はじめに
古事記【こじき】は、一般的に日本最古の史書であるとされる。神代から上古までを記した史書として、日本書紀とともに記紀と総称されることもある。一方で、古事記は出雲神話を重視しているとの指摘もある。
古事記は、上中下の3巻からなり、上巻【かみつまき】は、天地開闢【てんちかいびゃく】から日本列島の形成と国土の整備が語られ、天孫降臨【てんそんこうりん】を経てイワレヒコ(神武天皇)の誕生までを記す、いわゆる日本神話が語られている。
(引用:ウキペディア)
あらすじ
天地開闢(天地創造)からヤマタノオロチ退治までの日本神話のあらすじは、どの部分を重要視するかで変わってくるが、多分、下記のようなものだろう。
天地開闢の後に七代の神が交代し、その七代目にイザナギとイザナミの二柱が生まれた。二神は高天原(天上)から葦原中津国(地上)に降り立ち、結婚して結ばれ、その子として、大八島国(日本)を産んだ。ついで、多くの神々も産んだ。
しかし、イザナミは火の神を産んだ際に火傷を負って死んでしまう。イザナギはイザナミを恋しがり、黄泉の国(=死者の世界)を訪れて、連れ戻そうとするが、結局は連れ戻せなかった。
イザナギは黄泉の国での穢れを落とすために禊を行った。その禊の最後に、三貴子と呼ばれるアマテラス、ツキヨミ、スサノオの三柱が誕生した。
スサノオは乱暴者であったため、姉のアマテラスに反逆を疑われる。そこで、スサノオはアマテラスと心の潔白を調べる誓約を行う。その結果、三女五男の神が誕生し、スサノオは潔白を証明できたが、調子に乗って悪行を続けた。スサノオの蛮行に恐れをなし、アマテラスは天の岩戸に閉じ籠るが、天津神たちの知恵で外に出されてしまう。
一方、スサノオは天津神の審判により高天原を追放され、葦原中津国の出雲国に下る。今まで乱暴者のイメージだけしかなかったスサノオが変貌を遂げ、英雄的な神となってヤマタノオロチを退治する。そしてクシナダヒメを娶って新たな展開が始まる。
<目次> はじめに あらすじ 天地開闢と造化三神の登場 特別な天津神 神代七代の誕生 オノゴロ島の誕生 不吉な子供の誕生 大八島国(日本)の誕生(国産み) 大八島以外の島々の誕生(国産み) 神々の誕生(神産み) イナナミに会いに黄泉の国へ 禊【みそぎ】から生まれた神々 三貴子の神が司るもの 天照大御神と速須佐之男命 天の岩戸 五穀の誕生 ヤマタノオロチ退治 新たなる門出 あとがき |
天地開闢と造化三神の登場
天と地が初めて分れた(天地開闢)の後に、高天原【たかまがはら】に順に登場してきたのは、造化三神と呼ばれる次の三柱の神であった。
- 天之御中主神【アメノミナカヌシノカミ】
- 高御産巣日神【タカミムスビノカミ】
- 神産巣日神【カミムスビノカミ】
天地開闢【てんちかいびゃく】 |
天と地、すなわち世界の始まりのこと。世界の初め。「開闢」は、天と地が分かれてできたとき。古代中国では混沌とした一つのものが天と地に分かれて世界ができたと考えた。類語は天地創造。 |
天地創造【てんちそうぞう】 |
神が天と地を創造したことによって、世界が始まったとする考え方。また、そのような神の行い。 |
特別な天津神
天地開闢の後の国土はまだまだ若く、固まらず、水に浮いている油のような状態であった。クラゲのようにフワフワと漂っているような状態であった時代に葦【あし】の芽が成長するように産まれたのが次の二柱の神である。
- 宇摩志阿斯訶備比古遲神【ウマシアシカビヒコヂノカミ】
- 天之常立神【アメノトコタチノカミ】
先述の造化三神にこの二柱を加えた五柱の神々は、「別天津神」と呼ばれる特別な五柱の神々である。但し、姿形はないという。
