はじめに
日本庭園とは、日本の庭園様式の総称である。池泉・庭石・植木・橋・東屋【あずまや】・茶室などを絵画的に配置した、日本風の庭園が日本庭園であるとされる(引用:広辞苑) 。
この日本風の庭園とはどうゆう庭園のことをいうのだろうか?
自然の景観を人工的に構成した日本の造形空間で、基本的には観賞や散策のために住居の周囲に樹木や石を配置し、築山や泉池などを築いた庭園のようだ。
極楽浄土を現世に具現化しようとした浄土庭園も日本庭園の一様式かも知れない。
有名な雪舟禅師は作庭にも造詣が深く、雪舟がデザインしたと伝わる庭園が各地に残され、特に4大雪舟庭園として有名である。そのうち島根県益田市の萬福寺や医光院の雪舟庭園、山口市の常栄寺庭園「雪舟庭」に行って来たのでそのときの写真を紹介したい。
さらに、最近、島根旅行をして池泉回遊式庭園である由志園と、池泉鑑賞式庭園である足立美術館併設の日本庭園を観て回ったので、その際に撮った写真を是非、ご覧頂きたい。
読者の皆さんもきっと日本庭園に興味を持ち、出かけて行きたくなるはずである。
<目次> はじめに 日本庭園の様式 池泉庭園 ・舟遊式 ・鑑賞式 ・回遊式 枯山水 露地・茶庭 浄土庭園 雪舟庭園 萬福寺・雪舟庭園【島根県】 医光院・雪舟庭園【島根県】 常栄寺・雪舟庭【山口県】 池泉回遊式日本庭園 由志園【島根県】 池泉鑑賞式日本庭園 足立美術館の庭園【島根県】 あとがき |
日本庭園の様式
伝統的な日本庭園の様式は、池泉庭園【ちせんていえん】、枯山水【かれさんすい】、露地(茶庭)の3つに大別されるという。
池泉庭園
池泉庭園とは、自然の景色を凝縮して創られる庭園の様式で、山があり、川があり、海があるなどの庭である。
枯山水とは異なり、「水」の要素が取り入れられているのが特徴と言える。
池泉庭園の様式は、さらに庭園を鑑賞する方法によっても次の三つに分類される。
- 舟遊式:池の中を舟遊びしながら鑑賞する方式
- 鑑賞式:座敷に座って眺めて鑑賞する方式
- 回遊式:順路を定めて歩きながら鑑賞する方式
舟遊式
舟遊式は、池に舟を浮かべ、その舟から庭を鑑賞する方式である。舟からの鑑賞になるので、低い視線で景色を楽しむことができるという。
舟からは360度の景色を見渡すことができるという特徴がある。私自身は、この舟遊式庭園を訪れた経験はない。
鑑賞式
鑑賞式とは、座敷に座ったまま庭園を眺めて鑑賞する方式である。
この鑑賞式の庭園は、舟遊式や回遊式の庭園と異なり、あらかじめ見るポイント(視点場)が決まっており、その場所から見ると奥行きや設計者の意図が感じられる構成になっている。
庭園名 | 所在地 |
---|---|
瑠璃光院 | 京都市左京区上高野東山55 |
東福寺 | 京都市東山区本町15-778 |
回遊式
回遊式は、池や築山の周りを順路を定めて歩きながら鑑賞する方式である。歩くごとに視点が変わり、季節、時間、天候などの変化を楽しむことができるのが特徴である。
私は、この回遊式の庭園が好きである。それは、自分の気に入ったスポットを探し、自分の好きなアングルで、美しいと思った瞬間を写真を撮ることができるからである。
安土桃山時代には、二条城二の丸や醍醐寺三宝院などのような豪快な意匠の庭園が構築された。
また、江戸時代には、 桂離宮や修学院離宮のような池の周囲に茶室や書院を配置して園路を通じて散策することができる回遊式庭園が造営された。
庭園名 | 所在地 |
---|---|
古峯園 | 栃木県鹿沼市草久3027 |
偕楽園 | 茨城県水戸市常磐町1-3-3 |
浜離宮恩賜庭園 | 東京都中央区浜離宮庭園1-1 |
六義園 | 東京都文京区本駒込6 |
清澄庭園 | 東京都江東区清澄3丁目3-9 |
三渓園 | 横浜市中区本牧三之谷58-1 |
兼六園 | 石川県金沢市兼六町1 |
神泉苑 | 京都市中京区御池通神泉苑 |
二条城二の丸庭園 | 京都市中京区二条通堀川 |
醍醐寺三宝院 | 京都府京都市伏見区醍醐東大路町 |
桂離宮 | 京都市西京区桂 |
修学院離宮 | 京都市左京区修学院 |
三室戸寺 | 京都府宇治市莵道滋賀谷21 |
後楽園 | 岡山県岡山市北区後楽園1-5 |
栗林公園 | 香川県高松市栗林町 |
水前寺成趣園 | 熊本県熊本市中央区水前寺公園8-1 |
枯山水
枯山水【かれさんすい】とは、大海や渓谷、滝などの雄大な大自然の景観を一滴の水も用いずに、石と砂のみで表現する庭園様式のことである。
室町時代に伝わった宋・明の水墨画【すいぼくが】の影響を受けているという。水墨画とは墨の濃淡のみによって描いた山水画のことであり、山水画とは、山岳や河水などの、自然の景観を描いた絵画のことである。(小学館・デジタル大辞泉)
