はじめに
ガーデニングは、趣味として、自分が所有する庭(ガーデン)で植木や草花を植栽したり、花壇を作るなど庭造りをして楽しむことを指す用語である。よく似た用語に「園芸」があるが、厳密な用語の定義は専門家に任せるとして、私の実感としては両者にあまり差異を感じない。つまりどちらの用語を使っても大差がないということである。自分が好きな方を使えば良い。ここでは、「趣味の園芸」=「ガーデニング」としておこう。
実父や義父が趣味としてのガーデニングを楽しんでいるのを近くで見て過ごしたためか、私自身もガーデニングが大好きである。
実父は、 自分が蒔いた種や植えた苗が育っていく過程に元気づけられると語っていた。義父は、土をいじっている時間や庭木の世話をしているときは、心が穏やかになれると話してくれた。
現在、私は自分の好みにデザインした自宅の庭でガーデニングを日々楽しんでいる。世話をした花木の蕾が開花したりすると、妙に達成感を感じる。
植物の持つ癒し効果や育てる(世話する)という行動自体による充実した気持ちのためなのか、私の心と体は健康でいられているように思うし、実感としてそれを強く感じる。
<目次> はじめに ガーデニングの臨床的効用 ガーデニングの効用の体験的検証 ストレス解消になる 運動不足解消になる 感性が豊かになる ガーデニングを楽しむコツ 小さく生んで大きく育てる ガーデニング中は夢中で楽しむ 自分好みの庭をデザインする 自分好みの庭木をデザインする ガーデニングで四季を楽しむ ガーデニングで日光浴しよう! 庭でマイナスイオンを浴びる ガーデニングで認知症予防を実現 あとがき |
ガーデニングの臨床的効用
コルチゾール(副腎皮質ホルモンである糖質コルチコイド)は、生体にとって必須のホルモンであるが、ストレスによっても分泌が亢進される。体内でコルチゾール量が高水準の状態で続けば、うつ病などが発症しやすいとされている[1]。
ところが、驚くべきことに、自然の中で時間を過ごせばこうした状況から脱却できるという。 わずか20分間程度での森林浴でも体内のコルチゾール水準が下がることが検証されている[2]。
森林浴のために遠出をしなくても、ガーデニング(庭いじり)を趣味として30分程度行うことでも体内のコルチゾール水準が下がり、気分が向上することが示されているという。
土に触れ、植物に囲まれて30分間過ごすだけで体や心、健康全般に大きな効果があるとは、私でなくとも多くの人がガーデニングに興味を持つのではなかろうか?
認知症を伴う要介護認定の心理社会的な危険因子や認知症予防につながる趣味の種類を明らかにする研究 の結論では、趣味の種類では男性は園芸的活動、女性はスポーツ的活動を行っている者で認知症を伴う要介護認定が 少なかったとされている [3] 。
さらに、地域在住高齢者における睡眠状況と園芸活動の関係を明らかにすることを目的としたユニークな研究も報告されており、結論として、日常的に園芸活動を行っている高齢者は、睡眠剤の使用頻度が低く、睡眠剤に頼らなくとも入眠が得られるということだ[4]。
庭いじりによってうつ病の症状が改善させようという試みがある。園芸療法とは、ガーデニングを心と体の健康に役立てるための方法をいい、米国や西欧では医療や福祉の現場で積極的に取り入れられてきたものである。
園芸と福祉や医療の専門知識をもった園芸療法士(Horticultural Therapist)が、園芸を媒介にして症状の改善を目指すものである。具体的な疾病として、うつ病や統合失調症、認知症などの リハビリテーションとしての役割が注目されている。
草花や野菜などの栽培を通じて、心身の健康や社会生活の回復が図れ、医療法の一つになっているとは驚きである。
特に、認知症の予防やうつ症状の緩和に繋がるとして、精神医療、高齢者福祉、リハビリテーションなどの分野での関心が日本でも高まっているという。
ガーデニングは、高齢化社会においては脳機能の活性化やコミュニケーション活性化などのために、 ストレスの多い現代社会においては心身機能の回復を助けるだけではなく、QOL(生活の質)を維持、向上させるためにますます期待される分野かも知れない。
