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正直不動産屋さんから学ぶことができたマイホームを賢く売却する方法

はじめに

現在、NHKで放送中の山下智久主演ドラマ『正直不動産』は、不動産業界のことを深く知れるストーリーにもなっており、私は毎回の放送を楽しみにしていた。

ドラマ『正直不動産』のストーリーは、「登坂不動産」の営業担当・永瀬財地(山下智久)が、「嘘もいとわない」セールストークで売上成績No.1を維持し続ける、所謂「やり手」のトップ営業マンであったが、ある日、アパートの建設予定地にあったほこらを壊したことから、祟りで嘘が吐けない体(状態)になってしまうという興味深い設定で始まる。言わなくてもいいことまでペラペラと喋る永瀬に、当然、客は激怒し、契約寸前の案件まで次々と台なしになる。

しかしながら、最終的には客は永瀬の正直さと誠実な対応に感謝して契約をする――正直すぎる不動産屋となった永瀬はかつてのような営業実績をあげられるのか――というストーリーである。顧客重視の正直者である営業担当にエールを送るドラマだと私は思いたい。

私は、幸いにもドラマ「正直不動産」の永瀬ばりの優秀で、正直(誠実)な不動産屋さんに幸運にも出会い、マイホームの売買について多くを教わった。

本記事では、納得できるマイホームの売却方法を読者の皆さんと共有したい。マイホームという大事な不動産の売却において後悔しないためにも参考にして頂ければ嬉しい。


<目次>
はじめに
マイホーム売却を考える理由は十人十色
  • 売却の目的を明確にする
  • 貸す場合の長所と短所
  • 「買取」の長所と短所
レインズとは何か?
媒介契約とは何か?
  • 売却に係る諸費用と税金
  • 両手取引と片手取引
  • 囲い込みとは?
不動産売却の基本的な流れ
  • 不動産価格の算出方法
  • 一括査定の長所と短所
  • 自分で不動産価格を調べる
  • 競合物件の動向を注視
  • 任せる不動産会社で結果は大きく変わる
  • 信頼できる営業担当を見極めるにはどうする?
  • 買主集客の代表的な方法
  • 内覧が入らない時の対処法
  • 媒介契約の中途解約
  • 内覧時の準備と対応
  • 買主との条件交渉
あとがき

マイホーム売却の理由は十人十色

一所不住という四字熟語がある。意味は「一定の場所に住まないで各地を転々とすること」らしいが、そもそもの意味は、修行のために、諸国を行脚して回る行脚僧について言う言葉である。

一般人は特別の理由がなければ、安住の地を求め、定住するのが普通である。そして人生の晩年を都会の喧騒から離れ、田舎で静かに暮らしたいと願う者がいても、それは珍しいことではないはずだ。私もその一人である。

子供達が住まなくなった自宅を処分し、自分も「家」に束縛されずに自由に余生を楽しみたいと思い、不動産屋を訪ねて自宅の売却を相談してみた。

不動産売買を本業とする信頼できる知人からは、いろいろと助言をもらうことができた。その結果、自宅の売却の理由には多くのドラマがあることを知った。


売却の目的を明確にする

マイホームなどの不動産を売るときは必ず目的がある。よくある理由としては、例えば「転勤が決まり引越をしなければならない」「新築の家を買ったから今の家を売却して購入費用にしたい」「子供が大きくなり手狭になったからより大きな家に引っ越したい」あるいは「相続税の支払いのために家を売却しなければならない」などのように、人それぞれの不動産を売る目的がある。

不動産屋さんに依頼して実際に売却を始めるとこの目的を見失い、「いい条件(より高い金額)で売却をすること」に固執してしまい、折角の売却チャンスを逃して結果的に損をしてしまうケースもあるという。

売主は誰もが「いい条件で売却したい」と思うのは当然である。しかし、いい条件で(すなわち高く)売ることだけが成功する売却というわけでは無いということを理解することが重要であるという。

例えばこんなケースはどうだろうか。私は、「半年後に戸建への住み替えが決まっているため、それまでに今の住居であるマイホームを売りたい」と考えていた。

この場合、「半年以内に買主を見つけて、引っ越し後すぐに引き渡しをする」という目標が望ましいと言える。しかし、私は「買った時より高く売りたい」という希望を持っていたため、結局引っ越しまでに買主を見つけられなかった。

その間に返済する住宅ローンはダブルになってしまったために家計も苦しい状況になり、結局、最終的には値段を下げてそのときの相場で売却することになってしまった。数か月分の住んでいない家の住宅ローン支払い分が損失となったケースである。

ダブルローンでの支払いは通常家計を圧迫するので、この私のケースでは、既に住み替えが決まっていたため、家計に負担をかけないようにするために「半年後の引っ越しまでに引渡しすること」が目標であった。

この目標を達成するためには、最初の売値で動きが悪いようであれば、3か月目で一度値下げを検討すべきであった。そうすれば、4カ月目までに買主候補を見つけ、5カ月目までに売買契約の締結にこぎ着け、半年後の引き渡しを実現できた可能性が高かったといえる。

半年後の引き渡しから逆算して販売活動を計画することが重要だということが理解できる事例だと思う。

私の何がいけなかったかというと、本来の目標とは別の「いい条件で売却すること」が念頭にあったために、計画が崩れてしまったことだ。

「いい条件で売却すること」という目標を優先するのであれば、売却後に買い替え先を探すスケジュールを本来は組むべきあったと思う。これが人生はじめての持ち家売却の失敗談である。

このように不動産の売却目的を明確にして、ブレずに 最善の販売活動を計画することが納得のマイホーム売却第一歩である。


貸す場合の長所と短所

住み慣れた愛着のあるマイホームを売却する際には、それなりに悩むものである。特に、「転勤が決まったから引越をしなければならない」場合などは、 売るのではなく貸すという選択もある。実際に不動産売却の際、賃貸に出すことも併せて検討する人も多い。

ただし、賃貸に出すことはメリットもあるが、デメリットも発生することを理解しなければならない。自宅を賃貸に出すことのメリットとデメリットを把握したうえで、自分にあった最適な判断をする必要がある。