池泉庭園とは異なり、枯山水には「水」の要素がなく、砂、石、苔などによって水を表現表現する。
枯山水の庭園には、須弥山【しゅみせん】と三尊石【さんぞんせき】が石組みで表現されることが多い。
須弥山というのは、仏教の世界観において、その中心にあると考えられる想像上の山である。
一方、三尊石というのは、仏教の三尊仏になぞられ組まれた3個の立石のことである。 中央に大きな中尊石、左右に脇侍石【きょうじせき】を据えて構成される。
回遊式池泉庭園とは異なり、散策が目的の庭園ではないため、室内や縁側から静かに鑑賞するように作られている。
枯山水の庭園には決して派手さがあるわけではないが、侘び・寂びを感じながら静かな時間を過ごせるという魅力がある。
室町時代には石と白砂を利用して禅的な空間を表現した観賞本位の石庭が流行したようだ。
枯山水の庭園としては、龍安寺(京都)の庭園が有名である。
庭園名 | 所在地 |
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龍安寺 | 京都市右京区龍安寺御陵下町13 |
大仙院・方丈庭園 | 京都府京都市北区紫野大徳寺町54-1 |
慈光院庭園 | 奈良県大和郡山市小泉町 |
露地・茶庭
露地とは、門から入り茶室へと至る道すがら(園路)に自然の景を盛り込んだものをいう。
千利休が大成した茶の湯の文化から影響された様式で、茶室に付属して設けられた茶庭とも呼ばれる。
茶室に入る前に雑念を払い、心を穏やかにするための空間で、山中を模した庭の中を飛び石や延段を伝って茶室へ導く。
安土桃山時代には、大徳寺孤篷庵庭園【こほうあんていえん】や慈光院庭園などのような小さな空間を利用した茶庭が盛んに造られたという。
浄土庭園
大乗仏教における浄土思想が寺院の建物と一体となって庭園に表現されたものを浄土庭園【じょうどていえん】と呼んでいる。
平安時代には大規模な池を中心とする庭園がつくられ、名所の景色を模造することも流行したらしい。
平等院鳳凰堂や平泉毛越寺では浄土庭園と呼ばれる形式の庭がつくられた。
平等院鳳凰堂に代表されるような浄土庭園は、一般的に「極楽浄土をこの世に再現すべく、阿弥陀堂と園池とを一体的に築造した仏寺の庭園様式」[1]と定義されるが、より広義にとらえれば阿弥陀堂の前池のみには限定されない。
釈迦の「蜜厳浄土」や薬師如来の「浄瑠璃浄土」なども存在するのであり、たとえば浄瑠璃寺庭園は園池の東側に建つ三重塔に薬師如来が、西側に阿弥陀堂が建ち、両者の浄土を表現していると捉えられる。
毛越寺では現在仏殿は失われているが、園池北岸の金堂(円隆寺)には薬師如来が祀られていたという。[2]
施設名 | 平等院鳳凰堂・庭園 |
所在地 | 京都府宇治市宇治蓮華116 |
Link | 平等院庭園 【公式サイト】 |
雪舟庭園
雪舟禅師は作庭にも造詣が深く、現在では国指定の史跡及び名勝となっている島根県益田市の萬福寺や医光院の雪舟庭園、山口市の常栄寺庭園「雪舟庭」を作ったと伝えられている。
萬福寺・雪舟庭園【島根県】
私は萬福寺の雪舟庭園が好きである。鑑賞式の庭園であり、庭を歩き回ることはできないが、何時間でも座って庭を見続けることができる。庭を観ていると本当に癒されているのを実感する。
施設名 | 萬福寺・雪舟庭園 |
所在地 | 島根県益田市東町25-33 |
Link | 萬福寺|【公式】島根県石見の観光情報サイト |
医光院・雪舟庭園【島根県】
池を覆うほどに大きな枝垂れ桜がある。春の開花期にはさぞ見事な景色を見せてくれることだろう。
施設名 | 医光院・雪舟庭園 |
所在地 | 島根県益田市染羽町4-29 |
Link | 医光寺庭園 ― 雪舟作庭…島根県益田市の庭園 |
常栄寺・雪舟庭【山口県】
雪舟は、室町時代に活動した水墨画家・禅僧である。室町時代の守護大名、大内政弘がその雪舟に命じて築庭させたと伝えられているのが雪舟庭である。常栄寺 雪舟庭は、元々は大内政弘が別邸として建てたものらしい。
施設名 | 常栄寺・雪舟庭 |
所在地 | 山口県山口市宮野下平野 |
Link | 常栄寺雪舟庭【公式サイト】 |
庭園名 | 所在地 |
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旧亀石坊庭園 | 福岡県田川郡添田町英彦山1346 |
旧亀石坊庭園(福岡県)は英彦山修験道坊家の代表的な庭園らしい。萬福寺、医光寺、常永寺の庭園とともに、雪舟の4大庭園といわれている。いつの日か訪れてみたいものだ。