ガーデニングの効用の体験的検証
ストレス解消になる
ガーデニングをすると庭木・草花や土壌などの自然の香りを直接的に感じることができるためか、知らず知らずのうちにストレスを発散できている。
植物の香りは人間の心を安定させる働きを持っているようなので、心が癒され、ストレスを忘れられるのではないだろうか。
自分が植えた草花の種や苗から新芽を出て、やがて蕾ができて、開花したときには何とも言えない充実感を覚える。
花を咲かすとこれまで大切に育ててきた植物が咲いたという達成感に満ち溢れる。
人は達成感を感じるとストレスなどネガティブな気持ちが軽減されるのかも知れない。
運動不足解消になる
ガーデニングは、地味な作業のように見えるかもしれないが、 意外と運動になるようだ。
例えば、座って行う草引き(雑草除去作業)でも、身体を安定させるよう常に力を入れているし、土やブロックなどの重たいものを運ぶ作業もある。
ちょっと頑張って一日中、庭でガーデニングを楽しんだ場合の翌日は、筋肉痛を感じたりする。
ガーデニングでは、土や苗木を自分自身で運んだりだり、雑草除去のために何度もしゃがんだり、立ち上がったりするので結構、良い運動をしていることになる。
また庭木や生垣の剪定【せんてい】をすれば、腕の筋肉を鍛えることになる。
ガーデニングをしていれば 実際には多くの運動量を要し、 ジムに通ったり、毎日のランキングを日課にしなくても運動不足を解消できると実体験から確信している。
毎日適度な運動をガーデニングを楽しみながらできるということは正しく一石二鳥である。
感性が豊かになる
植物の葉や花弁には、その色の持つ独特の力というものがあるようで、心身に良い効果をもたらしてくれる。
色鮮やかな花弁は勿論のこと、そうではないどちらかと言えば地味な花であっても、観る者の心をとらえる不思議な力が備わっているように感じられる。
ガーデニングは、特に視覚を刺激してくれるが、庭いじり(植え替えや雑草取り)では触覚や臭覚を刺激してくれる。
収穫したスダチやオレンジは味覚を刺激してくれるし、秋にはコオロギ、マツムシやスズムシの鳴く声が聴覚を刺激してくれる。
夏のセミの声にはうんざりすることもあるが、それもまた風物詩と前向きに考えよう。 葉と葉の擦れあう音なども耳を澄ませば聞こえる。
このようにガーデニングは、 五感を刺激してくれるので、日常生活で忘れかけている記憶を呼び起こし、感性を豊かにしてくれると思う。 私はそう信じている。
ガーデニングを楽しむコツ
小さく生んで大きく育てる
ガーデニングが初めての人、すなわち ガーデニング 初心者は、最初から完璧な庭作りを目指してはいけない。少しずつ自分自身でできることから始めるのが良い。
最初から立派な庭を作ろうとすると費用もかかるし、とにかく早く庭を植木で埋め尽くしたくなる衝動に駆られるので、気持ちが落ち着かない。
せっかくストレスを解消するために趣味として始めたのに、ガーデニングによってストレスを生んでしまっては本末転倒である。
鉢植えの草花一鉢から始めればよい。そして次のステップは、コンテナガーデンで十分である。
私はそうしなかったので、ガーデニングを本当に趣味として楽しめるようになるまでに時間を要してしまった。
あくまでもガーデニングは気晴らしであり、趣味であるのだから、毎日の仕事のように感じ始めてしまったらダメである。あくまでも趣味の範囲で少しずつ増やしていくのが良い。その方が長続きすると思う。
庭の拡張は定年後でもよかったと今では思っている。現役時代に立派な庭をもっていても自分では手入れが十分にできないので、庭師に頼むことになる。当然、費用もかかる。
ガーデニング中は夢中で楽しむ
ガーデニング中は、それ以外のことは考えないようにしよう。他のことは忘れて夢中になることで、ストレスが解消する。
仕事が気になるなら、仕事を片付けてからガーデニングを楽しむようにしよう。仕事を気にしながら、ガーデニングをしても楽しくないし、仕事の遅れが気になって逆にストレスを感じてしまう。
