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日本と世界の百名山、邂逅の北岳、私の記憶に残る山・マッターホルン

はじめに

女優の工藤夕貴さんが主演を務めた『山女日記3』 がNHK BSプレミアムで放送された際には、私は毎週楽しみにして観たものである。

2021年10月24日に放映された第2話「ロマンスの道しるべ・雨飾山」では、 文庫本『日本百名山』が何度か画面に登場し、著者の深田久弥氏のエピソードもドラマのストーリーに関与していたのが印象的であった。


<目次>
  • はじめに
  • 深田久弥と日本百名山
  • 北岳は私にとって邂逅の山である
  • 日本三百名山
  • 世界の千仞之山
  • マッターホルン
  • マッターホルンには特別な思い出がある
  • 世界百名山
  • あとがき

深田久弥と日本百名山

文筆家で登山家の深田久弥氏(1903~1971)が、実際に登頂した経験から日本各地の山岳を彼独自の基準によって100座を選び、それらを主題とした山岳随筆集を著した。

その名著が『日本百名山』(新潮社、初刊1964年7月、私の蔵書は1978年5月25日刷) である。現在では、文庫本 『日本百名山 (新潮文庫)』 のみが入手できる。

私も学生時代に愛読し、日本百名山の全踏破を試みようとした経験がある。

しかし早々に諦めてしまった。理由は、気に入った山に何度も登頂する方が自分には合っていると気づいたからである。

山は、登頂する日の天候や季節、登山者の体調や気分によって受ける印象が全く異なるものである。だから一度登山して気に入った山には何度も訪れたくなる。この思いは山が好きな人には分かってもらえるはずだ。

深田久弥氏が日本百名山として100座を選んだ際の選択基準は、彼の著書の後記によると次の三点であった。

1山の品格。誰が見ても立派な山だと感嘆するもの。
標高では合格しても、凡常な山は採用しない。
2山の歴史。昔から人間と深いかかわりのある山。人々が朝夕仰いで敬まい、山頂に祠を祭るような山は名山の資格あり。
3個性のある山。どこにでもあるような平凡な山ではなく、山容に特徴があること。
前提条件として標高1500m以上であることが挙げられている。この標高の条件に満たないとの理由で、古から名山として知られている比叡山(848m)や英彦山(1,199)などが選から漏れている。一方、例外として筑波山(877m)と開聞岳(924m)の二座は選出されている。その理由は、 筑波山については歴史が古いことと江戸時代の関東平野から見ることができたのは富士山と筑波山の二座のみであったことらしい。 開聞岳についてはそのユニークな山容(完璧な円錐形)であることだと著書に記載されている。

標高が高いから山と呼べるのであって、日本では数が限られている3000m超の高山は最大限に評価されてよい。しかし、標高3026m農鳥岳日本百名山に選出されていない。

学生時代の私はそのことに納得できなかったものだが、還暦を過ぎ、深田久弥氏の著作を久方ぶりに目にし、後記を読んだところ、 著者が百座を選ぶのにかなり努力もして、苦慮した経緯があることが理解できた。

日本百名山の選択基準は深田久弥氏のオリジナルであって、その選択基準にすべての登山愛好家が諸手をあげて賛同する必要もないだろうとは思う。

しかしながら、私自身は、改めて 『日本百名山』 は名著だと思った次第である。そして、この著作に感化されて山登りを始めたり、百名山登頂を目指した登山愛好家もきっと多いはずだ。


北岳は私にとって邂逅の山である

私が一番好きな山は、南アルプスの北岳である。高村薫の傑作の一つである「マークスの山」(早川書房;1993年3月発行)にも登場した山である。

北岳は、日本では富士山に次ぐ、標高( 3,193m)を誇る。

多くの登山愛好家に人気のあり、常に人気ランキングの上位にくる穂高岳槍ヶ岳も勿論好きである。

しかし、私にとっては何故か北岳の方が上位に来る。

その理由を考えてみた。私は高山植物が好きである。キタダケソウ固有種で、北岳の山頂部でのみ見ることができる。先端に直径約2cmほどの白い花をつける。開花期は6月下旬前後であり、他の高山植物よりも早くに咲く。

だから登山最盛期の7~8月頃に登山してもその姿を見ることができない。

最初、チングルマ北岳草と間違えてしまったため、私はキタダケソウだけをみるために再度、登頂したこともある。

さらに、北岳には、当時クライマー達の練習場であったバットレスと呼ばれる北壁があり、ヨーロッパアルプスの一つ、アイガーの北壁のようにも感じていた。


しかし、キタダケソウや北面バットレスだけが私を引き付けているとは思えない。では他の理由は何か? 