由志園【島根県】
由志園(島根県松江市)の庭園は、約40,000 m2もの広大な敷地に池泉廻遊式の日本庭園が作庭させている。庭園の随所に出雲の風景を模した作庭がなされているという。
泉回遊式の庭園を散策する楽しみの一つは、自分好みの撮影スポットを探しながらゆっくりと散策できることである。
施設名 | 由志園 | |
所在地 | 島根県松江市八束町波入1260-2 | |
Link | 日本庭園【 由志園 】公式サイト|牡丹と高麗人蔘の里 |
足立美術館の庭園【島根県】
足立美術館(島根県安来市)は、一代で財を成した実業家である足立全康【あだちぜんこう】氏(1899年~1990年)によって創設された、日本庭園を併設する美術館である。日本庭園と日本画の調和は、足立美術館創設以来の基本方針とされている。
横山大観の画風を日本庭園に具現化
足立美術館には横山大観の作品が日本で最も多く収蔵されていると言われている。横山大観は日本人なら誰でも知っている画家である。そして横山大観の画風を体現したような庭園が足立美術館の日本庭園になっている。
日本庭園を通して、日本の四季の美に触れる。
さらに横山大観の作品に接することで、日本画の魅力を理解してもらう。
横山大観を知ることによってその他の画家や作品に興味を持ち、ひいては日本画による美の感動に接してほしいという、創設者の強くて深い願いが込められているという。
足立美術館はそうした稀有な美術館である。
足立美術館の日本庭園が2003年から2022年(今年)まで19年連続で日本一の日本庭園に選ばれているとは訪れて初めて知った次第である。庭園好きの私としては実に恥じ入るべきである。
足立美術館の日本庭園には一般観光客は足を踏み入れることはできない。大きなガラス窓越しに観覧することになっている。
ガラス窓越しに写真撮影をしているために無修正であるとどうしても室内のライトが反射して画像に残ってしまう。
足立美術館の日本庭園には足を踏み入れることはできないが、所々にガラス窓越しではなく庭を観覧できる場所が設置されたレイアウトになっている。そこが撮影ポイントというわけである。
足立美術館の日本庭園は、横山大観の作品を庭園で表現するということをコンセプトにしているらしい。
横山大観の名作「白沙青松」をモチーフに、大観の絵画世界を表現しているらしい。
鶴の滝は、借景となっている亀鶴山に開瀑した人工の滝である。横山大観の「那智乃瀧」(足立美術館蔵)をイメージして、岩肌から落差15mの滝が流れている。
施設名 | 足立美術館 |
所在地 | 島根県安来市古川町320 |
Link | 足立美術館|ADACHI MUSEUM OF ART【公式サイト】 |
あとがき
日本庭園は、時代と共にその庭園形式を変えつつ、その時代の権力者の趣向に合わせて発展してきたようだ。
現存する日本庭園をできるだけ多く訪ねてみたいと思う。また気に入った庭園には穏やかな陽射しの日を選んで再訪したい。
今回、足立美術館を訪ねることにしたのは妻の長年の希望を叶えるためであったが、私自身も感動した。自分一人では決して来ることはなかっただろう。妻に感謝である。
由志園の日本庭園は、実にバラエティー富んだ風景を私に見せてくれた。足立美術館の鑑賞式庭園も素晴らしいが、個人的好みでは回遊式の庭園が好きなので、由志園に何度か通ってみたい。
この由志園を探し出したのも妻であるので感謝したい。
【参考文献】
1 | 岩波日本庭園辞典 |
2 | 仲隆裕 、浄土庭園の事例と定義をめぐる考察 |
【参考資料】
毛越寺・浄土庭園 |
平等院庭園 【公式サイト】 |
法金剛院-庭園ガイド |
古峯園 – 鹿沼市観光情報サイト |
偕楽園【公式サイト】 |
浜離宮恩賜庭園 |
六義園/東京の観光公式サイト |
清澄庭園【公式サイト】 |
横浜 三溪園【公式サイト】 |
兼六園【公式サイト】 |
神泉苑【公式サイト】 |
二条城・庭園【公式サイト】 |
三宝院|醍醐寺【公式サイト】 |
桂離宮【宮内庁参観案内】 (オンライン参観事前受付が必要) |
修学院離宮【宮内庁参観案内】 (オンライン参観事前受付) |
三室戸寺【公式サイト】 |
後楽園【公式サイト】 |
栗林公園|香川県観光協会公式サイト |
水前寺成趣園【公式】熊本県観光サイト |
八瀬 瑠璃光院【公式サイト】 |
大雲山・龍安寺【公式サイト】 |
大徳寺 大仙院庭園 、大仙院の庭園・京都市都市緑化協会 |
慈光院庭園 枯山水-庭園ガイド |
耶馬溪ダム記念公園「溪石園」 | 中津耶馬渓観光協会 |