一心不乱に打ち込む必要はないが、せめて趣味のガーデニングをするのであれば、それだけに夢中になる(集中する)ことである。そうすれば、ストレスを受けている事を一時的にでも忘れることができるので、 ストレスを解消することができる。
ガーデニングの効用を最大限にするためには、他のことは一切忘れて、とにかく夢中で ガーデニングを楽しむことである。
自分好みの庭をデザインする
手軽に始められたコンテナガーデンを卒業して、次の段階に行きたくなったら、さらにガーデニングの醍醐味を味わうことができる機会でもある。自分の独創力を発揮しての庭造りの機会の到来である。
庭造りは実に楽しいものである。個性的な自分好みの庭造りは、設計の段階からワクワクする。
自分の家を設計する際は、建築士の助言と費用の制約があって、100%自分の思い通りに設計できることはまれである。
しかし、庭の設計は自分の思い通りのものを作ることができる。庭木が大きく育った場合の配置を考えながら植樹するのは実に楽しい。結果的に失敗であっても、庭木が小さいうちは、植え替えることも容易である。
また、その植え替え自体が楽しい。庭木にとっては迷惑かも知れないが、植え替え時期と場所(日当たり)・土壌を間違えなければ、枯れることは滅多にない。このような経験を多く積むことで庭に対する愛着心も自然に沸いてくる。
庭木が大きく育ち、庭としての完成形になると、植樹の機会も少なくなり、あとは庭木の剪定だけとなり、少し寂しく感じることがある。だから庭木が小さいうちに植え替えを繰り返して十分にガーデニングを楽しんでおくべきである。
想像力を働かせ、庭木が大きく育った場合の完成形を自分好みのデザインにすることが如何に楽しい創造的な趣味であるか、体験した者でなければ決して分からないだろう。だからこそ、その機会を得たならば十分に楽しんでほしい。
自分好みの庭木をデザインする
庭木が大きくなると植え替えが容易ではなくなる。しかし、庭木が大きくなると剪定という楽しみが増えることになる。
剪定は実に楽しいものである。何故なら自分好みの形状に剪定できるからだ。勿論、庭木の種類によっては剪定の限度というものがある。
しかし、剪定時期さえ間違えなければ、枯れることもない。もし、剪定しすぎた場合でも翌年には元通りになる場合が多い。むしろ素人は用心しすぎてあまり強剪定をしない傾向がある。
私も知人の庭師に教わる前まで、おっかなびっくりで剪定していたものだ。でも今では自分の思い通りの形状に剪定し、自画自賛している。プロの庭師には嘲笑されているかも知れないが、そんなことは気にしないてよい。
あくまでもガーデニングは、自分自身のための趣味であり、剪定もまたストレス解消の一助になっていると確信しているからである。
ガーデニングで四季を楽しむ
ガーデニングをしていると四季の移り変わりを敏感に感じるようになる。それは庭木の変化が四季の移り変わりに敏感であるためである。だから庭木の変化を介して、四季の 移り変わりを知ることができる。
花木であれば、蕾の膨らみ具合で四季の移り変わりをさらに敏感に感じることができる。落葉樹であれば、春の新芽から始まり、新緑の頃を経て、夏の繁茂期に入る。
そして秋の紅葉を経て、葉のない冬期を迎える。常緑樹さえも春になれば新芽が出て、若葉の季節を迎える。彼らは夏の眩しい太陽の下でさえ私に憩いを与えてくれる。
そして秋が過ぎ、冬になって殺風景になりがちな庭にあって開花する花木もある。庭木を介して四季を感じられるとき、私は四季のある日本で生活できて良かったと思ってしまう。
庭ではさまざまな体験が待っている。セミのふ化を観ることもあれば、毛虫や蜘蛛とは仁義なき戦いをすることもある。蝶やトンボもどこからかやってくる。セミの亡骸はアリが処理してくれるし、落ち葉の処理はダンゴムシの担当である。
鳥の鳴き声がするので庭に出てみると、つがいらしい二羽の小鳥が庭木に止まり、赤く熟した実を食べているのが観察できる。秋の夜長は虫の音を聴きながら、読書を楽しむこともできる。
小さな庭にも実に多くのドラマがある。そんなドラマを一年でも長く見届けたいとシニア時代を迎え、切に思うようになった。
ガーデニングで日光浴しよう!