賃貸のメリット

(1)賃料収入が入る
一番のメリットは、当然ながら賃料収入が入ることである。自分自身の収入にプラスして賃料収入が入るので、家計にゆとりが出る。 但し、住宅ローンが残っている場合は、注意点がある。住宅ローンは基本的に、借りてる人自身が実際に住むことを条件にしているので、賃貸に出すとなった際は優遇金利が打ち切りになったり、アパートローンへ組み換えが行われることがある。その結果金利が増加し、住宅ローンの支払額が賃料収入より増えてしまうことも考えられる。住宅ローンを借りてる際は、必ず賃貸に出す前に金融機関に確認し、計画上無理がないかを把握することが重要である。尚、金融機関に隠して賃貸に出すことは契約違約となるケースが多く、見つかった場合は残債を一括で返済するよう求められることもある。金融機関へは必ず申告すべきである。
(2)将来住むことができる
賃借人が退去すれば、将来的には自分自身が住むことも可能である。但し、売却を検討している人の多くは、その家に再度住むことは少ないため大きなメリットにはなり得ない。期間が決まっている転勤等の場合にのみ、メリットがあると言える。

賃貸のデメリット

(1)空室リスク
入居者(賃借人)がいなければ、当然ながら賃料は入ってこない。住宅ローンが残っている場合には、その期間は赤字となる。
(2)新たに住宅ローンが組みづらい
住宅ローンは重複して借りることが難しいため、住宅ローンを利用しての住み替え先の購入を考えている場合は借りづらくなってしまう。 (実際、転勤先では賃貸住宅に入居することが多い。)
(3)賃貸中は売却価格が安くなりやすい
賃貸がついてから売却を再度検討された場合には、賃貸中の物件の売却は投資用不動産として評価される。投資用不動産は買主が投資家になることが多く、購入金額を賃料収入何年分で回収できるかという利回りで評価される。利回りでの評価は、住まいとして評価した場合と比較して、厳しく評価されることが多く安くなりやすいと言われている。
(4) 賃貸中の不動産価値の保全状態が心配
入居者(賃借人)が室内を綺麗に使用してくれるかが心配であるという人もいる。入居者によっては勝手にペットを家屋内で飼い、床や柱が傷つくことがある。賃貸契約書に記載していても契約不履行であれば結果的に不動産価値が棄損されることには変わりがない。

買取の長所と短所

不動産会社に買い取ってもらうことを「買取」という。自家用や宝石・高級バッグなどのブランド品の売却では「買取」があるかも知れないが、不動産の場合は少し注意が必要である。


買取のメリット

(1)売却日をコントロールできる
買取を行う不動産会社はそれをとしているので、基本的には売主の意向に沿ってくれる。そのため、売却日をコントロールできる。 しかしながら、不動産売却の多くは一般個人に向けて販売を行うため、買い手の都合も考慮しなければならない。売却事情によっては、泣く泣く価格を下げなければならないこともある。
(2)室内状況が関係ない
個人の買い手の場合は、その時の室内の印象次第で買うか買わないかを判断するが、不動産会社の場合は仮に室内がどれだけボロボロでもその部屋の本当の価値を基に買い取ってくれる。そこは 不動産会社が不動産のプロである所以だ。
(3)安全に売却ができる
不動産は目に見えない部分が多くあるため、個人との取引の場合は契約後トラブルが起こることがある。一方、買取の場合は、買主はプロの不動産会社であるため、ある程度のリスク管理ができている。そのため、売主にとって不利になる条件を予め無くして(安全に)取引を行うことができる。

買取のデメリット

(1)個人への売却と比較して価格が安くなる可能性がある
唯一のデメリットは、個人への売却と比較して価格が安くなってしまうことである。理由は、不動産会社は買い取った不動産に付加価値を付けて販売して利益を得ようとするためである。すなわち、
買取価格=販売想定価格 – 付加価値をつけるために掛かる費用 – 自社の利益
となるためである。一般個人へ販売するときと比較して、価格が安くなるのはやむを得ない。しかしながら、必ず安くなるというわけではないようだ。それは、不動産会社が付けた付加価値を正当に評価されるようになってきたため、販売想定価格が上がってきているからだ。そのため一般個人へ販売する場合と、同等・それ以上で取引ができるケースもあるらしい。売却の際は、最悪いくらなら売れるのかを知ることが大切である。必ず売却しなければならない場合は、その金額で目的を達せられるかを知ることができるからである。売却を開始する際は、一度は買取価格を確認してみるのも良いかも知れない。

レインズとは何か?

レインズという、不動産会社しか見れないプロ向けの物件情報ポータルサイトの存在をご存じだろうか?

レインズの果たす役割を理解すれば、不動産売買の仕組みも理解できるかも知れない。

レインズとはReal Estate Information Network System(不動産流通標準情報システム)の略称である。全国の不動産会社が利用可能であり、不動産会社は売主から売却の依頼を受けると、このレインズに登録する義務が発生する。

レインズには、情報の拡散成約情報の蓄積という2つの役割がある。

情報の拡散
レインズに登録された物件は、全ての不動産会社が取り扱い可能なため、売却依頼を受けていない不動産以外でも、自社の顧客へ紹介が可能である。レインズができる前は、売主の不動産は依頼している不動産会社しか取り扱いができなかった。そのため情報の広がりが限定的で、その不動産会社に問い合わせを入れた買主にしか情報が伝わらないため、売れ行きがその不動産会社の頑張りに依存していた。レインズができてからは、売主はどの不動産会社に依頼しても全国すべての不動産会社に情報がいきわたるため、迅速に買主を見つけることができるようになったらしい。
成約情報の蓄積
売買契約が成立した不動産はレインズに成約事例として蓄積され、全ての不動産会社が閲覧可能である。不動産の価格の多くは「取引事例法」によって求められる。取引事例法とは過去の対象不動産と類似した不動産の成約事例を基に、価格を求める方法である。この成約事例を蓄積することで、不動産会社が次の取引を適切に行えるようになり、査定価格の根拠にもなるという。

このレインズのおかげで、売主はどの不動産会社に依頼をしても、適切に買主に情報を届けることができるようになったと言える。 不動産取引を適切に活発化させることを目的にレインズが運用されていると言えるかも知れない。


媒介契約とは何か?

