はじめに
まだ随分と先の話だと勝手に思い込んでいたが、気づかない間に公的年金を受給する対象年齢になってしまった。そう言えば公的年金の仕組みについて勉強することもなかった。
年金制度は改定されることがあり、勉強するのは自分に関係するようになってからでも遅くはないと後回しにしてきた。その理由は、先に勉強したからと言って支給額が増えるわけではないと身勝手な理屈であったから、今となっては恥ずかしい限りである。
率直に言えば、年金制度を学ぶことよりもいかに年金に頼らずに生活できるかの方に関心が高かったの事実である。そして、今、自分自身が年金を受給する年齢に達してしまうと、何も知らないまま年金を受給するのは嫌だという気持ちにもなった。
そこで、公的年金について勉強してみた。そして実際に受給申請手続きをすることになりネット検索で調べてみたが、私にとっては参考程度にしかならなった。
それは実際に年金事務所に年金請求申請をしてみて、如何に年金の請求申請についての情報が私達に共有されていないかを知ったからである。サラリーマンの確定申告と同じぐらいの手続きだと高をくくって年金事務所を訪れたのが失敗の始まりであった。
この記事では、私の失敗経験を共有することで、年金を初めて受給する際の留意事項を共有したいと思う。その留意事項さえ遵守してもらえれば、必ず円滑に年金の請求申請ができるようになるはずである。そう確信してこの記事を書くことにする。
<目次> はじめに 公的年金の仕組み 支給開始年齢 受給見込額 定年後の働き方と年金額 年金の受給申請手続き 年金請求書の確認と必要事項の記入 添付書類の準備 年金請求書の提出 年金の受け取り開始 加給年金 加給年金の受給要件 加給年金の申請に必要な添付書類 令和4年4月以降の加給年金の停止と経過措置 経過措置の内容 振替加算 振替加算の受給資格要件 振替加算の申請に必要な書類 振替加算の受給額はいくらか? 年金収入への課税(所得税・住民税) 雑所得を計算する 所得税を算出する 住民税を算出する 所得割 均等割り 住民税(課税総額) あとがき |
公的年金の仕組み
公的年金制度は、社会全体で高齢者などの生活を支えようという考えのもとに創設された。日本の公的年金制度は、国民皆保険、社会保険方式、世代間扶養の三本柱で構成されている。
公的年金の対象は老齢年金だけではなく、思わぬ事故や病気になったときの障害年金、一家の働き手がなくなったときのための遺族年金がある。
国民皆年金 |
基本的に20歳以上60歳未満のすべての人に公的年金への加入義務がある。このような日本独自の国民皆年金制度によって、安定的に保険料収入を確保でき、社会全体で年金を受け取っている人の生活を支えることが可能になっている。 |
社会保険方式 |
現役世代(いま働いている世代)が納める保険料を基本の財源として、そこに国庫負担金(税金)と年金積立金を組み合わせることで、安定的に年金を給付できる仕組みを構築している。原則的には保険料を納めないと年金を受給できない。 |
世代間扶養 |
現役世代が納める保険料をもとに、年金を支給する世代間扶養(世代と世代の支え合い;賦課方式)によって成り立っている。世代間扶養により年金の支給は終身にわたって続き、物価変動にも対応できる仕組みになっている。 |
日本の公的年金制度は、20歳以上の全ての人が共通して加入する国民年金と、会社員が加入する厚生年金などによる、いわゆる2階建てと呼ばれる構造になっている。
具体的には、自営業者など国民年金のみに加入している人(第一号被保険者)は、毎月定額の保険料を自分で納め、会社員や公務員で厚生年金や共済年金に加入している人(第二号被保険者)は、毎月定率の保険料を会社と折半で負担し、保険料は毎月の給料から天引きされる。
専業主婦など扶養されている人(第三号被保険者)は、厚生年金制度などで保険料を負担しているため、個人としては保険料を負担する必要はない。
老後には、全ての人が老齢基礎年金を、厚生年金などに加入していた人は、それに加えて、老齢厚生年金などを受け取ることができる。
このように、公的年金制度は、基本的に日本国内に住む20歳から60歳の全ての人が保険料を納め、その保険料を高齢者などへ年金として給付する仕組みとなっている。
支給開始年齢
公的年金の支給開始年齢は、性別・生年月日に応じて下図のように決定されている。
老齢厚生年金を受け取る権利は、原則、65歳から発生する。
しかしながら、厚生年金保険の加入期間が1年以上あるなどの要件を満たしていると生年月日によって60歳~64歳までの間でも「特別支給の老齢厚生年金」を受け取る権利が発生する。