● 天之御中主神【アメノミナカヌシノカミ】 ● 高御産巣日神【タカミムスビノカミ】 ● 神産巣日神【カミムスビノカミ】 ● 宇摩志阿斯訶備比古遲神【ウマシアシカビヒコヂノカミ】 ● 天之常立神【アメノトコタチノカミ】 |
尚、天津神【あまつかみ】は高天原出身の神のことをいう。
神代七代の誕生
別天津神の誕生後、神代七代と呼ばれる神々が次々と生まれた。誕生順に下記の12柱の神々である。
● 国之常立神【クニノトコタチノカミ】 ● 豊雲野神【トヨクモノノカミ】 ● 宇比地迩神【ウヒジニノカミ】 ● 須比智迩神【スヒジニノカミ】(宇比地迩神の妹) ● 角杙神【ツノグヒノカミ】 ● 活杙神【イクグヒノカミ】(角杙神の妹) ● 意富斗能地神【オオトノジノカミ】 ● 大斗乃辨神【オオトノベノカミ】(意富斗能地神の妹) ● 淤母陀流神【オモダルノカミ】 ● 阿夜訶志古泥神【アヤカシコネノカミ】(淤母陀流神の妹) ● 伊邪那岐神【イザナギノカミ】 ● 伊邪那美神【イザナミノカミ】(伊邪那岐神の妹) |
最後に生まれた神代七代目と呼ばれる伊邪那岐神(イザナギ)と伊邪那美神(イザナミ)の二柱は「島生み」や「神生み」を行った重要な神である。
オノコロ島の誕生
天津神たちが話し合って、イザナギとイザナミに「この漂ってる国を固めて完成させなさい」と命じ、天の沼矛【あめのぬぼこ】を渡した。
イザナギとイザナミは、天の浮橋【あまのうきはし】に立って、天の沼矛を海に突き刺してかき回した。そしてコロコロと鳴らして引き上げると、矛の先から塩がしたたり落ちて、積もっていった。それが島となって誕生したのがオノゴロ島である。
イザナギとイザナミは、オノゴロ島に降り立ち、天御柱【あめのみはしら】を立てて、広い神殿を作った。
不吉な子供の誕生
イザナギは、イザナミに「おまえの身体はどうなっているのか」と尋ねた。するとイザナミは、「私の体は、段々と出来あがってきたのですが、足りないところ(=女性器のこと)があります」と答えた。
イザナギは、「私の体は段々と出来あがって、余ったところがある(=男性器のこと)。そこで私の余ったところを、お前の足りない所に挿して塞いで、国を産もうと思うのだが、どうだろうか」と提案すると、イザナミは「それがいいですね」と同意した。
イザナギは「それでは、私とあなたでこの天御柱を互いに反対に回って、まぐわいましょう。あなたは右回りに、私は左回りに行きましょう」と約束し、回った。そうするとイザナミが先に「あぁ、なんてイイ男なんだろう!」と言い、その後にイザナギが「あぁ、なんてイイ女なんだろう!」と言った。イザナギは、言い終えた後で「女が先に話しかけるなんて不吉だ」と言った。
二柱が床で交わって作った最初の子は水蛭子【ヒルコ】であったが、その子は葦で作った船に乗せて流して、捨ててしまった。
次に淡島【あわしま】が生まれたが、これも子供とは認めなかった。そこでイザナギとイザナミは話し合い、「今、産んだ子供は不吉だった。天津神の所に行って報告しましょう」と言って、すぐに高天原に上り、天津神に報告した。
天津神は、太占【ふとまに】(鹿の肩の骨を焼いて占うこと)で占った後で、イザナギとイザナミに「女が先に話しかけたのが良くなかった。もう一回言い直しなさい」と言った。
国産み
大八島国(日本)の誕生
二柱は、再び地上に降りて、天の御柱の周りを前と同じように回り、今度はイザナギが先に「あぁ、なんとかわいい少女だろう」と言った。次にイザナミが「あぁ、なんてすばらしい男性でしょう」と言った。そう言い合って交わって出来た子は淡道之穂之狭別島【あわじのほのさわめしま】(淡路島)であった。
次に産まれたのは伊予之二名島【いよのふたなしま】(四国)であった。伊予之二名島には体一つに顔が四つもあった。そして、それぞれの顔には名前があった。伊予国は愛比売【エヒメ】、