不動産を売却するときは自身の不動産の販売を不動産会社に依頼するが、この時に不動産会社と媒介契約を締結する必要がある。不動産会社は、売主から不動産の売却を依頼された際は媒介契約書の締結が義務付けられている。

媒介契約では、主に下記のようなことが記載される。

・依頼者(売主)と依頼される不動産会社の情報
・売却する不動産
・価格
・売却を依頼する期間
・不動産会社の売却活動の内容
・不動産会社支払う手数料の金額と支払いの時期

不動産会社はこの内容に基づいて、売却活動を行う。 媒介契約書には、一般媒介契約専任媒介契約および 専属専任媒介契約の3種類がある。

一般媒介契約
・数社に並行して売却を依頼できる
・売主が買主を自ら見つけて取引ができる
・レインズへの登録義務はなし
・営業活動の報告義務はなし
→ 売主、不動産会社の双方にとってゆるい契約形態
専任媒介契約
・売主が依頼できるのは1社のみ
・売主が買主を自ら見つけて取引ができる
・レインズへの登録義務あり(契約から7日以内
・営業活動の報告義務あり(14日に1回以上)
制約が一般媒介契約と専属専任媒介契約の中間の契約形態
専属専任媒介契約
・売主が依頼できるのは1社のみ
・売主が買主を自ら見つけての取引はできない
・レインズへの登録義務あり(契約から5日以内
・営業活動の報告義務あり(7日に1回以上)
→ 売主、不動産会社双方に縛りがある契約形態

どの形態が一番いいかは、売却事情や物件によって異なるため、一概にどれが良いとは言えない。

より重要なのは、信頼できる不動産会社に任せることである。

信頼関係があれば、契約形態がどれであっても納得のいく取引ができると思う。依頼先の不動産会社が「信頼ができるかどうか」を見定めることが重要になる。


売却に係る諸費用と税金

不動産売却を検討する人は、売却で得た資金を何らかの形で活用する。例えば、現住宅ローンの返済や住み替えのための次の住宅ローンの頭金、あるいは相続税の支払いなど用途は人によって様々である。

ここで、希望価格で売却できたとしても、想定していなかった費用が発生した結果、計画通り進まなくなってしまう場合もある。そのため、売主は事前に売却に伴う費用がどんなものが発生するかを把握する必要がある。

対象不動産や売却に伴うご事情によって、発生する費用は変わるが、売却時に発生する代表的な費用には下記のようなものがある。

仲介手数料
不動産会社への報酬。取引額によって上限が決められている。
200万円以下:取引額の5%
200万円超から400万円以下:取引額の4%+2万円
400万円超:取引額の3%+6万円
(別途、消費税がプラスされる)
不動産会社は原則この仲介手数料のみが報酬となる。但し、取引額が400万円以下の物件に関しては、不動産会社が仲介手数料以外に現地調査費等の名目で費用を請求できる。その場合でも総額で18万円(+消費税)を超えるご請求はできない。
譲渡税
譲渡益 (不動産を売却し利益)が出た場合に支払う税金(所得税+住民税)である。不動産の保有期間が5年以内か、5年超かで税率が変わる。利益(譲渡益)の計算等詳細は、国税庁のHPで確認できる。https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm
尚、マイホームについては、一定の要件を満たす必要があるが、 3000万円分利益(譲渡益)を控除できる特例がある。
印紙税
売買契約書に貼付して納税する税金。取引額に応じて金額が決まる。印紙税の金額は国税庁のHPよりご確認できる。
https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/inshi/08/10.htm
登記費用(住宅ローンを借りている場合のみ必要)
住宅ローンを借りたまま、売却する際にかかる費用。売却金額で住宅ローンの残債を一括でご返済する際に、金融機関が設定した抵当権を登記簿謄本から抹消する必要がある。その際に発生する登録免許税と、手続きを代行する司法書士への報酬の費用が登記費用に該当する。一般的には3万円以内で収まることが多いが、対象不動産によって異なる。
インスペクション費用(任意)
インスペクション(不動産の実地検査)の実施は義務ではないので、実施するかどうかは売主の判断となる。但し、買主視点から見るとインスペクションは安心材料の一つになるので、買主より要望があった場合には実施した方が無難である。誰が負担するかは取り決め次第で、買主が負担する場合もある。費用はインスペクション実施会社や対象不動産によって左右されるが、一般的には10万円以内に収まることが多いようだ。
測量費
参考】一般的な住宅用地の場合、現況測量なら約10~20万円。 土地の売却時に必要な確定測量なら約40~50万円を土地家屋調査士に支払うことになる。
建物解体費
参考】 解体費用は、主に解体する建物の「構造」と「広さ」によって決まる。 木造なら3万~5万円/坪、鉄骨造なら4万~6万円/坪、鉄筋コンクリート造や鉄骨鉄筋コンクリート造なら6万~8万円/坪などが目安となる。
ハウスクリーニング費用
参考】 戸建ての ハウスクリーニングの場合、広さによって約6万~14万円が相場らしい。
相続税
不動産価値により当然ながら異なるので、ここでは言及しない。

両手取引と片手取引

両手取引片手取引 我々取引が成立した際に不動産会社に支払う成果報酬を仲介手数料という。この仲介手数料は、「両手取引」か「片手取引」によって最終的に不動産会社が得る報酬額が変わってくる。ドラマ「正直不動産」でも出て来た話である。

不動産の取引には、「売り手」と「買い手」が存在する。不動産会社が取引仲介に入り、取引が成立すると、「売り手」と「買い手」の両方から仲介手数料が不動産会社に支払われる。

このとき、不動産会社 1社のみが「売り手」と「買い手」の両方を担当し、それぞれから仲介手数料を得る取引形態を「両手取引」という。一方、「売り手」と「買い手」を担当する不動産会社がそれぞれ別の場合を「片手取引」という。

「両手取引」でも「片手取引」でも、かかる労力は大きく変わらず、しかも「片手取引」の場合の倍の報酬が得られるので、当然ながら、ほとんどの不動産会社は「両手取引」を目指している。

この取引形態の違いが売主にどのような影響を及ぼすかというと、取引をするだけであればどちらでも変りはない。しかし、不動産会社によっては不当な方法で「両手取引」をしようとするので不利益を被る可能性がある。つまり囲い込みと呼ばれる手法である。

ほとんどの不動産会社は「両手取引」でも「片手取引」でも、誠実に仲介としての役割を全うしていると信じたい。しかしながら、囲い込み等の不当な方法で、自社の利益を優先している不動産会社がなかには存在するも事実であるようだ。


囲い込みとは?

