はじめに
「適量の酒はどんな良薬よりも効果がある」とお酒を賛美している意味の言葉として、よく「酒は百薬の長」という言葉を聞くことがある。
実際にお酒を適量飲むことで、アルコールがLDL(悪玉コレステロール)の増加を抑え、HDL(善玉コレステロール)が増加することや、血液が血管の中で詰まりにくくなるため、心筋梗塞や狭心症など虚血性心臓病を予防する効果が確かめられているそうだ。
しかし、人間ドック前のアンケート調査では必ず飲酒の嗜好が問われる。お酒を毎日大量に摂取すれば中性脂肪が増加し、HDLの低下、LDLの増加につながり、さらには血圧上昇や高血糖状態をも引き起こすリスクが高まるとされている。
お酒は飲み方次第で薬にも毒にもなるということで、健康面の観点からも「酒は百薬の長、されど万病の元」と胆に銘じたい。
またストレス発散のための飲酒は深酒になる傾向があるので、「酒は飲んでも飲まれるな」とことわざにもあるように、自分を見失うような程の飲酒は避けなければならないと思う。
世の中にはお酒を体質的に一切飲めない方もいるが、一般論としてお酒が飲める成人にとって飲酒は楽しいひと時であることが多い。
実際にお酒を飲むと血液中に入ったアルコールは脳に到達し、爽やかな気分や陽気になるなど、普段人前で話が上手にできない人や緊張している人に緊張をほぐしてくれることもある。
私は晩酌をする習慣がないので、お酒に詳しくはない。どちらかと言うと疎い方だと思う。しかし味覚については少しは分かるようになってきた。ただお酒についての知識がまるでない。だから折角高級なお酒を頂いても適切な言葉で称賛できないでいる。
そこで時間的な余裕が生まれてきたこの機会にお酒について勉強してみようと思った次第である。ちなみに私は、幸いにもワイン、ビール、ウイスキー、日本酒、焼酎と大抵のお酒は飲めるようになった。したがって、これらのお酒の基本知識について学ぼうと思う。
<目次> はじめに ワイン 原料(ワイン用ブドウ) 製造方法 ビール 原料 製造方法 ウイスキー 原料 製造方法 日本酒 原料 製造方法 焼酎 原料 製造方法 |
ワイン
ワインとは、ブドウ果実を原料として醸造した酒類のことで、「醸造酒」に分類される。
【原料】
ブドウには、「ワイン用のブドウ」と「生食用のブドウ」があるが、ワインの原料となるのは「ワイン用ブドウ」である。
ワイン用ブドウの種類には、赤ワイン用として、カベルネ・ソーヴィニヨン、ピノ・ノワール、シラー(シラーズ)やマスカット・ベーリーAなどが知られている。
一方、白ワイン用には、シャルドネ、ソーヴィニヨン・ブラン、リースニングや甲州などが知られている。
カベルネ・ソーヴィニヨン |
世界で最も有名な黒ブドウ品種の一つで、良質な赤ワインを造ることができる。フランスのボルドー地方をはじめ、カリフォルニアやチリ、アルゼンチン、イタリアなどで栽培されている。タンニンが強く、長期熟成帯のワインに適した品種であるという。 |
ピノ・ノワール |
世界的に有名な黒ブドウ品種で、フランス・ブルゴーニュ地方で造られている赤ワインの主要品種である。冷涼な地域を好み、さらにはデリケートなので栽培が大変難しいとされている品種らしい。 |
シラー(シラーズ) |
フランスのコート・デュ・ローヌ地方、オーストラリアの主要品種として有名な黒ブドウである。タンニンが豊富で重厚感のある味わいに仕上がるが、果実味を感じることができるという。ジューシーな印象のワインを生み出すので人気のある赤ワイン用品種として愛されているという。 |
マスカット・ベーリーA |
ヴィニフェラ種のマスカット・ハンブルグとラブルスカ種のベーリーを交配した、生食用黒ブドウである。生食用ということもあり、長年低い評価を受けていたが、近年栽培方法、収穫時期、醸造法などの見直しによって非常に品質の高い、赤ワインが醸造されるようになっているという。 |
シャルドネ |
ワインの生産国で、シャルドネを造っていない国は無いと言われるほどに世界中で人気の白ブドウ品種である。フランスのブルゴーニュ地方の白ワインの主要品種であるという。シャブリやモンラッシェなど、有名なワインにも使用されていることで知られている。 |
ソーヴィニヨン・ブラン |
フランスのロワール地方、ニュージーランドの主要品種として人気の白ブドウ品種である。 |
リースニング |
ドイツ、フランスのアルザス地方の主要品種として知られている。辛口から極甘口まで、幅広いスタイルのワインに使用される、汎用性の高い白ブドウ品種として人気であるという。 |
甲州 |