この特別支給の老齢厚生年金は、請求を遅らせても、増額することはなく、時効によって年金を受け取れなくなる場合すらある。
年金を受けられるようになった日から5年が過ぎると、法律に基づき、5年を過ぎた分については時効により受け取れなくなるから、受給権利が発生したら早めに請求手続きをすべきである。
ちなみに、私の場合は、63歳から支給開始の年金受給資格者であったが、再雇用でサラリーマン生活を過ごしていたから、この「特別支給の老齢厚生年金」の受給申請をしなかった。
すると、この年金は収入制限があるので支給されないということを65歳からの年金請求時に、年金事務所(窓口)で告げられ、同意の確認をさせられた。63歳か65歳までの2年間で約325万円分の年金受給額が露と消えたことを知り、ちょっと残念な気持ちになったが諦めるしか術がないことを学んだ。
受給見込額
公的年金の受給額は、納めた保険料だけでなく、どれくらいの期間、どの年金制度に加入していたかによって変わってくる。年1回、誕生日月に自宅に届くねんきん定期便(はがき) で、この加入記録や受給見込額を確認できる。特に、35歳・45歳・59歳の節目年齢時に封書で送られてくるねんきん定期便には、すべての加入記録が記載されているので、該当年齢のときには特に注意して内容をチェックすべきである。
公的年金の受給見込額は、ゆうちょ銀行のHPに記載されている計算式にそって算出することができる。年金冊子PDF用(japanpost.jp)
定年後の働き方と年金額
70歳未満のシニア世代が会社に就職し厚生年金保険に加入した場合あるいは70歳以上のシニア世代が厚生年金保険の適用事業所に勤務した場合には、老齢厚生年金の額と給与や賞与の額(総報酬月額相当額)に応じて、年金の一部または全額が支給停止となる場合がある。これを在職老齢年金という。
2020年5月29日に年金制度改正法が成立し、2022年4月に施行されることになった。この法律は、健康寿命が延びた60歳台のシニア世代の働き方の多様化に対応しようとしている。
60歳を過ぎても現役のままで働きたいと思うシニア世代が増加してきた社会変化に対応すると共に、少子高齢化が進む将来において年金受給開始年齢を引き上げなければ持続可能な年金制度を維持できないことから法改正が進んだと推察される。
この年金制度改正法では、年金に関係するさまざまな改正がなされているが、その中でも、60歳以降も働いた場合に影響が出る改正点には以下のようなものがある。
改正点1 在職老齢年金の基準額の見直し |
在職老齢年金の支給停止基準の緩和(60~64歳を対象) |
改正前の在職老齢年金制度の適用となる基準額は、60~64歳と65歳以上に差が生じていた。 具体的には、60~64歳の人は、賃金と年金月額の合計が28万円を超えると年金額の一部または全部が支給停止となる。これに対して、65歳以上の人は、賃金と年金月額の合計が47万円を超えなければ、年金額の一部または全部が支給停止とならない。 改正後は、60~64歳の人の年金額の一部または全部の停止額を47万円に引き上げ、65歳以上の人と同額にした。尚、65歳以上の人は、改正前と変わらず在職老齢年金制度の適用となる基準額は、賃金と年金の合計額が47万円以上となる。 この改正は、年金額の減額がされないよう、賃金を減らすために労働時間を調整するといったことを行っていた60~64歳までの人に対し、労働意欲を喚起するために行われたものといえる。 |
頑張って仕事をし、47万円(賃金+年金)より多くの収入を得ようとすれば、これまで自分が払ってきた年金がカットされるというのでは、全く納得ができない。そこで多くのシニア世代は、年金を減額されない範囲内で適当(?)に働くことになるのかも知れない。
改正点2 在職定時改定の新設 |
在職老齢年金の在職定時改定 |
これまでは、70歳時、または退職して1ヶ月後のどちらか早い時期にしか支給される年金額の見直しが実施されなかった。この70歳もしくは退職時に再計算することを「退職時改定」という。 改正後は、65歳以降毎年10月に年金額が再計算されるようになる。これを「在職定時改定」といい、この制度新設により早期に年金額が反映されることになる。 この制度新設は、65歳以上で働き続けたいと望んでいるシニア世代に対し、早期に年金額が増えることを実感させ、勤労意欲を喚起しようとしたものといえる。 言い換えれば、仕事を継続したことの効果を、退職を待たずに年金額に反映することで、在職老齢年金が毎年増えることになる。 但し、賃金と年金の合計が47万円を超える場合は、年金の一部または全額が停止されるので要注意! |
では、もっとバリバリと働き、稼ぎたいという シニア世代は、どうすればよいのか?
