
学名から日本原産の植物であることが分かる。和名としてのツバキの名前の由来には下記のような諸説が知られている。
- 厚みのある葉の意味で「あつば木」
- つややかな葉の「艶葉木(つやばき)」
- 光沢のある葉の「光沢木(つやき)」など
葉の美しさがツバキの名前の由来とされるのは、ツバキに特徴的なことである。
私が庭木にツバキを好んで植える理由もこの葉の美しさに惹かれてのことである。勿論、ツバキの花も好きであるが、開花期間が葉を愛でる期間よりも短いという単純な理由でもある。
一般的にツバキといえば、野生種(Camellia japonica)とこの野生種を交配親にもつ園芸品種を指し、さらにはツバキ属全体を指す。そのため園芸の流通の現場では間違いを避けるため、野生種についてはヤブツバキと呼ぶこともあるという。
ツバキの種類(原種、園芸品種)
野生種を元にして数多くの園芸品種が産み出されおり、現在では日本国内だけでも2千種以上のツバキの品種が存在するという。
到底、素人の私にすべてが調べられるわけもなく、ヤブツバキとしてよく名が出てくるものだけを下記に示すことにした。
加茂本阿弥(かもほんなみ) |
代表的な京ツバキ。 大輪一重椀咲きの白花で、蕾が丸々と膨らむと共に中央から雄蕊が一本飛び出すことも特徴的なツバキ。 |
岩根絞(いわねしぼり) |
江戸ツバキの一種。 中輪半八重で紅色地に白斑が入るのが特徴。白斑が多すぎないものがよしとされている。中輪で半八重咲きの花を咲かせ、白い花びらに紅色の絞りが入る美しい品種である。 |
太郎冠者(たろうかじゃ) 別名:有楽(ゆうらく) |
江戸ツバキの一種。 花色は紫みを帯びたピンクで、1月から4月に咲く早咲きの一重中輪のツバキ。江戸時代から茶花として珍重されてきた。紫味を帯びた花色や、子房が有毛であることなど、中国のツバキの特徴も示すが詳細は不明。葯は退化して花粉をつくらないがタネをつける性質はある。タネをまくと白芯の個体が生まれることが多いことから、「胡蝶佗助」や「数寄屋」などのワビスケツバキの母木であると推測されている。 |
玉之浦(たまのうら) |
紅地に鮮やかな白覆輪が入る一重中輪。長崎県五島列島の福江島で発見されたヤブツバキ。五島列島が誇る名花。ただし、増殖用の穂木が乱獲されたため、原木は枯死して現存しないという。 |
玉霞(たまがすみ) |
白地または淡いピンク地に紅の小絞り、吹っ掛け絞りが入る一重中輪で、愛らしい抱え咲きのツバキ。「抱え咲き」「玉咲き」と呼ばれる咲き方が特徴的である。蕾が咲きかけの時期は特に愛らしい姿を見せる。12月~4月までと花期が長い。よくタネを結ぶのも特徴。愛知県で作出された。 |
藻汐(もしお) |
江戸ツバキの一種。 濃朱紅色の八重蓮華咲き中・大輪のツバキ。バラのような雰囲気の咲き方が特徴的である。花期は4月。絞り咲きの名花「沖の浪」の枝変わりとされる。 |
蝦夷錦(えぞにしき) |
代表的な江戸ツバキ。白地または淡いピンク地に濃紅の縦絞り、小絞りが入る半八重中輪。葉は強く波打ち、3~4月に咲く。 |
草紙洗(そうしあらい) |
江戸ツバキの一種。ピンク地に濃い紅の小絞りが密に入る八重咲き大輪のツバキ。名の由来は能曲『草紙洗』で、この花の流れるような絞り柄が、小野小町が草紙に書き加えた新たな墨を洗い落とす様子を連想させることによるらしい。 |
卜伴(ぼくはん) 別名:月光(げっこう) |
江戸ツバキの一種。 濃紅の外弁と密集した白色の唐子弁(雄しべが小花弁に変形)とのコントラストが美しい小輪のツバキ。3~4月に咲く。名の由来は茶人卜伴によって植えられたから(伝)。 |
菱唐糸(ひしからいと) |
江戸ツバキの一種。蓮華咲きと呼ばれる咲き方をすることが特徴的。ピンク色の半八重咲きであるが、中央に白色の旗弁が集まるため唐子咲きに分類される。外弁は中折れして樋状となる。立体感のある端正な花形の小輪のツバキ。 |
村下(むらげ) |
濃紅の一重咲き極小輪のツバキ。島根県奥出雲で発見されたヤブツバキの枝変わりとされる。葯が退化して花粉ができない白蕊となっている。いわゆる「侘び芯ツバキ」と呼ばれるものである。名の由来は、製鉄に従事する職人のことを指し、燃えるような朱紅色が製鉄の火色に似ていることから命名されたという。 |
「江戸ツバキ」というのは、江戸時代に日本で生まれ、今でも名花として人々を魅了する古典品種の呼称のようである。
一方、「京ツバキ」とは平安時代に日本で生まれ、今日でも名花と呼ばれるツバキを指すのなのだろうか? 名の由来は不明だ。
自宅の庭の椿たち
最後に、現在、自宅の庭木として私を楽しませてくれているツバキの花の写真を貼ることにする。
品種名に間違いがないであろうか? 率直に言おう。少し不安である。でも多分だが、大丈夫だと思う。
昨年、庭に「赤春の台」(真っ赤な八重咲きのツバキ)の苗木を植えた。しかし、残念ながら花を咲かさなかった。花が咲いたら、紹介したいと思う。