日本を代表する白ブドウ品種である。鉄分が少ないとされており、和食との親和性がどの白ブドウ品種よりも高く、刺身、寿司、煮物などとのマリアージュが多く提案されている。日本ワインにおける甲州の生産量の大半は山梨県である。 |
【製造方法】
ワイン造りの基本は、下記のステップで行われる。
- 原料となるブドウの収穫
- ブドウの破砕・除梗
- アルコール発酵
- 澱引き【おりひき】
- 清澄【せいちょう】
- 濾過
- 瓶詰め
- 出荷
ビール
ビールは、一般的には主に大麦を発芽させた麦芽(デンプンがアミラーゼ(酵素)で糖化している)を、ビール酵母によってアルコール発酵させて作る。麦芽の糖化液にホップを加えて低温で発酵させ、発生した炭酸ガスを混和した飲料(麦酒)である。
【原料】
ビールの主原料は、麦芽(大麦麦芽など)、ホップと水である。麦芽由来の成分が発酵により炭酸ガスとアルコール、そしてビールの香りや味の成分を造り出す。
一方、ホップの成分は、ビールの苦味と香りを生み出してビール独特の味わいを誕生させる。麦芽やホップの種類によってビールの味は大きく変わるので、原料選びは重要である。
麦芽とホップ以外に米、コーンやスターチなどのさまざまな副原料を加えることで、味をすっきりさせたり香味を調整し、ビールの味のバリエーションを拡げるという。
【製造方法】
ビール造りの基本は、下記のステップで行われる。
- 麦芽の製造
- 仕込み
- 発酵
- 貯酒
- 容器詰め
麦芽の製造工程は、大麦を溶けやすく、分解されやすい状態の麦芽に加工する工程である。大麦のホコリやゴミを取り除き、浸麦槽で水分を含ませ、発芽室で適度に発芽させた後、乾燥室で熱風で焙燥させる。
仕込み工程では、細かく砕いた麦芽と米などの副原料を温水と混ぜ合わせる。適度な温度で、適当な時間保持すると、麦芽の酵素の働きででんぷん質は糖分に変わり、糖化液の状態になる。これをろ過してホップを加え、煮沸させる。ホップはビールに特有の苦味と香りをつけると同時に麦汁中のたんぱく質を凝固分離させ、液を澄ませる大切な働きをする。この仕込み工程でできた熱麦汁は次に発酵工程に移される。
発酵工程では、熱麦汁を5℃くらいに冷却し、これに酵母を加えて発酵タンクに入れる。7~8日の間に酵母の働きによって、麦汁中の糖分のほとんどがアルコールと炭酸ガスに分解される。こうしてできあがったビールは若ビールと呼ばれ、まだビール本来の味、香りは十分ではない。
貯酒工程では、若ビールは貯酒タンクに移され、0℃くらいの低温で数十日間貯蔵される。この間にビールはゆっくり熟成し、調和のとれたビールの味と香りが生まれる。熟成の終わったビールはろ過され、透きとおった琥珀色のビールができあがる。
容器詰め工程では、およそ2~3カ月間経たビールをびんや缶あるいは樽に詰めて出荷する。
ウイスキー
ウイスキーは、大麦、ライ麦、トウモロコシなどの穀物を麦芽の酵素で糖化し、これをアルコール発酵させた後に蒸留した「蒸留酒」である。
【原料】
ウイスキーの主原料は、大麦、小麦、トウモロコシ、ライ麦などの穀物を原料とする麦芽と水である。
原料の大麦には、モルトウイスキーづくりに適した性質をもつ二条大麦が使われる。
酵母は糖分をアルコールに変えることはできても、大麦のでんぷんをそのままアルコールに変えることはできない。そのため糖化という工程が必要になる。
しかし、その前に糖化の役目を担う酵素を大麦自身の中につくらせるために発芽した麦を乾燥させ、麦芽を作る必要がある。
水は、ウイスキーづくりにとってその品質を決める大きな要素の一つとして重要である。
ウイスキー製造用水の必要条件は、異味、異臭がなく、飲んでもおいしい水であるとともに、酵母の生育に好ましい適度なミネラルがバランス良く含まれることが重要である。
【製造方法】
ウイスキー造りの基本は、下記のステップで行われる。
- 製麦(麦芽の製造)
- 仕込み(酸化/糖化)
- 発酵
- 蒸留
- 熟成(貯蔵)
- ヴァッティング
- ブレンド
仕込み工程では、製麦で作った麦芽を粉砕し、加温した仕込み水と混ぜてお粥状態にする。この工程で麦芽中の酵素が働き、でんぷんを糖分に変える。これをろ過して、発酵に使用する麦汁をつくる。
発酵工程では、仕込みで作った麦汁をアルコール分約7%の発酵液に変える。発酵中の麦汁に酵母を加えると、酵母は麦汁中の糖分を分解し、アルコールと炭酸ガスに変え、ウイスキー特有の香味成分をつくる。
酵母の種類や発酵条件によって香りなどに特長が生じる。発酵は約60時間で終了する。
この工程でできた発酵液をもろみと呼び、この段階でのアルコール分は約7%である。