讃岐国は飯依比古【イヒヨリヒコ】、阿波国は大宜都比売【オオゲツヒメ】、土佐国は建依別【タケヨリワケ】と呼ばれた。
引き続いて、次々と島々が生まれた。生まれた島々の名は誕生順に次のようなものであった。
- 隠伎之三子島(隠岐にある三つの島)
- 筑紫島【つくししま】(九州;筑紫、豊、肥、熊曾の国々)
- 伊伎島【いきのしま】(壱岐島)
- 津島【つしま】(対馬)
- 佐渡島
- 大倭豊秋津島【おおやまととよあきづしま】(本州)
最初に生まれて来た上記の八つの島は大八島と呼ばれたことから、日本を大八島国と呼ぶようになったと言われている。
大八島以外の島々の誕生
二柱は、大八島を生んで帰る途中でも次々に島を生んでいる。
誕生順に次の6つの島々である。
- 吉備児島【きびこじま】
- 小豆島
- 大島
- 女島
- 知訶島
- 両児島
イザナギとイザナミによって生まれた島は、最終的に大小合わせ14個の島々である。
神産み
神々の誕生
イザナギとイザナミの二柱は、島を産み終えたので、次に神を産むことにした。生まれた神々は誕生順に下記のとおりである。
● 大事忍男神【オオコトオシオノカミ】 ● 石土毘古神【イワツチビコノカミ】 ● 石巣比売神【イワスヒメノカミ】 ● 大戸日別神【オオトヒワケノカミ】 ● 天之吹男神【アメノフキオノカミ】 ● 大屋毘古神【オオヤビコノカミ】 ● 風木津別之忍男神【カザモツワケノオシオノカミ】 ● 大綿津見神【オオワタツミノカミ】(海の神) ● 速秋津日子神【ハヤアキツヒコノカミ】(港の神) ● 速秋津比売神【ハヤアキツヒメノカミ】(その妹) |
この速秋津日子神と速秋津比売神の二柱の神からは、下記の神々が生まれた。
● 沫那芸神【アワナギノカミ】 ● 沫那美神【アワナミノカミ】 ● 頬那芸神【ツラナギノカミ】 ● 頬那美神【ツラナミノカミ】 ● 天之水分神【アメノミクマリノカミ】 ● 国之水分神【クノミクマリノカミ】 ● 天之久比箸母智神【アメノクヒザモチノカミ】 ● 国之久比箸母智神【クノクヒザモチノカミ】 |
イザナギとイザナミが、さらに生んだのは、次の神々である。
● 志那都比古神【シナツヒコノカミ】(風の神) ● 久久能智神【ククノチノカミ】(木の神) ● 大山津見神【オオヤマヅミノカミ】(山の神) ● 鹿屋野比売神【カヤノヒメノカミ】(野の神) (別名:野椎神【ノヅチノカミ】) |
この大山津見神と野椎神の二柱からは、下記の4対8柱の神々が生まれた。
● 天之狭土神【アメノサヅチノカミ】 ● 国之狭土神【クニノサヅチノカミ】 ● 天之狭霧神【アメノサギリノカミ】 ● 国之狭霧神【クニノサギリノカミ】 ● 天之闇戸神【アメノクラトノカミ】 ● 国之闇戸神【クニノクラトノカミ】 ● 大戸惑子神【オオトマトヒコノカミ】 ● 大戸惑女神【オオトマトヒメノカミ】 |
イザナギとイザナミがさらに生んだのは、次の神々である。
● 鳥之石楠船神【トリノイハクスフネノカミ】 (別名を天鳥船【アメノトリフネ】という) ● 大宜都比売神【オオゲツヒメカミ】 ● 火之夜芸速男神【ヒノヤギハヤオノカミ】(火の神) (別名を火之炫毘古神【ヒノカガビコノカミ】又は火之迦具土神【ヒノカグツチノカミ】という) |
イザナミは、この火の神を産んだことで女陰(女性器)に焼けどを負って倒れてしまった。この焼けどの苦しみから嘔吐して生まれたのが次の二柱である。
● 金山毘古神【カナヤマヒコノカミ】 ● 金山毘売神【カナヤマヒメノカミ】 |
次に焼けどの苦しみから脱糞し、糞から生まれたのが次の二柱である。
● 波邇夜須毘古神【ハニヤスヒコノカミ】 ● 波邇夜須毘売神【ハニヤスヒメノカミ】 |
次に焼けどの苦しみから失禁し、尿から生まれたのが次の二柱である。
● 弥都波能売神【ミズハノメノカミ】 ● 和久産巣日神【ワクムスビノカミ】 |