ガーデニングは屋外で行うため、日光を浴びる。これが身体にいい効果を与えているらしい。
真夏の太陽の下でのガーデニングは、熱中症のリスクが高いので論外であるが、それ以外の季節でのガーデニングは紫外線対策さえしっかりしておけば、適度に日光を浴びること自体は、健康を保つために大切なことらしい。
何故なら日光によって体内で体内でのカルシウム吸収に欠かせないビタミンDの生成が促進され、骨密度の減少を食い止めることができ、結果として骨を丈夫にする効果があるためである。
高齢化につれ骨粗鬆症や転倒による骨折が生じやすい身体になる。 ガーデニングを兼ねた日光浴によって骨の弱体化を予防したいものだ。紫外線対策には、長袖のシャツを着たり、帽子をかぶって作業をすると良い。
庭でマイナスイオンを浴びる
マイナスイオンは、植物からもたくさん発生しているようだ。特に、土や植物に水をまいたり、雨の降った次の日に土いじりをするとたくさん発生するため、心身ともにリフレッシュできるという。
森林浴や滝を観に出かけなくとも身近で体験できるということだ。
ガーデニングで認知症予防を実現
ガーデニングは、季節や天候に合わせて水やりや消毒をしたり、または肥料を与えたりする。気温に敏感な鉢植えの植物には温度管理が必要である。
ガーデニングは、常に頭を使って工夫しなければならない。いわゆるマンネリとは無縁である。
こうした一連の頭脳作業が高齢者の認知症を防ぎ、老後をいきいきと過ごすために役立つらしい。私も高齢者なので可能な限りガーデニングを続けたいと思う。
あとがき
趣味としてのガーデニングの効用および楽しみ方について長々と書いてきた。最後までお読み頂き、ありがとうございました。
ガーデニングの魅力が読者の皆さんに少しでも伝わり、ガーデニングを趣味にする人が増えれば嬉しいが、どうであろうか?
私は、サラリーマンの現役時代からガーデニングを趣味として来たが、十分に時間がとれず、知り合いの庭師さんに管理をお願いすることが多かった。会社をリタイアした今、ガーデニングを趣味として思う存分、楽しみたいと思っている。
【参考文献】
1 | 山脇 成人,うつ病ー[ I ]基礎・病態:うつ病の脳科学的研究:最近の話題, 第129回日本医学会シンポジウム(2005) |
2 | Park BJ, Tsunetsugu Y, Kasetani T, Hirano H, Kagawa T, Sato M, et al. Physiological effects of Shinrin-yoku (taking in the atmosphere of the forest)-using salivary cortisol and cerebral activity as indicators. J Physiol Anthropol. 26, 2 (2007)123–128 |
3 | 竹田徳則, 近藤克則, 平井寛 , 地域在住高齢者における認知症を伴う要介護認定の心理社会的危険因子 AGES プロジェクト3年間のコホート研究 , 日本公衆衛生雑誌 , 57 ,12 , (2010) 1054-1065 |
4 | 生水智子, 田崎史江, 中村美砂, 今岡真和, 中尾英俊, 肥田光正, 地域在住高齢者における睡眠状況と園芸活動の関係, Journal of Osaka Kawasaki Rehabilitation University, 14 (2020) 39-43 |