蒸留工程では、発酵の終わったもろみを銅製のポットスチルと呼ばれる単式蒸溜器にいれて二度蒸溜し(初溜と再溜)、アルコール濃度を65~70%に高める。
この生まれたばかりのウイスキーをニューポットと呼ぶ。蒸留の原理は、アルコールが約80度で沸騰する性質を利用し(沸点の違いを利用)、蒸気を発生させ、これを冷却・液体化させて、アルコールや香気成分などの揮発成分だけをとり出す。
蒸溜釜の形と大きさ、蒸溜方法や加熱方式を使い分けることで、様々なタイプのモルト原酒をつくることができるという。
貯蔵工程とは、蒸溜で製したニューポットを樽の中で長期間じっくり寝かせる工程をいう。貯蔵工程の期間は、一般的には3年、5年、10年に及ぶ。ウイスキーの琥珀色、奥深い味わいの秘密はこの貯蔵、樽熟成にある。
樽材にはホワイトオーク、スパニッシュオーク、ミズナラなどがある。ウイスキー原酒は、貯蔵環境(気温、湿度)によっても熟成の度合いが微妙に変化し、複雑な反応を見せ、多彩なウイスキー原酒が生まれるという。
モルト原酒同士を混和することをヴァッティングと呼ぶ。ちなみに熟成年数表示は、使用されたモルト原酒の中での最低年数を示しており、ヴァッティングされるモルト源酒の平均熟成年数はもう少し高くなる。
ブレンデッドウイスキーの場合、モルト原酒と麦以外の原料で作ったグレーン原酒をブレンドする。個性の強いモルト原酒と個性の穏やかなグレーン原酒が新たなハーモニーを生み、ブレンデッドウイスキーの香味が仕上がるという。
日本酒
日本酒は、米(蒸米)、米麹と水を原料とし、アルコール発酵させた醸造酒である。麹【こうじ】(蒸した穀類に麹菌を加えて繁殖させたもの)を使い、麹の酵素によって米のデンプンを糖分(ぶどう糖)に変え(糖化)、酵母の力でアルコール発酵させて製造する。
【原料】
日本酒の主原料は、米、米麹と水である。
【製造方法】
日本酒造りの基本は、下記のステップで行われる。
- 精米
- 洗米/浸漬【しんせき】
- 蒸米/放冷
- 麹造り
- 酒母造り
- 醪【もろみ】・仕込み
- 上槽【じょうそう】
- 濾過/火入れ
- 貯蔵/調合・割水
- 火入れ/瓶詰め
「糖化」と「アルコール発酵」の2つの化学反応を同時に同じタンクで行う技術を「並行複発酵」といい、世界でも類をみない高度な醸造方法であり、高アルコールの醸造酒を製造できる。ちなみにビールやウイスキーは、「糖化」と「アルコール発酵」が別のタンクで行う「単行複発酵」
焼酎
焼酎は、穀類・芋類・糖蜜などをアルコール発酵させ、それを蒸留してつくった蒸留酒である。
【原料】
焼酎は、主原料の米、麦、芋、黒糖などと、水、麹、醪といった原料で造る。
【製造方法】
焼酎造りの基本は、下記のステップで行われる。
- 原料の処理(麹原料及ぴ主原料の洗浄、浸漬、水切り、蒸きょう、冷却)
- 製麹【せいきく】
- 発酵
- 熟成
焼酎麹は、もろみで原料の溶解・分解に必要な酵素及び雑菌の汚染防止に必要なクエン酸を供給する役割を担っている。 九州をはじめとする諸県では白麹菌が使われる。
焼酎の発酵は、一次もろみ(酒母)と二次もろみ(本もろみ)に分けて行われる。一次もろみは麹と汲水を原料とし、これに培養酵母を添加して純粋で強健な酵母を多量に培養するとともに、二次もろみに必要な酵素とクエン酸の溶出を目的とする。 二次もろみは一次もろみに主原料と水を加えて、糖化と発酵を並行して行うことを目的としている。
本格焼酎は二次仕込みで蒸留する。焼酎の蒸留機は、単式蒸留機(ポット・スチル)と連続式蒸留機(パテント・スチル)に大別される。 単式蒸留機は、本格焼酎の蒸留に使われる。 連続式蒸留機は、連続式蒸留焼酎をはじめウオッカ、ジン、グレイン・ウイスキー、原料アルコールなどの蒸留に使われるという。
蒸留の仕方には、常圧蒸留と減圧蒸留の2つがある。常圧蒸留は500年の歴史を持つ伝統的な蒸留方法で、原料の特性が生かされ、原料本来の甘みや旨味と香りが楽しめる。
一方、減圧蒸留は1970年代前半に登場した新しい蒸留法である。蒸留機内部の圧力を下げ、低温で蒸留するため、淡麗でソフトな味わいになる。常圧蒸留の焼酎に比べ、飲みやすく、米焼酎や麦焼酎を中心に広く使用される。
焼酎の熟成変化は、3段階に分けられる。初期段階(蒸留後3~6カ月)では揮発しやすい刺激性のつよい成分が主として揮散・消失し、刺激的臭味が減少する。
中期段階(引き続いて3年まで)では種々の成分の酸化、縮合、付加による変化が主体となる。
古酒化段階(さらに3年以上)では不揮発性成分の濃縮、酸類とアルコール類の結合によるエステル化、丸味の増加、固有の香味成分の形成などの変化が起きる。
このように焼酎は蒸留後一連の熟成変化を経て古酒になる。