イザナギは「愛する妻の命をただ一人の子供によって無くしてしまうなんて」と言い、イザナミの枕元や足元で這い廻り泣いた。その涙から産まれたのは泣沢女神【ナキサワメノカミ】(香具山の麓の丘の木の下に鎮座する神)である。
イザナミの遺体は出雲国と伯耆国【ほうきのくに】の境にある比婆山【ひばのやま】に葬られた。イザナミは黄泉国(死者の国)へと行ってしまったのである。
イザナギは、腰に挿していた十拳剣【とつかのつるぎ】を抜き、イザナミの死の原因となった火之迦具土神【ヒノカグツチノカミ】の首を切り落とした。
すると剣やそのツバや鞘についた血痕が沢山の神聖な岩に飛び散った。そしてそこから生まれたのが下記の神々である。
● 石拆神【イワサクノカミ】 ● 根拆神【ネサクノカミ】 ● 石筒之男神【イワツツノオノカミ】 ● 甕速日神【ミカハヤヒノカミ】 ● 樋速日神【ヒハヤヒノカミ】 ● 建御雷之男神【タケミカヅチノオノカミ】 ● 闇淤加美神【クラオカミノカミ】 ● 闇御津羽神【クラミツハノカミ】 |
また、殺された火之迦具土神の体からも神々が生まれた。
● 正鹿山津見神【マサカヤマツミノカミ】(頭から) ● 淤縢山津見神【オドヤマツミノカミ】(胸から) ● 奥山津見神【オクヤマツミノカミ】(腹から) ● 闇山津見神【クラヤマツミノカミ】(陰部から) ● 志芸山津見神【シギヤマツミノカミ】(左手から) ● 羽山津見神【ハヤマツミノカミ】(右手から) ● 原山津見神【ハラヤマツミノカミ】(左足から) ● 戸山津見神【トヤマツミノカミ】(右足から) |
イザナミに会いに黄泉の国へ
イザナギは、イザナミに会いたくて、黄泉の国へと追って行くことにした。黄泉の国の入り口の塞がれた戸で出迎えたイザナミに対して、イザナギは「愛しい我が妻よ、二人でつくった国はまだ出来ていないから一緒に帰ろう」と話しかけた。
するとイザナミは「もっと早く来てくれれば、よかったのに悔しいことです。もう黄泉の国の釜で煮た食べ物を食べてしまったので、現世には戻れません。でも、せっかく会いに来てくれたのだから黄泉の国の王に相談してみます。その間、決して覗かないで下さいね」と言って、御殿の中に入って行った。
ところがいつまで待ってもイザナミが帰ってこないので、イザナギは耐えられなくなった。角髪【みずら】(髪をまとめて耳あたりでまとめた束のこと)に挿していた櫛の太い歯を一本折り取って、明かりを灯して、宮殿の内部を見ることにした。
するとイザナミの身体には蛆【うじ】がたかり、8体の雷神が覆い被さっていた。そのようなイザナミの変わり果てた姿を見て、イザナギは怖くなり逃げ帰ろうとした。
するとイザナミが「私に恥をかかせましたね」と言って、すぐに予母都志許売【ヨモツシコメ】(黄泉の国の醜女【しこめ】=死者の国の強い女)を呼んでイザナギを追わせた。
イザナギは髪につけていた黒いカズラを取って投げるとみるみる成長して山ブドウが実った。この山ブドウの実を醜女が食べている間にイザナギは逃げ延びた。しかし、更に醜女が追ってきたので、今度は右の角髪【みずら】に挿していた櫛の歯を折って投げるとタケノコが生えてきた。今度はそれを醜女が食べている間にイザナギは逃げ延びた。
イザナミは、次にその身に沸いた雷神たちに1500人の軍勢を従わせてイザナギを追わせた。イザナギは後ろ手に長剣を振りつつ逃げたが、彼らはなおも追ってきた。そこで黄泉比良坂【よもつひらさか】にさしかかったときに、桃の実3個を投げると、雷神の軍勢は退散した。イザナギは、その桃に「お前は私を助けてくれたように、人民が苦しいときには助けてくれ」と言い、意富加牟豆美命【オオカムズミノミコト】という名前を授けた。
最後にイザナミ自身が追ってきた。そこでイザナギは千引きの岩を黄泉比良坂で引っ張って、塞いでしまおうとした。
