はじめに
バードウォッチングは、ただ単に野鳥を観察するだけの趣味ではなく、心身にさまざまな良い影響を与える活動であることはよく知られている。具体的な健康への利点として、例えば、下記のような利点が挙げられいる。
- ストレス軽減と精神のリラクゼーション
- 自然の中で過ごす時間は、自律神経のバランスを整え、心拍数や血圧を下げる効果がある
- バードウォッチングは自然に没入することで、心を落ち着けストレスを軽減する効果が期待できる
- 気分のリフレッシュや精神的な健康維持に役立つ
- 身体的な運動促進
- バードウォッチングはハイキングや長い散策を伴うため、適度な有酸素運動となる
- 歩くことによる血行促進、心肺機能の向上、そして筋力の維持・向上等、全体的なフィットネスの改善に繋がる
- 自然の中を歩くことで新鮮な空気を吸い、日光を浴びることができるのも健康に良い影響を与える
- 認知機能と感覚の向上
- 鳥を探し、細かい鳴き声や羽の動き、色彩の違いなどに注目することで、視覚や聴覚といった感覚が普段以上に活発に働く
- この感覚トレーニングは、観察力や集中力、さらには脳の情報処理能力を刺激するため、認知機能の維持や向上につながる可能性がある
- 自然との一体感と自己充実感
- 自然の美しさや生態系の多様性に触れることで、心の豊かさが養われ、自己肯定感や幸福感が向上することがある
- 日常生活では気づかない小さな変化に敏感になり、自然との一体感を得ることが精神的な安寧や生きがいにつながる
探鳥地が自宅から近いということもあって、私は日課に近いような頻度でバードウオッチングを楽しんでいる。そうすると不思議なもので、視力と聴覚が研ぎ澄まされたかのような気分になることをよく実感するようになった。
以前には全く気付くことができなかったような小さなキツツキの一種、コゲラを見つけられるようになったのである。コゲラが虫を捕まえようと一心に樹木の幹や枝をつついている小さな音が聞き取れるようになり、そしてその小さな姿(縞模様で樹木と擬態化しているようで見つけにくい容姿)を肉眼でも見つけられるようになったのである。
現時点で、バードウォッチングが直接的に視力や聴覚の生理機能を向上させるといった科学的な研究報告は確認されていない。
しかしながら、バードウォッチングによって視力や聴覚が改善する可能性について本稿で考察してみたい。
バードウォッチングの視力と聴覚への影響
バードウォッチングが、ストレス軽減やリラクゼーション、さらには認知機能の活性化につながるとの報告はあるが、これらの効用は間接的な効果と考えられている。
野外で過ごすことで眼精疲労の緩和や、普段の近距離でのパソコンのデジタルスクリーン作業から解放されることで、目の負担が軽くなり一時的に視覚が「鋭くなった」と感じている可能性も否定できない。つまり、視力自体(眼の構造的・生物学的機能)を根本的に改善するかどうかについては十分なエビデンスが得られているわけではない。
また、鳥の繊細な鳴き声を聞き分ける中で、環境音に敏感になったり、耳を「使う」ことで聴覚情報の処理能力が向上するという主観的な体験が報告されることもある。まさしく今回の私の体験と同じである。しかし、同様にこれも直接的な聴覚機能(例えば鼓膜や内耳の構造)が改善したという、厳密な医学的証拠とは言い難い状況であることに変わりはない。
しかしながら、バードウォッチングを視覚や聴覚のトレーニングという観点から眺めてみると、非常に魅力的な効用のメカニズムが見えてくる。
視覚の鋭敏化
野鳥を探し出したり観察するには野鳥の細かい動きや色の変化に目を凝らす必要がある。このように目を使うことが視覚の鋭さを鍛える訓練になると言われている。つまり、野鳥を観察する際、遠くの動く対象や微妙な色・形の違いを認識するために、目が常に細かい変化に気を配る必要がある。
このような日々の視覚トレーニングは、物理的な目の構造が大きく変化するわけではないものの、脳と視覚野の働きが向上し、見え方や気づきが研ぎ澄まされると言える。つまり、より速く、正確に視覚情報を処理するようになり、結果として視力が良くなったと感じることに繋がっている可能性が高い。
聴覚の感度向上
野鳥の鳴き声を聞き分けたり、鳴き声の方向を特定することで、聴覚の感度や音を拾う能力が高まることがある。こうした聴覚的なトレーニングは耳に良い刺激になるはずである。
野鳥の鳴き声は多様で微妙な音の違いがあり、その音を聞き分けるためには注意深く耳を傾ける必要がある。この過程で、雑音の中から特定の音を抽出し、方向や距離を把握する能力が自然と鍛えられる。
この現象は、耳そのものの「感度」が変わるというよりも、聴覚情報の処理能力が向上している結果であり、日常生活で「耳が良くなった」と感じる一因になるかも知れない。
自然環境とリラックス効果
野外で野鳥を観察することは通常、ストレスの軽減や集中力の向上につながる。心身ともにリラックスした状態は目や耳の働きに良い影響を与えることがあるのかも知れない。
バードウォッチングは、基本的に自然の中で行われることがほとんどである。自然の環境下でリラックスすることは、ストレスホルモンの低減や心身のリフレッシュにつながると言われている。
ストレスが減ると、全体的な感覚器官の働きも改善される可能性がある。これは直接的な臓器の変化ではないが、心と体の調和が取れることで、結果的に視覚や聴覚のパフォーマンスが向上するという面があるかも知れない。
認知および注意力の向上
日課として楽しんでいる活動は、モチベーションや興味を持続させるのに役立つ。自発的に集中する習慣が、感覚器官の鍛錬にもプラスに働くと期待できる。
定期的に視覚と聴覚を使った活動を行うことで、脳はその情報処理回路を強化する。これにより、細部に気づく力や注意深さが増し、視覚や聴覚の情報をキャッチアップすることに私たちの脳が敏速になる可能性がある。これはいわゆる「脳のトレーニング」と言える部分で、日常生活での情報処理能力の向上に寄与する。
あとがき
バードウォッチングが視力や聴力に良い影響を与える可能性について考えてきた。その結果、バードウォッチングが直接的に生物学的な視力(目のレンズや網膜の機能など)や聴力(耳の構造自体)を変えるというエビデンス(化学的な証拠)は現時点ではないが、体験的(体感的)には目と耳を使った情報収集とその処理能力が向上しているのは確かであると思えるようになった。
結論として「視力や聴力が良くなった」と感じる効果を私は期待したいところであるが、如何せん、サンプル数が1では断定はできない。可能ならば、全国のバードウオッチング愛好家から多くの報告を集めてデータ化し、分析して検証したいものである。
日々のトレーニングとして見れば、バードウオッチングを通じて感覚に対する意識が高まり、自然な形でその感知能力が強化されるという側面がある。このような感覚のトレーニングは、他の趣味や活動(例えば、音楽鑑賞や絵画観賞など)でも見られるものであるらしい。
バードウォッチングは、野鳥の観察を通じて、私たちの感性を磨き、日常生活の中で小さな変化に気づく力を養ってくれているのかも知れない。バードウォッチングが感覚のトレーニングになると信じて、私はこれからも趣味のバードウォッチングを続けていきたいと思う。