大学でワンダーフォーゲル部に入部して初めての山行で、夜叉神峠から眺めた、残雪に輝く白根三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)は印象的であった。

その強烈な印象のためか、あるいはその年の夏合宿で南アルプスの主稜線縦走した経験があるためであろうか? 

確かに初めての夏合宿はきつかったが、今では良き想い出になっている。

人に理由を尋ねられたときには、上記のようなことを話していたのも事実である。しかし、私には本当の理由は、それだけではない気が何となくしていた。


学生時代は勿論、社会人となってからも北岳には何度も登頂した。何故、それほど好きなのかもよく分からないままに。


何年ぶりだろうか? おそらく40年以上の歳月が過ぎ去っているはずだ。『日本百名山』(深田久弥著)の第80章、北岳(P.174-175)を開き、読み返した。


わずか2ページの短い文章の中に、次のような記述があることを再発見した。


『そんなに古くから名の聞えた山であり、わが国第二の高峰でありながら、あまり人に知られていないのは、一つにはこの山が謙虚だからである。どうだおれは、といったような、抜きん出て人の眼を引こうとするところがない。

奇矯な形態で、その存在を誇ろうとするところもない。それでいて高い気品をそなえている。いつも前山のうしろに、つつましく、しかし凛とした気概をもって立っている。奥ゆかしい山である。』

この北岳の高潔な気品は、本当に山を見ることの好きな人だけが知っていよう

白峰三山の中でも、北岳は形がスッキリしていて、清秀な高士のおもかげがある。

南の間ノ岳や農鳥岳から見ても立派であるが、少し近すぎる。むしろ北の駒ヶ岳やアサヨ峰まで退いて望んだ時の北岳の姿は、まさに絶品である。

俊と天を突くような鋭い頭角をあげ、飄爽として軽薄でなく、ピラミッドでありながら俗っぽくない。惚れ惚れするくらい高等な美しさである。富士山の大通俗に対して、こちらは鉄人的である。』