一つの方法は、会社員として働くのではなく、フリーランスとして働くという手段である。
フリーランスの形態としてはいろいろあるが、一般的なものでは個人として会社と業務契約を結ぶという方法などがある。
公的年金の受給申請手続き
年金を受け取るための手続きの流れ
年金請求書(国民年金・厚生年金保険老齢給付)という書類が緑色の封書で日本年金機構から送付されてくるので、この年金請求書に必要事項を記入して居住地の年金事務所に提出すればよい。ここでは実体験を元に受給申請の手続きの流れを説明する。
(1)年金請求書の確認と必要事項の記入
年金請求書では、申請者が必要事項を記入する箇所は黄色にハイライトされているので分かりやすい。そこに下記のような必要事項を記入すればよい。
- 年金受給者本人の印字内容の確認署名と連絡先電話番号
- 年金の受取口座
- 印字された年金の加入状況の確認(必要なら修正又は加筆)
- 年金の受取状況(現状)と雇用保険の加入状況
- 配偶者と子(年齢要件を満たす場合)の氏名や個人番号
- 加給年金額に関する生計維持の申し立て
- 振替加算に関する生計維持の申し立て
- 扶養親族等申請書について
年金受給者本人の住所、氏名、性別、生年月日、基礎年金番号や年金の加入状況などは最初から印刷されているので、その記載された内容を確認し、誤記があれば二重線を引いて、正しい内容を記入すればよい。訂正印は不要である。
記入上の注意事項
- 黒インクのボールペンで記入すること
- 鉛筆や摩擦に伴う温度変化等により消色するようなインクを用いたペンまたはボールペンは使用しない
- 住所欄は、原則、住民票住所を記入する
- 住民票住所と異なる居所を通知書等送付先とする場合には、例外的に、年金請求書の住所欄に通知書等送付先を記入した上で、別途、「住民基本台帳による住所の更新停止・解除申出書」が必要になる。このような場合は、最寄りの年金事務所へ問い合わせをしておくこと
- 年金加入記録にモレや誤りがある場合は、事前に最寄りの年金事務所に問い合わせを行うこと
(2)添付書類の準備
日本年金機構から送付される年金請求書に同封されているパンフレットを読み、自分に該当する年金請求に必要な添付書類を準備する。
提出が必要な添付書類
- 本人の生年月日を明らかにできる書類
- 受取先金融機関の通帳(本人名義)のコピー
- 配偶者及び/又は18歳未満の子がいる場合、
配偶者又は子と本人の身分関係を証明する書類 - 配偶者及び/又は18歳未満の子がいる場合、
配偶者又は子の収入又は所得が確認できる書類 - 雇用保険被保険者番号を証明する書類
書類 | 添付書類の種類 |
---|---|
1 | (1) 戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書) (2) 戸籍抄本(戸籍の一部事項証明書) (3) 住民票 (4) 住民票の記載事項証明書 上記の書類のいずれか一つを提出する。 但し、マイナンバーが登録済の場合は提出不要である。 |
2 | カナ氏名、金融機関名、支店番号、口座番号が記載され た部分を含む預金通帳またはキャッシュカードのコピー |
3 | (1) 戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書) (2) 世帯全員の住民票 (3) 配偶者の基礎年金番号通知書 マイナンバーが登録済の場合は(2)の書類は提出不要 配偶者のマイナンバーを記入した場合は(3)の書類は提出不要 但し、(1)の戸籍謄本は必須である。 |
4 | 配偶者及び/又は18歳未満の子について: (1) 所得証明書 (2) 課税(非課税)証明書 (3) 源泉徴収票 上記の書類のいずれか一つを提出する。 但し、マイナンバーを記入した場合は書類の提出不要である。 |