「両手取引」は、その構造上、囲い込みをされた売主が不利益を被る可能性がある。売主にとってリスクとなる囲い込みについて以下に記載する。

通常の取引では、売主が販売を依頼した不動産会社(売主側不動産会社)がレインズに物件を掲載する。レインズは不動産会社であれば誰でも閲覧ができ、買主を抱える不動産会社各社(買主側不動産会社)はレインズの情報を基に物件を紹介をして成約を目指す。そのため、レインズに掲載することで、日本中の不動産会社が抱える買主へ情報を届けることができる。

ところが、売主側不動産会社囲い込みをした場合にどうなるかというと次のような事態が想定される。通常の取引では、買主側不動産会社がレインズ上で自社の買主の条件と合致する物件を見つけ、売主側不動産会社に対して自社顧客へ紹介可能か打診をする。

契約予定などもう紹介できない事情がなければ、通常は日程を調整して内覧の日程を決める。ところが、囲い込みをしている売主側不動産会社は、「紹介できない」理由を適当に作り、内覧ができないようにする。つまり他社の不動産会社をブロックして、自社で見つけた買主との両手取引を狙う

囲い込みをされると、他の不動産会社経由で興味を持った買主全てが内覧できない状況になり、買主の絶対数が減るので本来売れるはずの金額で売れなくなり、売主は不当に不利益を被ってしまう。

販売活動は不動産会社が代理人として動くため、囲い込みをされても売主は気づくことができない。そこで、囲い込みをされているかどうかを確認する方法があるので紹介する。

一番確実なのが、売主自身又は別の不動産会社経由で、依頼先売主側不動産会社紹介可能か打診する方法である。そして、内覧ができない旨の返答があった場合には、囲い込みの可能性が高いと判断できる。


不動産売却の基本的な流れ

不動産を売ることは、買うことより難しいと言われている。一般的に不動産の売却を経験した人が少ないので、周りに不動産売却の経験者がいないと助言や忠告をもらえず、よく分からないまま販売活動を進めなければならないからである。

不動産売却の基本的な流れは、下記のようになっている。まず全体像を把握して、売主自身が今どのステージにいて、次に何をすればよいのかを把握して納得のマイホーム売却を実現すべきである。

(1)不動産売却の事情が発生
住み替えや相続など、売主によって売却理由は様々である。
(2)家族内で不動産売却がいいのか意見をまとめる
最初の段階でしっかり意見をまとめておかないと、後々トラブルを招く。売却することが全てでないケースもある。賃貸や持ち続けるなど、広く選択肢を出して意見をまとめることが重要!
(3)売却価格を確認
売主自身でもある程度相場を確認することもできるが、不動産会社に査定をしてもらうのが一般的である。不動産会社に査定を依頼する方法は、直接問合せをしたり、一括査定を行うなどの方法があるが、1社のみではなく、複数の不動産会社に相談することが客観的な売却価格を確認する上で重要となる。
(4)依頼先の不動産会社を決める
(3)の過程で、どの不動産会社に任せるかも見定める。不動産会社は千差万別であるので、「信頼できるかどうか」が重要な選択のポイントとなる。
(5)媒介契約の種類を決める
媒介契約は、専属専任媒介、専任媒介、一般媒介の3種類があり、それぞれ一長一短があるため、売主自身の趣向に合わせて決める。
(6)販売活動スタート
不動産会社が、販売用の図面やチラシの作成、ポータルサイトへの出稿を行い、販売活動がスタートする。
(7)内覧発生
売主の不動産に興味のある買主候補が不動産会社に問い合わせを入れると、通常は内覧を要望される。日時の調整を行い、買主候補に内覧をしてもらう。
(7)-2 価格変更
写真の入れ替えやチラシの作り直しなどの試行錯誤をしても内覧が全く入らない場合、価格が高すぎる可能性がある。その場合には価格を見直す必要がある。
(8)購入申し込み
買主から購入申し込みの意思を書面で貰う。多くの場合、価格交渉が入るので、納得できなければ売主側から価格の再提示を行う。また、引渡しの時期、手付金の金額などの諸条件もこのタイミングである程度確定させる。
(9)売買契約
交渉の折り合いがつけば、晴れて売買契約である。ここでのポイントは、できるだけ早く契約を行うことである。買主は大金を支払うので、どうしても気持ちがブレがちである。あまり先延ばしにして折角の売却チャンスを逃さいようにしょう!
(10)銀行へ報告(住宅ローンがある場合のみ)
売主にまだ住宅ローンが残っている場合、一括返済の手続きをしなければいけない。手続きは通常2週間前後かかるため、引渡し日が確定してからできるだけ早く手続きを開始すべきである。
(11)引越の準備
居住のままの売却する場合は、引越が必要となる。引渡し日までに滞り無く終わるよう、できるだけ早く手続きや手配を行う。
(12)決済・引渡し
買主から売買契約から手付金を引いた残金を受け取り、売主からはカギや書類などを渡し、所有権の移転を行えば、売却完了となる。

不動産価格の算出方法

不動産の売却を考えるようになった時、私も含め多くの売主は自身の不動産が一体いくらで売れるのかを非常に気にする。しかし、不動産の価格は、一説に「一物四価」と言われ、私達一般人に非常に分かりづらいものであるのは確かだ。