その千引きの岩を間にして、イザナミとイザナギは話し合った。イザナミは「愛しい私のイザナギよ。こんなことをするのならば、あなたの国の人民を毎日1000人ずつ締め殺してしまいましょう」と言った。それでイザナギは「愛しき私のイザナミよ。あなたがそうするならば、一日に1500の産屋を立てましょう」と言い返した。
それ以来、毎日1000人が死に、1500人が生まれるようになったという。そしてイザナミは黄泉津大神【ヨモツオオカミ】と呼ばれるようになった。
黄泉の坂をふさいだ岩は、道反之大神【チガエシノオオカミ】(別名、黄泉戸大神【ヨミドノオオカミ】)と名づけられた。
禊から生まれた神々
黄泉の国から帰還したイザナギは、身体を清める禊【みそぎ】をすることにした。それで、筑紫の日向の橘の小門の阿波岐原【あわぎはら】に行って、禊をすることにした。
禊をする前に自分の身に着けていたものを脱ぎ捨てたところ次の12柱の神々が誕生したという。
● 衝立船戸神【ツキタツフナトノカミ】(杖から) ● 道之長乳歯神【ミチノナガチハノカミ】(帯から) ● 時量師神【トキハカシノカミ】(袋から) ● 和豆良比能宇斯能神【ワヅラヒノウシノカミ】(衣から) ● 道俣神【チマタノカミ】(袴から) ● 飽咋之宇斯能神【アキグヒノウシノカミ】(冠から) ● 奥疎神【オキザカルノカミ】(左の腕輪から) ● 奥津那芸左毘古神【オキツナギサビコノカミ】(同上) ● 奥津甲斐弁羅神【オキツカヒベラノカミ】(同上) ● 辺疎神【ヘザカルノカミ】(右の腕輪から) ● 辺津那芸左毘古神【ヘツナギサビコノカミ】(同上) ● 辺津甲斐弁羅神【ヘツカヒベラノカミ】(同上) |
イザナギは、「上の瀬(水面に近い方)は流れが速い。下の瀬(水底の方)は流れが遅い」と言い、中段にもぐって禊をした。この禊によって次の14柱の神々が誕生した。
● 八十禍津日神【ヤソマガツヒノカミ】(穢れから) ● 大禍津日神【オオマガツヒノカミ】(穢れから) ● 神直毘神【カムナオビノカミ】 ● 大直毘神【オオナオビノカミ】 ● 伊豆能売神【イヅノメノカミ】 ● 底津綿津身神【ソコツワタツミノカミ】 ● 底筒之男命【ソコツツノオノミコト】 ● 中津綿津身神【ナカツワタツミノカミ】 ● 中筒之男命【ナカツツノオノミコト】 ● 上津綿津身神【ウワツワタツミノカミ】 ● 上筒之男命【ウワツツノオノミコト】 ● 天照大御神【アマテラスオオミカミ】(左目を洗うと誕生) ● 月読命【ツキヨミノミコト】(右目を洗うと誕生) ● 建速須佐之男命【タケハヤスサノオノミコト】(鼻を洗うと誕生) |
イザナギは「私は子供を次々と生んだが、最後に生まれた三柱の神は貴い子だ(=三貴子【さんきし】)」と言って非常に喜んだという。
三貴子の神が司るもの
イザナギは、天照大御神に首飾りを授け「あなたは高天原を統治しなさい」と命じた。尚、首飾りの玉は御倉板挙之神【ミクラタナノカミ】という。
次に、月読命には、「あなたは夜の食国を統治しないさい」と命じた。最後に、建速須佐之男命には「あなたは海原を統治しなさい」と命じた。
天照大御神と速須佐之男命
役目を命じられた天照大御神(アマテラス)と月読命は、それぞれの領域を治めていた。
しかし、速須佐之男命(スサノオ)だけは命じられたようにはせず、顎鬚【あごひげ】が胸に届くほどになっても泣き喚いているばかりであった。激しく泣くので、緑の山が枯れてしまい、河や海の水が干上がってしまうほどであった。そのため邪神がさわぎ始め、その声が夏の蠅のように辺りに満ちて悪霊が沸いた。
そこでイザナギは、スサノオに「なぜ、お前は国を治めずに泣いているのか」と尋ねた。するとスサノオは「亡き母の居る根の国へ行きたいのです」と答えた。イザナギは怒り、「ならば、出て行け」と言い、すぐにスサノオを追放してしまった。