5 | (1) 雇用保険被保険証 (2) 雇用保険受給資格者証(顔写真付き) (3) 船員失業保険証 (4) 高年齢雇用継続給付支給(不支給)決定通知書 上記の書類のいずれか一つのコピーを提出する。 |
(3)年金請求書の提出
年金請求書は、65歳(誕生日の前日)を迎えてから以降に、最寄りの年金事務所又は「街角の年金相談センター」の窓口へ持参して提出するか、添付書類と共に年金事務所へ郵送する。
私は、必要事項を記入した年金請求書と共に、マイナンバーカードと銀行通帳だけを持って、最寄りの年金事務所に出かけて行った。
尚、年金事務所を訪ねて直接提出する際は、予約相談を利用すべきである。混んでいれば、順番が回ってくるまで待合室でかなり待たされることになるからである。
年金事務所では、社会保険労務士の担当者が応対してくれる。
面談は、まず最初に本人確認から始まるので、顔写真付きの身分証明書を持参しておいた方がよいことが分かった。
- マイナンバーカード
- 運転免許証
- パスポート等
私は、マイナンバーカードを使用して本人確認をしてもらった。
本人確認に続いて、年金請求書の必要事項記入欄(黄色にハイライトされた箇所)の記載内容のチェックがある。
記入モレがある場合でも説明と共に指摘してくれるので、指示に従って追記すればよい。したがって、記入事項に関しては問題が生じることはまずないはずである。
引き続いて、添付資料のチェックが行われる。年金振込先の金融機関の通帳を持参していれば、年金事務所で必要ページのコピーをとってくれる。金融機関のキャッシュカードでもOKである。
年金請求書に配偶者のマイナンバーを記入していれば、大半の添付書類は添付不要となる。
しかし、加給年金(後述)の申請者は、戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)の添付が必須である。
現時点では、戸籍はマイナンバーでは確認できないらしいので、婚姻関係を確認するために戸籍謄本が必要ということである。将来、戸籍もマイナンバーで確認できるようになれば、年金申請時にわざわざ戸籍謄本を取り寄せることも不要になるだろう。
また、添付書類で忘れがちなのは、雇用保険被保険者番号を証明する書類である。私も雇用保険被保険証のコピーを添付していなかったので提出するよう指摘を受けた。
最後に、年金受給額と受給開始時期についての説明があった。年金は2カ月分が隔月毎に振り込まれる。年金の振込みが開始されるのは年金請求の申請からおよそ2~4カ月後である。
結局、私の場合は下記の添付文書が添付されていないことを指摘され、後日、郵送または年金事務所の受付横に設置されているポストに投函するよう指導された。
- 戸籍謄本(戸籍の全部事項証明書)
- 雇用保険被保険証のコピー
年金事務所の担当者の応対は親切で、こちら側からの質問にも的確に回答してくれた。年金事務所の応対に対しては、受付も含めて非常に好印象を持った。
(4)年金の受け取り開始
年金請求書の申請者の受給権(年金を受け取る権利)を日本年金機構が確認してから約1~ 2カ月後に、年金証書・年金決定通知書が送られてくる。
年金証書・年金決定通知書が届いてから約1~2カ月後に、年金のお支払いの案内(年金振込通知書、年金支払通知書または年金送金通知書)が送付されてきて、年金の受け取りが始まる。
したがって、年金請求書を提出から年金の受取りまでは、およそ2~4カ月が必要である。
加給年金と振替加算
読者の皆さんは、加給年金と振替加算についてどれくらいご存知ですか? 私は、恥ずかしながら年金受給のために申請書を書く段階まで知らなかった。
加給年金と振替加算は、「ねんきん定期便」に記載されている見込み額には含まれていない。それぞれ要件に該当する場合にのみ受給できる公的年金である。
加給年金とは?