不動産会社が不動産の価格をどのように査定しているか非常に興味がある。代表的な査定の方法には、下記のような方法がある。

(1)原価法
同様の不動産を、再び土地の取得から建築まで行ったと仮定し、必要となる費用を算出する(再調達原価という)。その費用から、現在の築年数に応じた価値の低下分を差し引いて(減価修正)、現在の価格を割り出す方法を原価法という。計算式で説明ができるため納得しやすい半面、目に見えない価値を反映できない欠点がある。この理由から、原価法は不動産会社においても補足程度にしか利用されていない。
(2)収益還元法
不動産を賃貸に出した場合に発生する賃料を基に査定をする方法を収益還元法という。収益還元法は何年でその不動産の取得価格が全額回収できるかの目安となる「利回り」が基準となる。5%の利回りであれば取得価格の回収まで20年、10%の利回りであれば回収まで10年かかる計算である。利回りが低いほど不動産の価格は割高となる。エリアや物件種別により利回りの相場が形成されており、都心だと3%〜5%程度であるが、地方だと20%を超える場合もある。主に、投資用のワンルームマンションビルアパートの査定で用いられる。
(3)取引事例比較法
似たような不動産が、以前いくらで取引されたかを基準に査定をする方法である。住居用の不動産の場合、ほとんどのケースでこの取引事例比較法を利用している。あくまで過去の取引事例を基にするため、その事例が正しい金額なのか、景気動向はどうなのか、など見ながら価格調整を行う。価格調整は各不動産会社の腕の見せ所と言えよう。

私達、売主が気を付けなければならないのは、「査定価格実際に売れる価格」ではないということである。不動産には全く同じものは存在しない。特に、戸建の場合は、同じものは存在しない。

さらに、同時期に売りに出されている競合物件も変わる。過去の事例と条件、価格ともに全く同じだとしても、競合物件の金額が高いものばかりであれば相対的に安くなるし、競合物件が安いものばかりであれば相対的に高くなる。

また、買主の経済状況や購入に至る背景にも違いがある。このような環境の違いもあって、過去の事例だけ正確に売れる価格」を算出することは現実的には不可能であると言える。

不動産会社による買取であれば、査定価格=売却価格となるが、通常の不動産取引は一般個人が購入するので案件ごとに別物となってしまう。

一方で、多くの取引はある程度、査定価格に近いところで行われているのも事実である。しかし、査定価格が絶対ではないということを私達売主は、念頭においておく必要がありそうだ。そう思わないとストレスが溜まって仕方がない。


一括査定の長所と短所

不動産の売却のために、依頼先の不動産会社を選ぶ一つの方法として、不動産売却一括査定サイトがある。不動産売却一括査定サイトを利用すると不動産会社を1社1社自分で探す手間が省けるため、売主からすると非常に便利なサービスであると言える。便利ではあるが注意すべきポイントもある。

不動産売却一括査定サイトを利用する上での注意事項とは何か?
まず一つ目としては、「過剰な広告を信じないこと」である。

よく、不動産売却一括査定サイトの広告で「あなたの不動産がこんなに高く売れる!」のようなコピーを目にする。しかし、これは、ほとんどが集客をするためだけの、何の根拠もない広告である場合が多いという。

これを盲目的に信じてしまうと、期待とはかけ離れた不動産会社の査定を見て「もっと高く売れるはず」と、元々の計画を大幅に変更してしまう。

実際は不動産会社の査定が正しく、売却計画を大きく狂わせ本来得られる利益を逃してしまうこともあり得る。査定価格=売れる価格ではないからである。

不動産売却一括査定サイトでは、各不動産会社が「査定」を行うが、あくまで査定であるので、「売れる価格」を保証するものではないということ再認識する必要がありそうだ。

二つ目は、「不当に高い査定金額を提示する不動産会社」である。高く売れることで喜ばない売主はいない。不動産会社の中には、自社で仲介したいがために、相場からかけ離れた高い査定金額を提示し、売主を誘惑してくる会社も少数ではあるが存在するのが実態であるという。

そのような場合、ほとんどのケースでその金額で売れることはなく、売却計画が大幅に崩れ、損をするケースが多い。特に、不動産売却一括査定サイトを利用している不動産会社がこの手法を用いることが多くなりがちである。

その理由は、不動産会社は不動産売却一括査定サイトから査定依頼が発生すると、1件あたり1万円前後を広告費として支払う必要があるらしい。

そのため、支払った分を回収する必要があるが、売主に選んでもらう一番簡単な方法は「高い査定金額を提示すること」である。売主に期待させるだけ期待させて、媒介契約を締結し、後はじわりじわりと金額を下げ、売買契約まで持っていく。

最終着地が相場の金額であれば損害は少ないが、この手法をとる不動産会社は囲い込みを行い両手仲介にすることが多いため、相場より安い価格での売買契約になる可能性が上がってしまうという。

高く販売活動を行うこと自体はなんら問題ない。問題なのは、正しい査定価格を知らずに「この金額で売れる!」と思い込んでしまうことである。

売主自身が、正しい査定価格を把握し、最終的な販売価格を受け入れることが重要である。「本当はこの査定価格だけどチャレンジで20%高く販売活動をしよう」とするのと、「この査定価格で売れると言われたから売れるんだ」とするのでは、同じ金額で販売活動を行ったとしても、最終結果に大きな違いが生まれる。

「売れる価格」と「査定価格」は別物である。このことを、不動産売却一括査定サイトを利用する際には、十分に意識したいものである。


自分で不動産価格を調べる

多くの売主は、不動産会社に査定をしてもらい査定価格を確認するが、「不動産会社に査定を依頼すると営業されそう」あるいは「売却するかどうか未定だから査定の手間をかけるのは申し訳ない」と、躊躇する売主も当然いる。