『しかもその肩から上の秀抜さを支えている、下半身の腰廻りの大きいことはどうだろう。これほどドッシリした土台を踏まえた峰は稀である。

野呂川が大きくこの山を巻いているが、それに流れ込む多くの沢、その沢のどの一筋を遡るのも容易でないことを思えば、そのみごとな大きい根の張りかたが察しられよう。』


私は、青年期に、深田久弥の著書を一度読んだだけで、洗脳されていたのだろうか。


日本三百名山

山岳名標高都道府県
富士山3,776山梨・静岡
北岳3,193山梨(南アルプス)
穂高岳 <奥穂高岳>3,190長野・岐阜(北アルプス)
間ノ岳3,190山梨・静岡(南アルプス)
槍ヶ岳3,180長野・岐阜(北アルプス)
荒川岳(悪沢岳)3,141静岡(南アルプス)
赤石岳3,121長野・静岡(南アルプス)
御嶽山3,067長野・岐阜
塩見岳3,047長野・静岡(南アルプス)
仙丈ヶ岳3,033山梨・長野(南アルプス)
乗鞍岳3,026長野・岐阜(北アルプス)
農鳥岳3,026山梨・静岡(南アルプス)
立山3,015富山(北アルプス)
聖岳3,013長野・静岡(南アルプス)
剱岳2,999富山(北アルプス)
水晶岳黒岳2,986富山(北アルプス)
甲斐駒ヶ岳2,967山梨・長野(南アルプス)
木曽駒ヶ岳2,956長野(中央アルプス)
白馬岳2,932富山・長野(北アルプス)
薬師岳2,926富山(北アルプス)
鷲羽岳2,924富山・長野(北アルプス)
野口五郎岳2,924富山・長野(北アルプス)
大天井岳2,922長野 (北アルプス)
八ヶ岳 <赤岳>2,899山梨・長野
笠ヶ岳2,898岐阜(北アルプス)
鹿島槍ヶ岳2,889富山・長野(北アルプス)
空木岳2,864長野(中央アルプス)
赤牛岳2,864富山(北アルプス)
常念岳2,857長野(北アルプス)
鳳凰山<観音ヶ岳>2,841山梨(南アルプス)
南駒ヶ岳2,841長野(中央アルプス)
三俣蓮華岳2,841富山・長野・岐阜(北アルプス)
黒部五郎岳2,840富山・岐阜(北アルプス)
針ノ木岳2,821富山・長野(北アルプス)
五竜岳2,814富山・長野(北アルプス)
上河内岳2,803長野・静岡(南アルプス)
アサヨ峰2,799山梨(南アルプス)
蓮華岳2,799富山・長野(北アルプス)
燕岳2,763長野(北アルプス)
白山2,702石川・岐阜
唐松岳2,696富山・長野(北アルプス)
鋸岳2,685山梨・長野(南アルプス)
爺ヶ岳2,670富山・長野(北アルプス)
餓鬼岳2,647長野(北アルプス)
霞沢岳2,646長野(北アルプス)
天狗岳2,646長野(北アルプス)
笊ヶ岳2,629山梨・静岡(南アルプス)
烏帽子岳2,628富山・長野(北アルプス)
越百山2,614長野(中央アルプス)
奥大日岳2,611富山(北アルプス)
雪倉岳2,611新潟・富山(北アルプス)
茶臼岳2,604長野・静岡(南アルプス)
金峰山2,599山梨・長野
光岳2,592長野・静岡 (南アルプス)
国師ヶ岳2,592山梨・長野
日光白根山2,578栃木・群馬
浅間山2,568群馬・長野
蓼科山2,531長野
男体山2,486栃木
女峰山2,483栃木
甲武信ヶ岳2,475埼玉・山梨・長野
奥茶臼山2,474長野(南アルプス)
火打山2,462新潟
焼岳2,455長野・岐阜(北アルプス)
妙高山2,454新潟
鉢盛山2,447長野
朝日岳2,418新潟・富山(北アルプス)
毛勝山2,415富山(北アルプス)
焼山2,400新潟
池口岳2,392長野・静岡(南アルプス)
太郎山2,368栃木
安平路山2,363長野(中央アルプス)
燧ヶ岳2,356福島
四阿山2,354群馬・長野
高妻山2,353新潟・長野
大無間山2,330静岡
横手山2,307群馬・長野
経ヶ岳2,296長野(中央アルプス)
岩管山2,295長野
大雪山<旭岳>2,291北海道
有明山2,268長野
鳥海山2,236秋田・山形
瑞牆山2,230山梨
至仏山2,228群馬
佐武流山2,192新潟・長野
恵那山2,191長野・岐阜(中央アルプス)
草津白根山2,165群馬
武尊山2,158群馬
苗場山2,145新潟・長野
皇海山2,144栃木・群馬
トムラウシ山2,141北海道
平ヶ岳2,141群馬・新潟
白砂山2,140群馬・新潟・長野
会津駒ヶ岳2,133福島
飯豊山<大日岳>2,128新潟
御座山2,112長野
鍬崎山2,090富山(北アルプス)
中ノ岳2,085新潟
十勝岳2,077北海道
笠ヶ岳2,076長野(北アルプス)
黒法師岳2,068静岡
帝釈山2,060福島・栃木
大菩薩嶺2,057山梨
黒姫山2,053長野
幌尻岳2,052北海道
櫛形山2,052山梨
岩手山2,038岩手
鳥甲山2,038長野
白石山(和名倉山)2,036埼玉
吾妻山2,035山形・福島
美ヶ原2,034長野
乾徳山2,031山梨
仙ノ倉山2,026群馬・新潟
雲取山2,017埼玉・東京・山梨
ニペソツ山2,013北海道
オプタテシケ山2,013北海道
山伏岳2,013山梨・静岡
景鶴山2,004群馬・新潟
越後駒ヶ岳2,003新潟
七面山1,989山梨(南アルプス)
月山1,984山形
石鎚山1,982愛媛
小秀山1,982長野・岐阜
カムイエクウチカウシ山1,979北海道
谷川岳1,977群馬・新潟
荒沢岳1,969新潟
巻機山1,967群馬・新潟