加給年金は、所定の手続きを行うことで、老齢厚生年金に上乗せして受け取ることができる年金のことである。
瓦版資料.xlsx (city.chigasaki.kanagawa.jp)
厚生年金保険の被保険者期間が20年以上ある受給資格者が、65歳到達時点(または定額部分支給開始年齢に到達した時点)で、その受給資格者に生計を維持されている配偶者または子がいるときに加算される。
なお、加給年金は下記の年齢制限に該当しなくなった場合の他、離婚、死亡等により生計を維持されなくなったときに加算が終了する。加給年金の加算または終了については、届出が必要となる場合があるの年金事務所に相談するとよい。
加給年金の受給要件
加給年金を受給するためには厚生年金の被保険者期間が定められた年数に達しており、生計を維持している65歳未満の配偶者、または18歳未満の子どもがいることが必要である。
加給年金の申請に必要な添付書類
① 戸籍謄本 |
② 世帯全員の住民票(マイナンバーを記入することで添付不要) |
③ 妻や子の所得証明書(マイナンバーを記入することで添付不要) |
令和4年4月以降の加給年金の停止と経過措置
年金制度の改正により、令和4年4月以降は、配偶者の老齢厚生年金(被保険者期間が20年以上または共済組合等の加入期間を除いた期間が40歳(女性の場合は35歳)以降15年から19年以上の場合に限る)、退職共済年金(組合員期間20年以上)を実際に受け取っていなくても、受け取る権利がある場合(在職により支給停止となっている場合等)は、配偶者加給年金額は支給停止される。
ただし、以下の1および2の要件を満たす場合については、令和4年4月以降も引き続き加給年金の支給を継続する経過措置が設けられている。
- 令和4年3月時点で、本人の老齢厚生年金または障害厚生年金に加給年金が支給されている
- 令和4年3月時点で、加給年金額の対象者である配偶者が、厚生年金保険の被保険者期間が240月以上ある老齢厚生年金等の受給権を有しており、全額が支給停止されている
経過措置の内容
振替加算とは?
専業主婦や専業主夫が65歳になると、配偶者が受給していた加給年金は打ち切りになる。それに代わって一定の基準により専業主婦や専業主夫の老齢基礎年金に加算されるのが「振替加算」である。
振替加算の受給資格要件
振替加算は、全ての人が受給できるわけではない。
振替加算の対象となる妻(夫)は、通常、その妻(夫)が老齢基礎年金を受給する資格を得たとき(満65歳到達時)において、その夫(妻)が受けている年金の加給年金額の対象となっていた者のうち、次の条件を満たしている者になる。
- 大正15年(1926年)4月2日から昭和41年(1966年)4月1日までの間に生まれていること
- 妻(夫)が老齢基礎年金の他に老齢厚生年金や退職共済年金を受けている場合は、厚生年金保険および共済組合等の加入期間を併せて240月未満であること
- 妻(夫)の共済組合等の加入期間を除いた厚生年金保険の35歳以降の(夫は40歳以降の)加入期間が、次の表未満であること
生年月日 | 加入期間 | |
---|---|---|
1 | 昭和22年4月1日以前 | 180月(15年) |
2 | 昭和22年4月2日から昭和23年4月1日 | 192月(16年) |
3 | 昭和23年4月2日から昭和24年4月1日 | 204月(17年) |
4 | 昭和24年4月2日から昭和25年4月1日 | 216月(18年) |
5 | 昭和25年4月2日から昭和26年4月1日 | 228月(19年) |
振替加算の受給対象者は、現在の公的年金制度がスタートした1986年4月1日の時点で20歳以上だった1926年4月2日~1966年4月1日生まれの人である。
但し、厚生年金保険などの加入期間が20年以上ある配偶者の場合には振替加算は支給されない。
配偶者が年下で加給年金の対象にならなかったとしても、配偶者に厚生年金保険の被保険者期間が20年以上あれば、65歳に到達した時点で、上記要件を満たしている場合は振替加算の対象となる。
振替加算の申請に必要な書類
① 戸籍謄本 |
② 世帯全員の住民票(マイナンバーを記入することで添付不要) |
③ 妻や子の所得証明書(マイナンバーを記入することで添付不要) |
振替加算の受給額はいくらか?