私もその一人であるが、こういった場合、ある程度自分自身で調べる方法もある。自分自身で不動産価格を調べる方法には、下記のような方法がある。

(1)周辺の販売中物件の価格を参考にする
現在販売中の物件は参考になる。同じような間取り、広さであれば精度はかなり高くなる。自宅に投函されたチラシやポータルサイトを見るなどして、現在販売中の物件を確認してみるのは価値ある方法だと思う。不動産は、「単価×広さ」で計算されることが多いため、下記のようにすると簡単に算出できる。参考にする周辺不動産の「価格÷広さ(m²)」を計算して「m²単価」を求める。売却予定の不動産と上記の単価を「広さ(m²)×m²単価」で計算して「価格」を求める。 但し、この方法は、 自分自身で情報収集参考となる事例の選別、そして計算と手間がかかるのが難点である。 しかし、一戸建の査定には、この方法しかなさそうだ。
(2)相場サイトを確認する
手間をかけずに不動産価格を知りたい場合には、相場サイトにアクセスして、販売価格を確認するという方法がある。下記のような代表的なサイトを利用してみてはどうだろうか?
イエシル(一都三県/マンションのみ)
https://www.ieshil.com/
ふじたろう(全国/マンションのみ)
https://www.fujitaro.com/
マンションナビ(全国/マンションのみ)
https://t23m-navi.jp/
土地代データ(全国/土地のみ)
https://tochidai.info/
残念ながら、一戸建は個別性が高く同じものが無いため、査定が難しく相場サイトは存在しない。

尚、自分自身で調べられた価格はあくまで参考価格と理解し、実際に売却を検討される際には、不動産会社査定依頼するのが正しい方法だと思う。


競合物件の動向を注視

買主は、売主の不動産のみだけでなく、周辺の不動産と比較検討して購入を検討する。買主によって比較の仕方は変わり、学校区の関係でエリアは限定しているけどマンション・戸建両方検討されている場合や、戸建限定だけどエリアは重環境重視で広く見てる場合など様々である。その中から売主の不動産を選んでもらうためには、競合物件より魅力的である必要がある。

魅力を出せるポイントとして、単純に価格が安い、眺望がいい、間取りが使いやすいなど色々あるが、価格以外は大きく変えることが難しいものばかりである。

ただ、価格は簡単に下げることは難しいため、競合物件が売主自身の不動産より優れているのだとしたら、今は一旦止めておこうという判断も必要となる。

仮に売主自身の不動産より優れた物件と同時期に販売をしたとして、間取りや眺望は全て競合物件が勝っているとしたら、差別化を図るためには価格を下げるしか方法はない。

ただ、売却事情の兼ね合いで価格を簡単に下げるわけにはいかず、そうこうしているうちに競合物件は無事成約となる。

ここから仕切り直しと行きたいところではあるが、買主は以前競合物件と比較をして買わないという決断をしたので、改めて買おうという気持ちになりづらく、販売期間の長期化に繋がる可能性が高くなる。

このような事態を避けるためには、現在販売されている競合物件を把握する必要がある。ただ、全ての買主の趣向を考え、その競合物件を全て把握することは現実的に不可能である。

そのため、売主自身の不動産と同一のエリアにある販売中の不動産が、「どんな物件が」「いつから」「いくらで」販売を行っているかを確認することが重要となる。

販売活動を始めるベストタイミングを見極める方法は、現在販売されている競合となる物件の動きを注視することである。この見極めがしっかりできないと、相場を下回る金額になったり、売却まで想定以上の期間がかかる。逆に、見極めがしっかりできると、相場以上の金額での売却を実現することも可能である。


任せる不動産会社で結果は大きく変わる

いざ販売活動を行う際、売却を依頼する不動産会社を決める必要がある。 不動産会社をどういった基準で選べばいいのだろうか? 不動産会社といっても不動産会社によって様々なタイプがあり、業種も様々で、仲介以外を生業にする不動産会社も多く存在する。

  • ビルなどを保有する不動産会社
  • 土地の開発を行う不動産会社
  • マンションを建てる不動産会社
  • ハウスメーカー
  • 仲介が得意な不動産会社
    • 売買仲介が得意
    • 賃貸仲介が得意
    • 投資系の仲介が得意

もし売主の不動産が得意でない不動産会社に売却を依頼してしまうようなことがあっては大変である。その不動産会社にノウハウが無いため、納得のいく売却にならない可能性が高いからである。

そのため、売主自身の不動産が得意な不動産会社に依頼する必要があるが、どうやって最適な不動産会社を見極めればいいのだろうか?

一番簡単な方法は、その不動産会社HP確認することである。HPには自社が得意とすることを書いていることが多いため、一定の参考にすることはできる。ただ、HPはいくらでもいいことが書けてしまうので、HPだけで判断するのは完璧ではない。更に深く確認するのであれば、不動産会社に直接、話を聞く必要がある。

確認の仕方のポイントは、「似たような物件を取引したことがあるか」を尋ねてみることである。営業マンなのである程度の切り返しはできると思うが、あまり得意でない場合は追求していくとあいまいな回答になるのが普通である。

いつ、どの物件を、どのように、どれくらいの期間をかけて販売出来たか、これくらい具体的に話ができない不動産会社の営業担当は注意が必要である。

手間はかかるが、現実的な方法としてこれ以上の術はない。売主の不動産の売却のパートナーを見つけるためには、それくらいの努力を惜しんではならない。


信頼できる営業担当を見極めるにはどうする?

実は、不動産会社の得意分野の見極め方以上に大事なことがある。それは、売却を担当する営業担当が信頼できるかどうかである。売却依頼は契約上は不動産会社と締結するが、実際に動くのは営業担当である。

要は、その営業担当が売主の代理人として、販売活動から買主との交渉を行う。どれだけ不動産会社が立派でも、担当する営業マン次第で売却活動の結果は大きく変わる。そのため、信頼できる営業担当を見極めることも重要となる。

では、信頼できる営業担当の見極め方について非常に参考になる話がある。 営業担当の中には、良いことばかり言ってくる者もいる。

例えば、室内がどれだけ痛んでいても、「これだけ綺麗ならすぐ買い手がつきますよ」とか、市況が悪くても、「今は市況がいいから高値で売却ができます」などと言う。

良いことを言われて、嫌な気がする売主はいないが、それが満足のいく結果に繋がるかどうかは別問題である。

理想ばかりでなく、売主の耳が痛いこともしっかり伝え、売主が現実を理解した上で理想を追及することが大切である。

良いことばかり言う営業担当には要注意であると言える。信頼できる営業担当の見極め方は、 悪いことも正直に伝えてくれるかどうかであると思う。NHKドラマ「正直不動産屋」でも同様の話が登場していたので私は納得している。

