はじめに
価値観の多様化や社会環境の変化を受けて、働き方の選択肢の一つとして起業を挙げる人が増えてきた。就業者全体に占める割合は依然として少ないものの、キャリア形成における選択肢の一つとして浸透しつつあるように思う。
私の知り合いの中にも起業を挑戦して大成功した人もいれば、そうでない人もいる。そもそも「起業の成功」の定義が不明確である以上、知人の起業を正当に評価できる立場に私はいない。
起業の仕方には、個人事業主としての起業と法人としての起業、この2つの選択肢がある。ここでは、法人として起業を検討する場合に着目して、知っておきたい手続きや一連の流れについて解説したいと思う。つまり、「起業して法人を立ち上げたいけど、何から始めればいいの?」と考えている人のために、法人設立の基本的な流れと必要な手続きを、簡潔にまとめてみた。
| <目次> はじめに 起業前に準備すべきこと 準備から事業開始までの流れ 会社の印章を作成 会社の基本事項を決定 定款の作成 定款の認証 資本金の払い込み 登記申請に必要な書類の準備 法務局で登記申請 登記完了の証明書を取得 税務署・自治体などへの届出 法人税関係は税務署へ届出 地方税は地方自治体に届出 社会保険・労働保険の届出 法人口座を開設する あとがき |
起業前に準備すべきこと
「雇われる働き方」から「雇われない働き方」へのキャリアチェンジは、非常に魅力的である反面、大きなリスクを伴う。起業へとキャリアの舵を切る決意をしたら、まずは必要な準備を計画的に進めることから始めよう。
起業前には、まずどのようなことを準備しておけばいいのかを説明したい。
1. 事業計画書を作成する
事業計画書は、起業の方向性や創業者の考えのほか、起業を成功させるための行動プロセスなどを言語化し、書類にまとめたものである。事業計画書を書くと頭の中が整理され、起業の成功に向けて足りないものや余計なもの、より良いアプローチの仕方などを可視化することができる。(事業計画については別稿を参照)
2. 資本金を準備する
事業計画が固まったら、資本金の準備に移る。2006年の会社法の施行に伴い最低資本金制度が撤廃され、資本金1円から会社を設立できるようになった。
一方、資本金は返済の必要がない純資産であり、金額が大きければ大きいほど財務体質の安定性を証明するものでもある。つまり、資本金額が大きい方が会社として信頼されやすい。
一定の信用力が得られる額であることを前提に、事業計画書の資金計画を踏まえて資金準備を始めよう。
一般的には初期費用に加えて、3ヵ月から半年程は売上がゼロでも事業を継続できる金額があると安心である。
準備から事業開始までの流れ
実際に会社を設立するための準備から、事業開始までの流れは下表の通りである。

以下に、各ステップについて詳しく説明していきたい。
会社の印章を作成
会社を設立する場合、登記申請書に法人実印を捺印し、同時に印鑑登録をしなくてはならない。
この時点で必要なのは法人実印のみであるが、いずれ必要になる角印、銀行印なども用意しておくと、法人実印を使い回して紛失したり悪用されたりするリスクを軽減できる。
作成に時間がかかる場合もあるため、早めに発注しておくとよい。
会社の基本事項を決定
法人設立の準備は、会社の土台づくりからスタート! 定款にも掲載する「基本情報」を決定する:
- 会社の種類
- 例:株式会社、合同会社など
- 商号(会社名)
- 本店所在地
- 事業目的
- 資本金の額
- 設立に際して出資される財産の価額またはその最低額
- 発起人・役員の構成
- 発起人の氏名および住所
これらを明確にしておくことで、後の手続きがスムーズに進む。
定款の作成
定款【ていかん】とは、会社のルールブックのようなものである。 定款には、前述した基本情報のほかに基本的なルールを記す。定款に記載する項目は会社法で定められており、必須項目の記載漏れは無効になるので注意が必要である。
記載すべき項目の種類は、強制の程度によって下記の3つに分かれている。
<定款の記載事項の種類>
- 絶対的記載事項
- 必ず記載しなければならない
- 相対的記載事項
- 記載は必須ではないが、該当する場合は記載しなければ効力を生じないので要注意!