振替加算の受給額は配偶者の生年月日で異なる。
この制度は、専業主婦が当たり前の時代であったときの年金制度のなごりを残している。現代の日本社会の現状からはかけ離れているのでいずれなくなる制度と考えてよい。
現在の公的年金制度がスタートした1986年4月1日に59歳の専業主婦や専業主夫は、加給年金額と同額が受給できた。しかし、それ以後年齢が若くなるごとに減額していき、1986年4月1日に20歳未満の者はゼロとなるように決められている。
つまり、振替加算の額は、以下の表のように、昭和61年4月1日に59歳以上(大正15年4月2日から昭和2年4月1日生まれ)の者については、配偶者加給年金額と同額の223,800円で、それ以後年齢が若くなるごとに減額していき、昭和61年4月1日に20歳未満(昭和41年4月2日以後生まれ)の者はゼロとなるように決められている。
配偶者の生年月日 | 政令で定める率 | 年額(円) | 月額(円) |
---|---|---|---|
昭和2年4月1日まで | 1.000 | 223,800 | 18,650 |
昭和2年4月2日から 昭和3年4月1日まで | 0.973 | 217,757 | 18,146 |
昭和3年4月2日から 昭和4年4月1日まで | 0.947 | 211,939 | 17,661 |
昭和4年4月2日から 昭和5年4月1日まで | 0.920 | 205,896 | 17,158 |
昭和5年4月2日から 昭和6年4月1日まで | 0.893 | 199,853 | 16,654 |
昭和6年4月2日から 昭和7年4月1日まで | 0.867 | 194,035 | 16,169 |
昭和7年4月2日から 昭和8年4月1日まで | 0.840 | 187,992 | 15,666 |
昭和8年4月2日から 昭和9年4月1日まで | 0.813 | 181,949 | 15,162 |
昭和9年4月2日から 昭和10年4月1日まで | 0.787 | 176,131 | 14,677 |
昭和10年4月2日から 昭和11年4月1日まで | 0.760 | 170,088 | 14,174 |
昭和11年4月2日から 昭和12年4月1日まで | 0.733 | 164,045 | 13,670 |
昭和12年4月2日から 昭和13年4月1日まで | 0.707 | 158,227 | 13,185 |
昭和13年4月2日から 昭和14年4月1日まで | 0.680 | 152,184 | 12,682 |
昭和14年4月2日から 昭和15年4月1日まで | 0.653 | 146,141 | 12,178 |
昭和15年4月2日から 昭和16年4月1日まで | 0.627 | 140,323 | 11,693 |
昭和16年4月2日から 昭和17年4月1日まで | 0.600 | 134,280 | 11,190 |
昭和17年4月2日から 昭和18年4月1日まで | 0.573 | 128,237 | 10,686 |
昭和18年4月2日から 昭和19年4月1日まで | 0.547 | 122,419 | 10,201 |
昭和19年4月2日から 昭和20年4月1日まで | 0.520 | 116,376 | 9,698 |
昭和20年4月2日から 昭和21年4月1日まで | 0.493 | 110,333 | 9,194 |
昭和21年4月2日から 昭和22年4月1日まで | 0.467 | 104,515 | 8,709 |
昭和22年4月2日から 昭和23年4月1日まで | 0.440 | 98,472 | 8,206 |
昭和23年4月2日から 昭和24年4月1日まで | 0.413 | 92,429 | 7,702 |
昭和24年4月2日から 昭和25年4月1日まで | 0.387 | 86,611 | 7,217 |
昭和25年4月2日から 昭和26年4月1日まで | 0.360 | 80,568 | 6,714 |
昭和26年4月2日から 昭和27年4月1日まで | 0.333 | 74,525 | 6,210 |
昭和27年4月2日から 昭和28年4月1日まで | 0.307 | 68,707 | 5,725 |
昭和28年4月2日から 昭和29年4月1日まで | 0.280 | 62,664 | 5,222 |
昭和29年4月2日から 昭和30年4月1日まで | 0.253 | 56,621 | 4,718 |
昭和30年4月2日から 昭和31年4月1日まで | 0.227 | 50,803 | 4,233 |
昭和31年4月2日から 昭和32年4月1日まで | 0.200 | 44,760 | 3,730 |
昭和32年4月2日から 昭和33年4月1日まで | 0.173 | 38,717 | 3,226 |
昭和33年4月2日から 昭和34年4月1日まで | 0.147 | 32,899 | 2,741 |
昭和34年4月2日から 昭和35年4月1日まで | 0.120 | 26,856 | 2,238 |
昭和35年4月2日から 昭和36年4月1日まで | 0.093 | 20,813 | 1,734 |
昭和36年4月2日から 昭和41年4月1日まで | 0.067 | 14,995 | 1,249 |
昭和41年4月2日から | – | – | – |
年金収入への課税(所得税・住民税)
年金収入は雑所得として課税されることを知っていますか?
