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日本の仏教における代表的な宗派とその教義について

はじめに

仏教の国と聞いてすぐに思い浮かぶ代表的な国は、タイミャンマースリランカネパールといったアジアの国々である。

インド中国は、仏教の発祥と発展において極めて重要な国である。インドは仏教の生誕地であり、釈迦(ゴータマ・シッダールタ)が悟りを開き、教えを広めた場所である。一方、中国は仏教が紀元前後に伝来して以来、そこで大きく発展を遂げた。禅宗や華厳宗など、中国独自の仏教思想が生まれ、アートや建築、哲学にも多大な影響を与えた。広州や敦煌にある石窟寺院は仏教芸術の真髄として知られている。

しかしながら、現代のインド中国は「仏教の国」として特徴づけられる状況ではない。インドの現在の主要宗教はヒンドゥー教であり、仏教徒の割合は少なくなってしまい少数派である。中国でも仏教は長い間、文化と精神の重要な柱であったが、現代では政府の政策や都市化の影響もあり、多くの人々が宗教的ではなく文化的な文脈で仏教を捉えている。つまり、両国とも仏教の歴史や文化にとっての重要性は計り知れないが、現在では仏教が生活や社会全体において主要な存在というわけではない。

では、日本はどうであろうか? 日本では独自の仏教文化が花開き、神道と融合して特異な形で発展した。日本は仏教文化が深く根付いた国ではあるが、「仏教の国」と言い切ることはできないようだ。日本では仏教は古代から受け入れられ、神道と共存しながら独自の文化や思想を発展させてきたが、現代の日本では特定の宗教を国全体で信仰するわけではなく、仏教も文化や伝統の一部として尊重されているだけである。例えば、お寺参りやお盆、法事など、日常生活や行事に仏教的な要素が自然に取り入れられている。しかし、信仰そのものよりも、文化的・歴史的な背景の一部として受け止められていることの方が多い状況である。このように日本は「仏教の影響が深く生活に溶け込んでいる国」とは言えるかも知れないが、「仏教の国」とは言えない。

しかし、日本の仏教には多くの宗派があって、それぞれの宗派には独自の教義や特色があって、実に興味深い。これらすべて宗派が「仏教」という大きな枠組みの中で生まれてきたという事実がとても興味深く、仏教というものが時代や地域、人々のニーズに柔軟に対応して進化してきたんだという歴史を感じる。

目次
はじめに
日本の仏教の宗派
代表的な宗派
日本の仏教の歴史
天台宗の分派
真言宗の分派
信者数が多い宗派
あとがき

日本の仏教の宗派

日本の仏教の宗派にはたくさんの独自の教義や特色がある。調べていて不思議に思ったのは、すべての宗派が同じ仏教を基盤にしていながら、解釈や実践の仕方がこんなにも多様化していることである。

例えば、真言宗では、密教の儀式や神秘的な即身成仏の考え方が特徴で、弘法大師空海による教えが基盤となっている。

一方、浄土宗浄土真宗では「南無阿弥陀仏」と唱えることで極楽浄土へ行けるとされている。シンプルさと日常性が際立っている。

そして、禅宗臨済宗曹洞宗)では「悟り」に重きを置き、座禅を通じて自らの内面と向き合う実践が中心となっている。

これらの宗派が「仏教」という大きな枠組みの中で生まれたという事実がとても興味深く、仏教というものが時代や地域、人々のニーズに柔軟に対応して進化してきたんだと感じてしまう。


代表的な宗派

日本仏教には多くの宗派がある。それぞれに独自の教えや特徴がある。それぞれの教えには独自の哲学と実践方法があり、とても奥深い。代表的な宗派には次のような宗派がある。

  • 天台宗
    • 伝教大師最澄が開いた宗派で、比叡山延暦寺が拠点
    • 教義は、法華経を中心とした「一乗思想」に基づき、すべての人が仏になる可能性を持つと説く
    • 修行として戒律、禅定、念仏を重視する
  • 真言宗
    • 弘法大師空海が開いた密教を基本とする宗派
    • 教義は、密教を基盤とし、大日如来を中心に宇宙と人間の本質を統一的に捉える
    • 三密修行(身・口・意を調和させる)を通じて悟りに至るとされる
  • 浄土宗
    • 法然が広めた念仏信仰が中心
    • 教義は、阿弥陀仏の慈悲により、念仏を唱えることで誰もが極楽浄土に往生できると説く
    • 「南無阿弥陀仏」の念仏が中心となる
  • 浄土真宗(本願寺派など)
    • 親鸞による教えで、阿弥陀仏の「他力本願」による救済を強調しているのが特徴
    • 教義は、人間の修行や努力ではなく、仏の力を全面的に信じることが重要とされる
  • 禅宗
    • 禅宗は坐禅を通じて悟りを得ることを目指す
    • 臨済宗
      • 鎌倉時代に栄西が伝えた宗派
      • 公案という問いを通じた悟りを目指す
    • 曹洞宗
      • 道元による座禅が中心の禅宗
      • 黙々と坐禅に打ち込む「只管打坐」を重視
    • 黄檗宗
      • 中国から伝来し、臨済宗や曹洞宗とは少し異なる禅宗の一派であり、京都の萬福寺が有名
  • 日蓮宗
    • 日蓮が開いた宗派で、「南無妙法蓮華経」を唱える教え
    • 法華経の教えを最上とし、「南無妙法蓮華経」を唱えることで成仏への道が開かれると説く
  • 法華宗
    • 法華経を重視する宗派
  • 華厳宗
    • 奈良時代に栄えた、華厳経を基本とする宗派
  • 律宗
    • 仏教戒律を重視した宗派
  • 融通念仏宗
    • 念仏を唱えることで心の融通を得る教え
  • 時宗
    • 一遍上人が開いた宗派で、念仏を唱えながら全国を遊行(旅)する活動が特徴
  • 修験道(神道と密教の融合)
    • 特に山岳信仰と関わりが深く、霊場での修行が重要視