スサノオは、姉のアマテラスに理由を説明してから根の国へ行くことにしようと考え、高天原に登って行った。すると山や川が震えた。その音を聞いたアマテラスは驚き、「弟が登ってくる理由は、善良な心からではない。この高天原を奪おうと思ってのことだ」と言い、戦闘態勢を整えて、高天原にやって来たスサノオと対峙した。そして「何をしに来たのか」と問い詰めた。
スサノオは「私に邪心はありません。父の怒りにより追放されたので、母の居る根の国へ向かうことになった事情を話に来たのであって、謀反の心など毛頭ありません」と答えた。
アマテラスが「ならば、あなたの心が清く正しいことはどうやって証明するのですか?」と尋ねたので、スサノオは「誓約【うけい】をして子供を生みましょう」と答えた。
天安河【あまのやすかわ】を挟んで二柱は誓約をした。アマテラスがまずスサノオが持っていた十拳の剣を受け取って、三つに折り、天真名井【あめのまない】の水ですすいでから噛み砕き、吹き捨てた。その息吹から生まれた神々は次の三柱の女神である。
● 多紀理毘売命【タキリヒメノミコト】 ● 市寸嶋比売命【イチキシマヒメノミコト】 ● 多岐都比売命【タキツヒメノミコト】 |
今度は、スサノオがアマテラスの左右の角髪【みずら】や御鬘沢山の勾玉を貫き通した玉緒を受け取った。さらには左右の手首に巻いている玉緒を受け取った。そしてそれらの玉緒の玉が揺れて音が立つほど、天真名井の水ですすいでから、噛み砕き、吐き出した。その息の霧から生まれた神は次の五柱の男神である。
● 正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命【マサカツアカツカチハヤヒアメノオシホミミノミコト】(左角髪の玉緒から) ● 天之菩卑能命【アメノホヒノミコト】(右角髪の玉緒から) ● 天津日子根命【アマツヒコネノミコト】(御鬘の玉緒から) ● 活津日子根命【イクツヒコネノミコト】(左手首の玉緒) ● 熊野久須毘命【クマノクスビノミコト】(右手首の玉緒) |
アマテラスは、「後から生まれた五柱の男神は私の持ち物(玉緒)から生まれたので私の子供です。 先に産まれた三柱の女神はあなたの持ち物(十拳の剣)から生まれたのであなたの子供です」とスサノオに言って、生まれた神々を別けた。
スサノオは、「私の心は清らかで明るいものである。だから、生まれた子はか弱く優しい女の子だった。 それは言わば、私が誓約に勝ったということだ」とアマテラスに言った。
そして、勝利に乗じてアマテラスが営む田んぼの畦を壊し、田に水を引く溝を埋めてしまい、大嘗(=収穫祭)を行う神殿でウンコをした。
アマテラスは、スサノオの悪行を咎めもせず、「あのウンコのように見えるのは酔っぱらって吐いたゲロです。そして田んぼの畦を壊したり溝を埋めたのは、土地を新しく広げるためでしょう」と庇ったため、スサノオの悪行はさらに激しくなっていった。
天の岩戸
アマテラスは、神聖な機織り小屋で神にささげる服を織らせていた。ある日、スサノオはその小屋の屋根をぶち破って、剥いだ馬の皮を放り込んだ。それに驚いた機織りをしていた女神が驚き、陰部を機織りの部品で突いて死んでしまった。
そのようなスサノオの悪行を知ったアマテラスは恐ろしくなって、天の岩屋(=天の岩戸)の中に籠ってしまった。そうすると、高天原は暗くなり、葦原中国(地上)も暗闇となり、朝が来ない永遠の夜となってしまった。そしてこの幾万もの邪神の声が夏の蝿のように満ちて響き、幾万もの災いが溢れかえった。
そこで、八百万の神が天安河に集って、高御産巣日神(造化三神の一柱)の子である思金神【オモイカネノカミ】に対応策を考えさせた。