- 任意的記載事項
- 記載は必須ではない
定款の認証
株式会社や一般社団法人などは、定款が正しい手続きを経て作成されたものであることを証明するため、公証役場で認証を受けなくてはならない。つまり、「株式会社」で法人登記を行う場合には、公証役場での「定款認証」が必要である。
下記の必要書類などを用意して、本社所在地と同じ都道府県の公証役場へ行きましょう。
<定款認証に必要な主なもの>
- 定款 3部
- 3ヵ月以内に発行された、発起人全員の印鑑証明書 各1通
- 発起人全員の実印
- 現金
用意する現金の内訳としては、下記の通りです。
<用意する現金>
- 認証手数料:認証1件につき30,000~50,000円
- 設立登記申請用の謄本代:謄本1ページにつき250円
- 収入印紙代:40,000円(株式会社の場合のみ)
- 電子定款の場合は印紙代が不要(専門家に依頼するケースが多い)
資本金の払い込み
定款認証後、発起人の個人口座に資本金を払い込む。 この通帳のコピーが、後の登記で必要になるので忘れずに!
定款に記載した出資金額を所定の銀行口座に振り込む。といっても、この段階では会社名義の銀行口座は存在しないため、振込先は便宜的に発起人の個人口座となる。入金後は、確実に入金した証拠を残すため、下記の通帳のページのコピーをとっておく。
<コピーをとっておくべき通帳のページ>
- 振り込みをした発起人の個人口座の通帳の表紙
- 通帳の表紙をめくった1ページ目(氏名、支店、口座番号などが記載されているページ)
- 通帳の振込内容(入金額)が記載されているページ
登記申請に必要な書類の準備
法務局で登記申請をする際には、下記のような必要書類を準備しておかなければならない。なお、下記は取締役会を設置しない株式会社の設立に必要となる書類の場合である。
- 登記申請書
- 以下の事項を記載した上で、法人実印を押す
- 社名(商号)
- 本店所在地
- 登記の事由
- 登記すべき事項
- 課税標準金額
- 登録免許税の額
- 添付書類
- 申請年月日
- 代表者の住所・氏名
- 管轄法務局の名前
- 以下の事項を記載した上で、法人実印を押す
- 定款
- 認証を受けた定款のうち、1部(謄本)を提出
- 発起人の決定書
- 本店の番地まで含めた具体的な所在地について決定したことを記載
- 定款に番地まで含めた具体的な所在場所を記載していれば、発起人の決定書は不要
- 登録免許税納付用台紙
- 登録免許税分の収入印紙を貼付
- 登録免許税額は資本金額によって異なる
- 取締役の就任承諾書
- 設立時に取締役への就任を承諾したことを記す
- 代表取締役の就任承諾書
- 設立時に代表取締役への就任を承諾したことを記す
- 設立時取締役が1名で、設立時代表取締役と兼務している場合は不要
- 取締役の印鑑証明書
- 設立時取締役への就任を承諾した人の印鑑証明書が必要
- 出資金の払い込みを証明する書類
- 定款に記載した出資金を振り込んだ銀行口座の、通帳のコピーが必要
- 印鑑届書
- 法人実印の届け出のための印鑑届書が必要
- 登記すべき事項を記載・記録した書類、またはCD-R
- 登記すべき事項を記載・記録したものが必要となるが、これは、PCで作成して印刷した書類でも、CD-Rでも問題ない
- 作成手順や記載方法については法務省のウェブサイトで確認することができる
法務局で登記申請
いよいよ法人としての正式な登録!法務局へ以下の必要書類を提出する。書類の不備がなければ、登記は4日程で完了。
- 登記申請書
- 定款
- 資本金の払込証明
- 役員の就任承諾書
- 印鑑届出書 など
登記が完了すれば、晴れて法人設立である!