石狩岳1,967北海道
毛無山1,964山梨・静岡
雨飾山1,963新潟・長野
袈裟丸山1,961栃木・群馬
剣山1,955徳島
入笠山1,955長野(南アルプス)
一切経山1,949福島
朝日岳1,945群馬・新潟
宮之浦岳1,936鹿児島
鉢伏山1,929長野
霧ヶ峰 <車山>1,925長野
早池峰山1,917岩手
那須岳1,917栃木
飯縄山1,917長野
大峰山八経ヶ岳1,915奈良
戸隠山1,904長野
羊蹄山(後方羊蹄山)1,898北海道
瓶ヶ森1,897愛媛・高知
三嶺1,894徳島・高知
ニセイカウシュッペ山1,883北海道
猿ヶ馬場山1,875岐阜
朝日岳<大朝日岳>1,871山形
笹ヶ峰1,860愛媛・高知
蔵王山1,841宮城・山形
笈ヶ岳1,841富山・石川・岐阜
赤城山1,828群馬
大笠山1,822富山・石川
磐梯山1,816福島
奥三界岳1,811長野・岐阜
釈迦ヶ岳1,800奈良
高原山1,795栃木
黒岳1,793山梨
九重山1,791大分
大船山1,786大分
三ッ峠山1,785山梨
八海山1,778新潟
男鹿岳1,777福島・栃木
以東岳1,772山形・新潟
浅間隠山1,757群馬
祖母山1,756大分・宮崎
伊予富士1,756愛媛・高知
国見岳1,739熊本・宮崎
ペテガリ岳1,736北海道
三方岩岳1,736石川・岐阜
大山1,729鳥取
芦別岳1,726北海道
人形山1,726富山・岐阜
両神山1,723埼玉
利尻山1,721北海道
市房山1,721熊本・宮崎
山上ヶ岳1,719奈良
大日ヶ岳1,709岐阜
東赤石山1,706愛媛
茅ヶ岳1,704山梨
安達太良山1,700福島
霧島山(韓国岳)1,700宮崎・鹿児島
大台ヶ原(日出ヶ岳)1,695三重・奈良
御正体山1,681山梨
南木曽岳1,679長野
野伏ヶ岳1,674福井・岐阜
丹沢山1,673神奈川
鷲ヶ岳1,671岐阜
夕張岳1,668北海道
羅臼岳1,661北海道
熊伏山1,654長野
金剛堂山1,650富山
大崩山1,644宮崎
秋田駒ヶ岳1,637岩手・秋田
杁差岳1,636新潟
七ヶ岳1,636福島
栗駒山1,626岩手・宮城
岩木山1,625青森
経ヶ岳1,625福井
川上岳1,625岐阜
会津朝日岳1,624福島
高塚山1,621静岡
能郷白山1,617福井・岐阜
八幡平1,613岩手・秋田
傾山1,605大分
神威岳1,600北海道
白木峰1,596富山・岐阜
阿蘇山1,592熊本
八甲田山<大岳>1,585青森
浅草岳1,585福島・新潟
由布岳1,583大分
荒海山1,581福島・栃木
高千穂峰1,574宮崎・鹿児島
大門山1,572富山・石川
天塩岳1,558北海道
諏訪山1,549群馬
斜里岳1,547北海道
焼石岳1,547岩手
二岐山1,544福島
守門岳1,537新潟
三頭山1,531東京・山梨
位山1,529岐阜
荒島岳1,523福井
狩場山1,520北海道
氷ノ山1,510兵庫・鳥取
愛鷹山1,504静岡
船形山1,500宮城・山形
涌蓋山1,500熊本・大分
雌阿寒岳(阿寒岳)1,499北海道
暑寒別岳1,492北海道
余市岳1,488北海道
烏帽子岳(乳頭山)1,478岩手・秋田
森吉山1,454秋田
榛名山1,449群馬
和賀岳1,439岩手・秋田
箱根山1,438神奈川
荒船山1,423群馬・長野
二王子岳1,420新潟
祝瓶山1,417山形
天城山1,406静岡
尾鈴山1,405宮崎
御神楽岳1,386福島・新潟
斑尾山1,382新潟・長野
伊吹山1,377岐阜・滋賀
鶴見岳1,375大分
護摩壇山1,372奈良・和歌山
神室山1,365秋田・山形
雲仙岳1,359長崎
五葉山1,351岩手
伯母子岳1,344奈良
扇ノ山1,310兵庫・鳥取
ニセコアンヌプリ1,308北海道
武甲山1,304埼玉
粟ヶ岳1,293新潟
道後山1,271鳥取・広島
大岳山1,266東京
冠山1,257福井・岐阜
那岐山1,255鳥取・岡山
大山1,252神奈川
高見山1,248三重・奈良
吾妻山1,239島根・広島
高隈山1,236鹿児島
白神岳1,235青森
三峰山1,235三重・奈良
三本杭1,226愛媛・高知
青海黒姫山1,221新潟
武奈ヶ岳1,214滋賀
御在所岳1,212三重・滋賀
金時山1,212神奈川・静岡
上蒜山1,202鳥取・岡山
英彦山1,199福岡・大分
大滝根山1,192福島
泉ヶ岳1,175宮城
蓬莱山1,174滋賀
金北山1,172新潟
太平山1,170秋田
駒ヶ岳1,131北海道
三瓶山1,126島根
金剛山1,125大阪・奈良
姫神山1,124岩手
藤原岳1,120三重・滋賀
桜島1,117鹿児島
妙義山1,104群馬
大千軒岳1,072北海道
篠山1,065愛媛・高知
脊振山1,055福岡・佐賀
樽前山1,041北海道
倶留尊山1,037三重・奈良
八溝山1,022福島・栃木・茨城
摩耶山1,020山形
多良岳996佐賀・長崎
米山993新潟
大和葛城山959大阪・奈良
医王山939富山・石川
六甲山931兵庫
開聞岳924鹿児島
愛宕山924京都
竜門岳904奈良
筑波山877茨城
比叡山848滋賀・京都
日本三百名山(標高順)
引用: 『日本百名山』(深田久弥、新潮社、初刊1964年7月)
引用:日本三百名山(日本山岳会選1978年)
太字は『日本百名山』 に収載されている山岳である