日本の仏教の歴史

日本の仏教の歴史はとても奥深く、時代ごとにさまざまな特徴を持つ宗派が誕生している。特に、南都六宗や平安二宗、禅宗の成り立ちは興味深い。

南都六宗

南都六宗は、奈良時代に発展した仏教の学問的な派閥で、次の6宗派が含まれる。

  • 法相宗
    • 唯識思想を基に、「心」のあり方を重視
  • 倶舎宗
    • 因果応報と五蘊(人間の構成要素)を詳しく分析
  • 三論宗
    • インドの三論を基にし、「空」を追求する教え
  • 成実宗
    • 四諦に基づき、人間の苦と解放の道を探求
  • 華厳宗
    • 全ての存在が互いに関連し合う「縁起」を説く
  • 律宗
    • 僧侶の戒律を重視し、行動の規範を定める

これらは奈良の主要寺院で発展し、学問的な仏教研究を行うことが中心であったと言われている。しかし、当時は政治的な影響力が強かったため、平城京(奈良)から平安京(京都)への遷都のきっかけともなっている。

平安二宗

平安時代になると仏教は新たな潮流を迎え、二大宗派が登場してくる。天台宗真言宗である。

  • 天台宗
    • 伝教大師最澄が比叡山で開いた宗派で、すべての存在に仏性が宿ると説く
  • 真言宗
    • 弘法大師空海が高野山を拠点に密教を展開し、真言や儀式を重視した

これらの宗派は京都に近い地域で発展し、政治的な影響力を持つようになった。

禅宗

鎌倉時代に中国から伝わり、大きな影響を与えた宗派が禅宗である。臨済宗曹洞宗が代表的な宗派である。

  • 臨済宗
    • 禅問答を通じて悟りを目指し、栄西によって広められた
  • 曹洞宗
    • 道元による教えによる、座禅を中心とした実践が特徴

このように、日本の仏教は日本の社会や文化と共に独自の形で発展してきた。


天台宗の分派

天台宗は伝教大師最澄によって開かれた宗派であるが、長い歴史の中でいくつかの分派が形成されてきた。それぞれ独自の解釈や特徴を持ちながらも、基本的な教えを共有している。天台宗の主な分派としては、次のような宗派が知られている。

  • 天台宗本宗
    • 伝教大師最澄の伝統を忠実に守る流派で、比叡山延暦寺を中心としている
  • 天台真盛宗
    • 室町時代、真盛上人によって立ち上げられ、戒律を重視する特徴がある
  • 天台寺門宗
    • 天台宗の中で、特に密教的な修行法を発展させた宗派
  • 天台宗妙法院派
    • 独自の修行法と教義を重視し、主に京都を拠点とした宗派

各分派は歴史的背景や地域的な影響によって形作られたものであり、天台宗全体の多様性を物語っている。

一方、浄土宗日蓮宗は、天台宗からの直接の分派といえないが、天台宗の教えや影響を強く受けて発展した宗派である。

  • 浄土宗
    • 法然が開いた宗派で、天台宗での修行経験を基にしている
    • 法然は比叡山で修行し、そこから念仏を唱えるシンプルな教えを強調する浄土宗を生み出した
  • 日蓮宗
    • 日蓮も天台宗で学び「法華経」を中心とする独自の教えを展開した
    • 日蓮宗の核心である「南無妙法蓮華経」は、天台宗での教えを土台にしつつ、新しい方向性を打ち立てたとされる