思金神の策は祭りを開くというものであった。まずは、長鳴鳥【ながなきどり】を集めて鳴かせた。
次に天安河の上流の天の堅石と、天の金山の鉄を材料に、鍛冶屋の天津麻羅【アマツマラ】と伊斯許理度売命【イシコリドメノミコト】(鏡の神)に鏡を作らせた。また玉祖命【タマノオヤノミコト】(宝石の神)に勾玉を連ねた玉緒を作らせた。
次に天児屋命【アメノコヤネノミコト】と布刀玉命【フトダマノミコト】を呼び、天の香具山の鹿の骨を抜き取って、同じく天の香具山の桜の木で占いをさせた。
そして、天の香具山のサカキの木を一本抜いてきて、上段に玉緒を、中段に八咫鏡【ヤタノカガミ】を、下段には白丹寸手(=白い布)と青丹寸手(=青の布)を垂らした。
その飾ったサカキを布刀玉命【フトダマノミコト】が持ち、天児屋命【アメノコヤネノミコト】が祝詞を唱えた。天手力男神【アメノタヂカラオノカミ】は、岩戸のそばに隠れて立った。
天宇受売命【アメノウズメノミコト】が日陰蔓【ひかげかずら】をたすきがけにし、マサキカズラを髪に飾り、手には笹の葉を束ねて持ち、桶を伏せてその上に立って踏みならした。
天宇受売命は、神がかりして、胸ははだけ、陰部まであらわにした。それを観た八百万の神がどっと笑った。アマテラスは、それが気になり、天の岩戸を少しだけ開き、「私が隠れて、天は自然と暗黒になり、葦原中国も皆、闇となったのに、どうして天宇受売命は踊り、八百万の神は笑っているのか」と内側から覗きながら尋ねた。すると天宇受売命は「あなたよりも優れた神がいらっしゃったので、嬉しくって踊っているのです」と答えた。
そのように答えている間に、天児屋命【アメノコヤネノミコト】と布刀玉命【フトダマノミコト】がその鏡をアマテラスに指し出して見せると、不思議がって、岩戸から覗きこんだ。そのとき隠れていた天手力男神がアマテラスの手を引っぱって出した。そしてすぐに布刀玉命が注連縄【しめなわ】をアマテラスの後方に掛けて「これより中には入ることはできません」と言った。
アマテラスが出てきたので高天原も葦原中国(地上)にも自然と太陽の光が戻った。
八百万の神は、話し合って、スサノオに沢山の品物を罰として納めさせ、髭を切り、手足の爪を抜いて、追放してしまった。
五穀の誕生
地上に追放されたスサノオは食べ物を大気津比売神【オオゲツヒメノカミ】という神に求めた。 すると大気津比売神は鼻や口やお尻から食べ物を出し、調理してスサノオに差し出した。ところが、それを見たスサノオは食物を穢している思い、怒って、大気津比売神を殺してしまった。
殺された大気津比売神の身体からは下記の蚕と穀物が生まれた。
- 蚕(頭から産まれた)
- 稲(目から産まれた)
- 粟(耳から産まれた)
- 小豆(鼻から産まれた)
- 麦(陰部から産まれた)
- 大豆(尻から産まれた)
神産巣日御祖命【カミムスビミオヤノカミ】(=神産巣日神;造化三神の一柱)はこれらの穀物を受け取り、五穀の種とした。
ヤマタノオロチ退治
追放されたスサノオは出雲の肥河【ひのかわ】の上流の鳥髪【とりかみ】という地にやってきた。すると河に箸が流れてきたので、スサノオは「人が住んでる」と思って、探していくと、おじいさん、おばあさんと少女の三人が泣いていた。
「お前らは誰だ?」とスサノオが問うと、その老人は「わたしらは国津神の大山津見神【オオヤマヅミノカミ】の子で、私は足名椎【アシナヅチ】といいます。妻の名は手名椎【テナヅチ】(テナヅチ)で、娘の名は櫛名田比売【クシナダヒメ】といいます」と答えた。
スサノオが「どうして泣いているか」と尋ねると、足名椎は「私たちの娘は本来は8人いました。ところが高志からきた八俣遠呂智【ヤマタノオロチ】に毎年一人ずつ食べられてしまいました。今がその八俣遠呂智が来るときです。 それで泣いているのです。」と答えた。