世界の千仞之山

富士山は、日本一の標高(3776m)を誇る。しかし、日本から世界に目を向けると標高が富士山よりも高い山が少なくとも93座もある。

日本のマッターホルンと称される槍ヶ岳(標高3180m)は、本場ヨーロッパアルプスの名峰、マッターホルン(4478m)と比較すると標高差は1298mもある。

そのマッターホルンの2倍近い標高を有するのが世界最高峰のエベレスト(8848m)である。

世界には富士山や槍ヶ岳よりも高い山々がゴロゴロしている。


マッターホルン

私は、ガイドを雇えなかったのでマッターホルンに登頂はできなかったが、 マッターホルンの肩にある有名な山小屋、 ヘルンリヒュッテ (標高3260m)まで単独で登った経験がある。

またマッターホルン周辺のハイキングコースを歩き回り、マッターホルンの三角錐の山容を角度を変えて写真に収めた経験もある。

マッターホルン は見る方向が違うと全く違った姿を見せてくれるので、飽きることはなかった。

冬場は、マッターホルンの対岸のスキー場でスキーを楽しむと同時に、厳冬期の人を寄せ付けないマッターホルンの雄姿を眺めていたものである。マッターホルン山麓の町、ツェルマットには死ぬまでにもう一度行ってみたい。


マッターホルンには特別な思い出がある

還暦も過ぎ、今だからカミングアウトすると、私はマッターホルンの写真を撮ろうと周辺のハイキングコースを歩いていたときに遭難しそうになった経験がある。1986年8月のことである。