不動産会社は売主の不動産の売買契約が成立して初めて報酬がもらえる。そのため、中には売主の事情を一切考慮せず、自社の利益に繋がる売却ばかり勧めてくる営業担当もいる。営業担当からすると売買契約の締結がゴールであるが、売主からすると自身の目的を達成する一つの手段に過ぎない。

「売却より賃貸に出した方がいい」「今は売らずに持っておくべきだ」など、売主の利益を優先して提案をしているかどうか、注視してみたい。 信頼できる営業担当は、売却事情を考慮した提案をしてくれるかどうかで見極めたい。

営業担当は不動産を生業にしているプロである。一口に不動産と言っても、法律、税金、金融商品、建築、人間の感情など様々なものが絡んでくる。営業担当ひとりが全てを事細かに把握することは現実的には不可能なことである。

それにも係わらず、中には売主にいい恰好をするために、知らないことをあたかも精通しているかのごとくに話す営業担当もいる。不動産は大きな金額が動くため、一つのミスが取り返しがつかないこともある。

そのため、慎重に石橋をたたき、確認しながら取引を進めるべき場面もあるが、その確認を怠ったことに起因するトラブルはたくさんある。全てを知っているように話す営業担当には要注意である。

信頼できる営業担当は、知らないことは知らないと率直に言えるかどうかで見極めたい。

営業担当が売主自身の大切な不動産を任せるパートナーとして信頼できるか、最適かどうかを冷静に判断したいものである。


買主集客の代表的な方法

査定金額を知り、信頼できる不動産会社を選び、売出価格を決め、そして、いよいよ販売活動が開始される。

ここで初めて、未来の買主の目に触れ、検討が開始されるが、売主の不動産情報はどのような方法で買主に届くのか気になる。

不動産会社が買主を集客する代表的な方法は次のような手段である。

チラシの配布
チラシの配布は、代表的な方法である。「新着物件」や「未公開物件」などの触れ込みで投函される。古典的な方法ではあるが、買主がこのチラシをきっかけに、売主の不動産に興味を持つ。 配布の仕方には、「ポスティング」と「新聞折り込み」がある。ポスティングは1軒1軒、手でポストにチラシを投函していく方法である。代行業者による投函もあれば、営業担当自身による投函もある。一刻も早く買主を見つけるため夜間に投函することもあるという。新聞折り込みも有効な手法である。ポストのチラシは見ないけど、新聞折り込みは見るという人もいるからである。ただ、費用が莫大にかかるため、いつでも行えるわけではない。ここぞというタイミングで実施をする。
ポータルサイトへの掲載
不動産ポータルサイトの利用も欠かせない手法となっている。四六時中、不特定多数の買主の目に触れることが可能である。また、ページ閲覧数もデータとして見ることができるので、現在の市況の動きを図ることもできる。こういったデータを根拠に、次の販売戦略を練っていく。
レインズへの掲載
自社の力だけでは限界があるので、他の不動産会社に協力を仰ぎ、他社が抱えている買主を紹介してもらう。専任媒介契約・専属専任媒介契約では、レインズへの掲載が義務となっているので、全国すべての不動産会社が売主の不動産を紹介してくれる。
過去に問合せをした買主への紹介
違う物件に問合せをした買主にも、紹介する。以前は条件が合わず断念した買主候補も、条件に合致すれば検討してもらえる。

約1ヶ月もあれば告知をし終えるが、内覧が全く発生しない場合、価格が現在の相場より高いか、囲い込みをされている可能性がある。内覧が全く入らず価格変更を提示された場合、なぜ内覧が入らないのか理由をしっかり確認するようにするとよい。


内覧が入らない時の対処法

(1)不動産会社の販売活動が十分であるかを確認する

まず最初にすることは、不動産会社の販売活動が十分であるかを確認することである。適切な相場で、適切な販売活動であれば、特殊な物件でない限り内覧が入らないということは考えづらい。レインズ・ポータルサイトへの掲載をしっかりしているか、近隣へチラシを何枚配布しているかを確認するとよい。


(2)ポータルサイトで使用されている写真を確認する

ポータルサイトへの問い合わせ率は、掲載している写真が大きな要素を占めると言われている。写真をしっかりと撮り、対策をする。 マイナスポイント以外はできるだけ網羅する。

掲載写真は最低10枚以上
晴れた日の撮影
外観撮影は角度を変えて数パターン(面している道路も映るように)
全部屋撮影(特にリビングは別角度で数枚撮影)
水回り撮影(特にキッチンは別角度で数枚撮影)
家の中からの眺望を撮影
も撮影
近隣の施設も撮影(コンビニ、スーパー、病院、学校等)
暗い写真はNG
できれば広角レンズで撮影

(3)販売時期をずらしてみる

近隣で競合となる物件が安価で売りに出されている場合は、売却時期が明確でなければ一度取り下げて時期をずらしてみるのも一つの対策になる。但し、その競合物件も販売が長期化し、その間に市況が変わるリスクもある。


(4)不動産会社を変えてみる

上記 (1)〜(3)は不動産会社が行うので、依頼してもやってくれなかったり、時間がかかったり、誠意をもって取り組んでくれない場合は、不動産会社を切り替えるのも一つの方法である。


媒介契約の中途解約

販売を依頼している不動産会社が誠心誠意、販売活動を行ってくれないので依頼先を変更したい場合には契約を解約してもよいだろうか? 答えは、YESである。

不動産会社が媒介契約の義務を履行しない場合、途中解約は可能である。 専任媒介契約・専属専任媒介契約の場合、不動産会社の義務は大まかに言えば、下記の通りである。これらの義務に違反した場合には、契約期間内であっても媒介契約の解除は可能である。

  • 契約の成立に向けて積極的に努力する義務
  • 期限内にレインズに登録する義務
  • 販売活動の状況を報告する義務
  • 購入の申込があった場合は、遅延なく報告する義務

但し、売主の都合が理由の場合には、それまでの販売活動にかかった経費を請求されることがある。不動産会社も販売活動には費用がかかるためである。

しかしながら、販売活動中に転勤が無くなった、賃貸にすることにしたなどの理由の場合、多くの不動産会社は事情を考慮して費用を請求することはないが、中には契約だからとの理由で請求されてしまう可能性もある。売主としてはこのようなリスクを回避したい。では、どうするか?