登記完了の証明書を取得
無事に会社の登記が完了したら、そのことを示すための証明書を取得する。
<登記完了後に取得が必要な証明書>
- 登記事項証明書(登記簿謄本)
- 印鑑証明書(法務局から印鑑カードの交付を受けた上で取得)
上記2つの証明書のうち、登記事項証明書(登記簿謄本)の交付は、法務局に出向かずとも法務局のサイト上で利用できる登記・供託オンライン申請システム「登記ねっと 供託ねっと」からでも取得できる
登記事項証明書の内容を確認し、誤りがなければ設立登記は完了である。
税務署・自治体などへの届出
会社設立後も、事業を開始する前にしておくべき手続きをある。つまり、いくつかの届出が必要ではある。
- 税務署:
- 法人設立届出書
- 青色申告の承認申請書など
- 都道府県税事務所・市区町村:
- 法人設立届出書
- 年金事務所:
- 健康保険・厚生年金の加入手続き
- 労働基準監督署・ハローワーク:
- 従業員を雇う場合は労働保険の手続きも
法人税関係は税務署に届出
設立登記から2ヵ月以内に、税務署に定款の写しを添付して提出する。
そのほかにも、源泉所得税関係や消費税関係の届出書等を提出する必要がある。
また、必要に応じて、青色申告の承認申請書等も提出する。
地方税は地方自治体に届出
地方税に関する手続きは、各自治体で行う。法人設立届出書、定款の写し、登記事項証明書(履歴事項全部証明書)を用意し、各自治体の窓口に提出する。
なお、提出期限は各自治体によって異なる。東京都で法人を設立した場合は、都税事務所への届け出が必要だが、設立から15日以内に行う必要があるため注意が必要である。
社会保険・労働保険の届出
会社を設立した場合、原則として健康保険、介護保険および厚生年金保険(総称して「社会保険」という)に加入しなければならない。
また、従業員(パートやアルバイトを含む)を1人でも雇用した場合には、労災保険および雇用保険(総称して「労働保険」という)にも加入する必要がある。
社会保険については、設立時から5日以内に、「新規適用届」を年金事務所に提出する。また、従業員を雇用した場合等、新たに社会保険に加入すべき者が生じたときは、やはり5日以内に「被保険者資格取得届」(被扶養者がいる場合には「被扶養者異動届」も併せて)の提出が必要である。
一方、労働保険については、労働者を雇用して事業を開始した日(保険関係成立日)から10日以内に、「労働保険関係成立届」を労働基準監督署に提出し、その後、「雇用保険適用事業所設置届」および「雇用保険被保険者取得届」をハローワーク労働保険の加入手続きも行う必要がある。
なお、労働保険については、保険関係成立日から50日以内と毎年定期(6月1日~7月10日)に労働保険料を申告納付する必要がある点にも留意する必要がある。
法人口座を開設する
口座の名義が、設立した会社名になっているものを「法人口座」という。法人として事業をする場合、個人名義の口座で取引をすることに問題はないが、公私混同を疑われたり、管理の手間が増えたりする懸念がある。
法人口座で取引をした方が信頼度も高いため、できればビジネスの取引のみに使用する法人口座を作っておく方が良い。
なお、法人口座は審査が厳しく、申請から開設までには時間がかかる。そのため法人登記を済ませたら、できるだけ早く準備をしよう。
銀行によって必要な書類は異なるが、一般的には商業登記簿謄本、定款、法人実印、法人実印の印鑑証明書、代表者の実印と印鑑証明書、代表者の身分証明書などが必要である。
あとがき
法人設立は「段取り」がカギ!
法人設立は、やることが多くて大変そうに見えるが、流れを押さえておけば意外とスムーズに進められる。 必要に応じて、行政書士や司法書士などの専門家に相談するのもおすすめである。