その日は晴天で軽装でも汗ばむ陽気であった。ところが、天候の急変に遭遇し、真夏なのに吹雪の中で遭難しそうになったのである。視界が全く利かない状態であった。

偶然にもリフトの架線を頼りにしてリフトの操縦小屋に辿りつくことができ、一夜をそこで過ごした。 わずかばかりの非常食で飢えをしのぐことはできたが、 火器を持参していなかったので暖を取ることはできず震えた。

凍死するのではないかと真面目に思ったものである。この時ほど早く吹雪が止み、朝が来るのが待ち遠しく思ったことはない。

脳裏に死の恐怖が浮かんだのもこのときが最初である。一睡もできず、また、眠ったら凍死するだけだと思っていたら、どこからかスズメが一羽、迷い込んできた。私は、その一羽のスズメの仕草を眺めることで気を落ち着かせていたが、その日の日記には震える手で母への遺言を書いていた。


幸いにも翌日は、吹雪も止み、快晴であった。朝日に輝くマッターホルンは実に眩しかった記憶がある。写真にも収めている。

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遭難未遂(?)の翌朝に見た、黄金色に輝くマッターホルンの雄姿

無事、生還することができた安堵で、山のホテルに着くなりベットで爆睡したみたいで、記憶が飛んでいる。その当時の記憶は、朝日で眩しかったマッターホルンの雄姿しか記憶にない。

4000m級の山の天候は、本当に急変するものだと実感した。山への畏れを深く胸に刻んだ経験にもなった。山を、自然を決して侮ってはいけない。このときの経験が、それ以降の私の山旅をより慎重なものにした。