このように浄土宗日蓮宗は、天台宗から直接分かれたというよりも、その思想や修行方法を土台にして独自の宗派として成立したと言える。

なお、日蓮宗日蓮正宗は、いずれの宗派も日蓮の教えを基盤としているが、それぞれ異なる解釈や実践方法を持っている。

  • 日蓮宗
    • 法華経を広く宣伝し、人々に教えを伝えることを中心にしている
    • 多くの派が存在し、「南無妙法蓮華経」を唱えることで救いを得ると教えている
    • 開かれたコミュニティと多様な信仰実践が特徴
  • 日蓮正宗
    • 日蓮宗のより厳格な教えを重視する宗派
    • 特に、唯一の正しい教義として「南無妙法蓮華経」を専一に唱えることを強調する
    • 大石寺を本山として活動し、伝統的な戒律や教義を守る姿勢が特徴

両者の違いは主に教義の解釈や実践の厳密さにあると言えるが、私はまだ両者の違いを明確に理解できたわけではない。


真言宗の分派

開祖である弘法大師空海によって開かれた真言宗は、次第に教義や修行方法の違いが明確化されることで分派が進んだ。真言宗の分派は、その独自の歴史的展開や教義に基づいて形成されたと言われている。

主な分派は以下の通りである。

  • 古義真言宗
  • 新義真言宗
    • 覚鑁(興教大師)によって開かれた新しい教義を重視する流派で、現在は智積院を拠点とする
  • 真言律宗
    • 戒律を特に重視する流派で、浄厳や慈雲などがその復興に努めたとされる

さらに細分化され、東寺派高野山派などの地域的な本山を中心とした組織が形成されている。これらの分派は、修行方法や教えの解釈に違いを持ちつつも、弘法大師空海の基本的な密教の哲学を共有しているのは興味深い。詳しく真言宗十八本山を参照。


信者数が多い宗派

日本の仏教で信者数が最も多い宗派は、浄土真宗本願寺派(西本願寺)とされている。この宗派は、およそ771万人の信者を持つと言われている。また、真宗大谷派(東本願寺)もそれに続いて689万人ほどの信者がいると言われている。また、浄土宗曹洞宗も多くの信者を持つ宗派として知られている。

これらの宗派が多くの人々に支持されている理由は、一般信徒に分かりやすく日常的な実践が可能な教えを提供しているためだと考えられている。つまり、比較的シンプルな教義や日常生活の中で実践しやすい特徴があることが、多くの人々に支持されているのだと理解されている。

一方、天台宗真言宗は、比叡山や高野山を中心に信仰を集め、歴史的に重要な役割を果たしてきたが、現代の日本では一般信徒の割合が他の宗派に比べて少ない傾向にあると言われている。

その理由としては、天台宗や真言宗が宗教的な実践において僧侶中心の儀式や学問を重視している点が挙げられる。但し、天台宗や真言宗もその精神的深さや文化的遺産が非常に価値があるとされ、多くの人々に魅力的に映る要素をたくさん残している。興味があるなら、比叡山や高野山などの聖地を訪れて、実際の仏教文化に触れてみるのも良いと思う。


あとがき

日本の仏教における代表的な宗派とその教義について調べ、学ぶことは、リベラルアーツの学習に大いに繋がると信じたい。リベラルアーツは幅広い知識を探究し、人間や社会について深く考えることを目的としており、宗教や哲学の理解はその重要な一環である。日本の仏教の多様性を学ぶことで、歴史、文化、倫理、信仰の在り方について洞察を深めることができると思う。

日本における代表的な仏教の宗派の教義を学ぶことで、以下のようなリベラルアーツ的な能力を養うことができるはずである。

  • 歴史的視点
    • 日本の社会や文化が仏教とどのように結びついてきたかを理解する
  • 哲学的洞察
    • 人間の生き方や死生観について深く考える
  • 多文化理解
    • 世界の宗教と比較し、異なる文化や信仰への理解を深める

日本仏教のどの側面に興味があるかは、各人の自由である。気になる宗教を詳しく掘り下げてみても面白い。そこには何の束縛もないはずである。

私の実家は、高野山に地理的に近いという理由からか先祖代々真言宗に帰依している。高野山に位置する金剛三昧院が菩提寺となっており、法事ではお世話になっている。そんなわけで、私にとっての仏教は、弘法大師空海による真言宗が唯一無二のものであるが、率直に言って熱烈な信者であると言い切れない。真言宗以外の寺院にも普通に参拝するし、真言宗以外の信者を排他的に思ったことは一度たりともない。その理由が自分の意志で入信したわけではないからであると思う。もっとも真言宗が嫌いなわけでは一切ない。弘法大師空海の教えに救われてきた経験もある。

一方で、新興宗教の信者のように熱狂(狂信)するのは如何かと思ってしまうことがある。私自身に経験がないので断定はできないが、マインドコントロールされていることに気づかないほどに信仰するのは危険であるし、自らを見失うことに繋がる。宗教は私たちの心の安寧を保ってくれるが、付かず離れずの距離感というかバランス感覚のようなものが必要ではないかと思う。


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