リスクを回避する方法には、下記の2つがある。

一つは、媒介契約の期限が切れるまで待つこと。専任媒介契約・専属専任媒介契約の場合、最長3ヵ月の期間と宅建業法で定められている。

また、自動更新もできないため、必ず書面で売主の更新の意思を確認する必要がある。そのため、売却の事情が無くなった場合にはそのまま何もしなければ自動的に媒介契約が解除される。

もう一つは、売却事情が無くなる可能性が予め分かっている場合は、媒介契約締結時に任意のタイミングで解約できる特約を入れておくことである。

不動産会社も事情が分かっていれば、ここで抵抗することはない。もし抵抗された場合にはその不動産会社との媒介契約は見送ることである。媒介契約も一つの契約であり、将来のリスクを減らすに越したことはない。


内覧時の準備と対応

自分自身が買主だとした場合にどう思うかという視点で準備する。

整理整頓
室内があまりに散らかっているとマイナスイメージになることもある。内覧の際は、事前に掃除をして、室内を整理整頓しておくこと。特に玄関リビング水回りバルコニーは不動産購入時のポイントとなりやすいが、居住中のまま販売することは生活イメージが沸くというメリットがあるため、気を張らずに片付け程度でも問題はない。
室内は十分に換気しておく
日々生活をしていると、どうしても各家庭独特の空気がこもりやすい。空気がこもったままであると、「他人の家」という印象を強く与えるので、買主にとって居住するイメージが沸きづらくなってしまう。そのため、内覧前は窓を開けて室内の空気を入れ替えておくことをお勧めする。
部屋の照明はすべて点灯しておく
昼間でも室内の照明は全て点けておくようにする。店舗でも明るい店は集客がしやすいと言われるくらい、明るさに人は惹かれる。不動産でも同じであり、全ての照明を付けて買主を出迎えることが望ましい。
室内履き(スリッパ)を準備しておく
室内履きを日常的に履く人と履かない人がいる。しかし、仮に売主が履かないとしても、買主は履く可能性があるため室内履きを 準備しておいた方が無難である。
付き添いはひとりで
売主の家族全員が揃っている中では買主も自由に見づらいものである。しっかり見てもらわないと、消化不良のまま他の物件になびいてしまう可能性がある。買主の見やすい雰囲気を作るために、家族には一時的に外出してもらうなどの気配りが必要。
あまり話しかけすぎない
売主心理としては、自宅のアピールポイントを買主に伝えたくなるものである。しかし、あまりにアピールしすぎると、セールストークに聞こえてしまうし、ゆっくり見ることが出来ない。逆に悪印象になることもある。買主は家を見ると同時に、売主のことも見ている。印象を良くしておくことは、後々の条件交渉にも有利に働く。内覧中は売主はリビングで待機をし、質問があったら答える程度で臨むように心がける。ただ、一問一答ではなく、回答にプラスαでアピールポイントを伝えると嫌味無く、アピールできるので、この方法を推奨する。

買主との条件交渉

購入申込書の記載事項
・購入したい物件の概要(所在・売買対象となる面積等)
買主の購入希望価格
・住宅ローンの利用の有無とその金額
・契約時の手付金の額
・契約締結の希望時期
・引き渡しの希望時期
・その他の条件
・購入希望者の氏名(押印)住所

購入申込書記載事項が全て売主の希望通りになっていれば、契約に進むことになるが、希望通りにいかないこともある。条件交渉の大半は価格についてである。一般の買主の場合、多くは端数部分の価格交渉を行う。例えば、4,180万円の販売価格だとすると、4,100万円で、といった形である。

買主の立場では、人生で一番高い買い物と言われる不動産を初めて買う瞬間であるので、覚悟を決めて購入申込書を書いている。そのため、「この金額でなければ買わない!」ということは少ないが、不安になって契約直前で取り止めることも多々ある。

買主に最後の踏ん切りをつけて貰うためには、売主も計画の範囲内であれば多少譲歩するのも一つの方法である。しかし、冷静に考えるとこの80万円の差はかなりの大金である。

売主としては、簡単に値下げはしたくないし、折角の買主を逃したくもないのでジレンマをかかえることになる。このような場合の交渉術としては次のような方法がある。

買主に「正直ご提示の金額は厳しいです。でも素敵な買主様だからお譲りしたいという気持ちもあります。できるだけ歩み寄るのでいくらまでなら買いあがってくれますか」と、提示する。

売主から金額提示をすると、買主は「金額を上げさせられた」という意識が芽生える。これが芽生えてしまうと、契約後にトラブルがあった場合尾を引くことがある。

売主から金額提示をせず、買主から引き出すことでこの意識が無くなり、また、金額譲歩の姿勢を見せることで「値段を下げてもらった」という、反対の意識を持ってもらうことができる。これが、買主との交渉術である。

多くの場合、不動産会社が仲介するため、交渉の席に直接売主が座ることはないが、不動産会社は成果報酬のため、煽って早く契約を迫ってくる不動産会社も存在する。そのような場合に備えて、このような交渉術もあることを知っておいても決して損はないと思う。


あとがき

私は、今までの人生の中でマイホームの売買を4度経験している。経験が増えるにつれて不動産の売買についての知識もついてきたが、資格がないので自分自身でマイホームの売買ができるわけではない。

不動産の売買についての知識は、「如何に正直(誠実)な不動産屋(営業担当)」を見抜くための見識を得るためと割り切っている。しかし、不動産屋ではない一般人にとっては、この見識こそが大切なマイホームを売買する際に最も重要であると今は確信している。


【参考資料 】
一般財団法人 不動産適正取引推進機構
近鉄不動産HP (kintetsu-re.co.jp)