世界百名山

「世界には富士山や槍ヶ岳よりも高い山々がゴロゴロしている」と書いたが、実際に調べてみたところ始めて聞く名前の山岳もあって興味深い。

山岳名標高地域・国名
サガルマータ(エベレスト)8,848ネパール・ヒマラヤ
ケー・ツー(K2)8,611パキスタン
カンチェンジュンガ8,586ネパール・ヒマラヤ
ローツェ8,516ネパール・ヒマラヤ
マカルー8,463ネパール・ヒマラヤ
チョー・オ・ユー8,201ネパール・ヒマラヤ
ダウラギリ8,167ネパール・ヒマラヤ
マナスル8,163ネパール・ヒマラヤ
ナンガ・パルパット8,126パキスタン
アンナプルナⅠ8,091ネパール・ヒマラヤ
シシャパンマ8,072中国
ガッシャ-ブルムⅠ8,068パキスタン
ブロード・ピーグ8,051パキスタン
ガッシャ-ブルムⅡ8,035パキスタン
ガッシャ-ブルムⅣ7,980パキスタン
ギャチュン・カン7,952ネパール・ヒマラヤ
アンナプルナⅡ7,937ネパール・ヒマラヤ
ヒマルチチュリ7,893ネパール・ヒマラヤ
ディステギール・サール7,885パキスタン
キンヤン・キッシュ7,852パキスタン
マッシャーブルム7,821パキスタン
ナンダ・デヴィ7,816インド
ラカボシ7,788パキスタン
バトゥーラ7,785パキスタン
ナムチャ・パルワ7,782中国
カメット7,756インド
サルトロ・カンリ7,742パキスタン
トリヴォール7,728パキスタン
クンパカルナ7,710ネパール・ヒマラヤ
ナムナヌ・フェン(カイラス)7,694中国
ティリチ・ミール7,690パキスタン
サセール・カンリⅠ7,672インド
チョゴリザ7,654パキスタン
ミニア・コンガ7,556中国
ムズターグ・アタ7,546中国
ガンケル・ブンズム7,541ブータン
クーラ・カンリ7,538中国
マモストン・カンリⅠ7,526インド
コムニズム峰7,495ロシア・中央アジア
マルビティン7,458パキスタン
ボベータ峰7,444ロシア・中央アジア
パラモシュ7,409パキスタン
リモⅠ7,385インド
チョモラーリ7,364中国
チャムラン7,319ネパール・ヒマラヤ
ギャラ・ペリ7,294中国
バインター・ブラック7,285パキスタン
ムスターグ・タワー7,273パキスタン
ランタン・リルン7,234ネパール・ヒマラヤ
メンルンツェ7,175中国
ブモリ7,161ネパール・ヒマラヤ
ガウリ・シャンカー7,134ネパール・ヒマラヤ
レーニン峰7,134ロシア・中央アジア
アビ7,132ネパール・ヒマラヤ
サトバンド7,075インド
スパンティーク7,027パキスタン
ハン・テングリ7,010ロシア・中央アジア
マチャブチャレ6,993ネパール・ヒマラヤ
ドルジェ・ラクバ6,966ネパール・ヒマラヤ
アコンカグア山6,959アンデス・パタゴニア
シニオルチュー6,887インド
アマ・ダブラム6,812ネパール・ヒマラヤ
ジチュダケ6,809ブータン
ワスカラン6,768アンデス・パタゴニア
カンリンボチェ・フェン6,656中国
イェルバハ6,634アンデス・パタゴニア
ニルカンタ6,596インド
シプリン6,543インド
ワンドイ6,395アンデス・パタゴニア
サルカンタイ6,271アンデス・パタゴニア
チンボラッソ6,268アンデス・パタゴニア
サンタ・クルス山6,241アンデス・パタゴニア
デナリ(マッキンリー)6,194アラスカ・ロッキー
チャクララフ6,112アンデス・パタゴニア
コトバクシ6,005アンデス・パタゴニア
ローガン山5,951アラスカ・ロッキー
アルパマーヨ5,947アンデス・パタゴニア
キリマンジャロ5,895アフリカ
ダマヴェント5,671イラン
エルブルース5,642ロシア・中央アジア
ホーレイカー山5,304アラスカ・ロッキー
ケニア山5,199アフリカ
アララット山5,123トルコ
ルウェンゾリ山塊5,110アフリカ
ヴィンソン・マシーフ4,897南極大陸
カールステンツ・ピラミッド4,884インドネシア
モン・ブラン4,807ヨーロッパ・アルプス
ウシュバ4,710ロシア・中央アジア
ヴァイスホルン4,505ヨーロッパ・アルプス
マッターホルン4,478ヨーロッパ・アルプス
グランド・ジョラス4,208ヨーロッパ・アルプス
アイガー3,970ヨーロッパ・アルプス
ロブソン山3,954アラスカ・ロッキー
富士山3,776日本
クック山3,754ニュージランド
アッシニボイン山3,618アラスカ・ロッキー
フィッツ・ロイ山3,405アンデス・パタゴニア
パイネ・グランデ3,050アンデス・パタゴニア
白頭山2,744朝鮮
シナイ山2,285アフリカ
(引用)世界百名山 (kamoshikanagai.jp)
選定者: 白川義員、クリス・ボニントン卿、クルト・ディムベルガー、王富州、モーリス・エルゾーグ、エドムンド・ヒラリー卿、ナジール・サビール、重廣恒夫他

あとがき

日頃の運動不足の上に、シニアになって益々体力に自信が無くなってしまった。今となっては、世界の高山はおろか日本の山ですら登山することはままならない。遊山玩水は夢のまた夢である。

時折、テレビで放送される山旅紀行を見て、バーチャルで登山を楽しんでいる今日この頃である。でも不思議と後悔はない。

深田久弥氏の著書『日本百名山』を偶然、再読したのをきっかけに遠い昔のことを思い出し、本稿を書いた次第である。個人的な話で、読者の皆さんの役には立たなかったかも知れない。それでも最後まで読んで頂き、ありがとうございました。


千仞之山【せんじんのやま】
非常に高さのある山を言い表す言葉。「仞」は長さの単位で、「千仞」は非常に高さがあることのたとえ。「千尋之山」とも書く。
引用:四字熟語辞典ONLINE.
遊山玩水 【ゆうざんがんすい】
山や川などの美しい自然の景色を見て、自然を楽しむこと。「玩」は満足するまで楽しむこと。「山に遊びて水を玩ぶ」とも読む。「遊山」は「游山」とも、「玩水」は「翫水」とも書く。
引用:四字熟語辞典ONLINE.