スサノオが「八俣遠呂智はどのような形なのか」と尋ねると、足名椎は「その目は赤加賀智【あかかがち】(=ホオズキ)のように赤く、体が一つで、頭が八つ、尾が八つです。その身体からは日陰葛やヒノキや杉が生えていて、八つの谷と八つの峰に及んでいます。その腹をみると一面に血が滲んでいます」と答えた。
スサノオが足名椎に「お前の娘を私にくれないか」と言った。すると足名椎は「恐れ多いことに、あなたの御名も知りません」と答えた。スサノオは「私は天照大御神の弟で、高天原より降り立ったばかりだ」と言った。足名椎と手名椎は「それならば、恐れ多いことで、娘を差し上げましょう」と言った。
スサノオは、すぐに娘の櫛名田比売を爪型の櫛に変え、自分の御美豆良【みみずら】(=結った髪)に刺した。スサノオは、足名椎と手名椎に「あなた方は八塩折【やしおり】の酒を醸造しなさい。 次に垣根を作って、そのなかに8つの門を作りなさい。そして門に桟敷を作り、酒の桶を置いて、濃い八塩折の酒を満たして、待ちなさい」と言った。
命じられたとおりに準備していると、八俣遠呂智がやってきた。
大蛇はすぐに8つの頭を酒桶毎に突っ込み、酒を飲み干して、その場で酔って、伏して眠ってしまった。
スサノオが身に着けていた十拳剣を抜いて、その大蛇を切り刻んだ。すると肥河が血で染まり、流れていった。
尾を切っているとき、剣の刃が欠けた。怪しいと思い、剣の先で尾を刺し裂いて見ると、素晴らしい太刀がみつかった。それでこの太刀を取り出し、不思議なものと思い、天照大御神に報告し、献上した。これが草薙の太刀【くさなぎのたち】と呼ばれ、後に「三種の神器」の一つとされる太刀である。
新たなる門出
スサノオは、櫛名田比売と一緒に暮らすため、宮殿を造るべき土地を出雲国に探し求めた。そして須賀【すが】の地に辿り着き、「私はこの土地に来て、私の心は清々しいなぁ」と言い、須賀の地に宮殿を造った。今でもこの地は「須賀」と呼ばれている。
スサノオが須賀に宮殿を造った際、この地から雲が立ち登った。そのときにスサノオが詠んだのが「最古の和歌」と称されるのが次の和歌である。
八雲立つ 出雲八重垣 妻籠みに 八重垣作る その八重垣を
盛んに湧き起こる雲が、八重の垣をめぐらしてくれる
新妻を籠もらせるために、八重垣をめぐらすことよ
あのすばらしい八重垣よ
あとがき
天地開闢からヤマタノオロチ退治までの古事記(口語訳)を読んでみた。内容は妙に具体的な描写があったり、論理的に無茶な展開があったりして興味がつかない。おそらく古の人々の想いや当時の為政者の何等かの意図が隠されていたりするのだろう。
性の描写に対しても実におおらかであり、思わず笑ってしまう。本来、日本人の性に対する考え方や一夫多妻制に対する倫理感は、神代(実際は古事記が起草された奈良時代)と現代とでは全く違うものであったことをまずは理解しないと眉をしかめる人がいるかも知れない。現代社会に生きる日本人の倫理感からは想像できないくらいである。どちらかが正しいと言っているわけではない。価値観は時代によって変わると言いたいだけである。
日本神話には多くの神が登場してくる。ギリシャ神話にも同じことが言えるが、キリスト教やイスラム教のような一神教が世界的に普及するまではもっと多様性を重視した世界感が広がっていた時代があったということだろう。
日本神話をどのように受け止めてもよいと思うが、価値観の多様性を考える際、私はその原点に立ち帰るきっかけにしたいと思っている。
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【参考資料】
ウキペディア Wikipedia |
古事記・全文現代語訳 | 古代日本まとめ (kodainippon.com) |