年金収入だからと言って非課税ではない。
ではどれくらいの税金を支払わなければならないのだろうか?
雑所得に対する課税額を下記のステップで算出してみよう!
(1)雑所得を計算する
雑所得は次の計算式で計算する。
雑所得=(公的年金等※1 - 公的年金等控除額※2)+(公的年金等以外の年金※3 - 必要経費※4) |
※2 公的年金等控除額速算表
※3 公的年金等以外の年金の収入金額+剰余金や割戻金
※4 該当年金額に対して支払った保険料などの必要経費
公的年金等控除額は下記の表1に当てはめて算出する。
<表1>
(2)所得税を算出する
所得税は、雑所得から、基礎控除や配偶者控除、扶養控除などの所得控除を差し引いて課税総所得額を算出し、所得税の速算表(表2)に当てはめて、税額を算出する。
例えば、課税総所得額が100万円の場合は、税率が5%であるので税額は5万円となる。
<表2>
(3)住民税を算出する
住民税には、所得割と均等割りがあるので、下記の表3に当てはめて算出し、住民税額は両者の合算として求める。
<表3>
所得割
所得割は、住民税の課税対象となる課税所得に対して10%(区市町村民税6%+道府県民税・都民税4%)である。
例えば、課税所得が100万円の場合は税率10%をかけて所得割は10万円となる。
均等割り
均等割りは、所得金額の多寡にかかわらず、一律で割り当てられる税額のことで、現在は年額5000円(区市町村民税3500円+道府県民税・都民税1500円)である。
住民税(課税総額)
例えば、課税所得が100万円なら、所得割は10万円と均等割り5000円で、10万5000円が住民税となる。
所得税と住民税には、国税と地方税の違いや対象年度の違いなどがある。税率の違いや所得控除の違いなどがある。したがって、課税所得は異なる。
住民税は、各区市町村が都民税と区市町村民税をあわせて課税・徴収しているので、税額の計算等に関する質問は居住地の区市町村で確認できる。
あとがき
年金事務所に行き、実際に年金請求の手続きをして学んだことは多い。学んで、年金制度について理解したからと言って年金の受給額が増えるわけではないが、それでももっと早くから理解していれば、シニア世代の生活の準備をもっと早くから始めていたかも知れない。
何が言いたいかというと、今まで漠然とした認識であったものが、公的年金の受給だけでは生活はできないという現実を突きつけられたのである。厚生年金加入期間が495カ月もあっても受給額はシニア生活をエンジョイするには全く足りない。
年金収入を得てもそこから税金(所得税+住民税)は徴収されるし、さらには健康保険料や介護保険料など社会保険料を支払っていかなければならないからである。これら税金と社会保険料だけで年金収入の約2割に相当するから、当然ながら年金だけでは生活できないわけである。
読者の皆さんにはこの記事を参考にして、年金制度を理解すると共に、不足する生活費を補填する方法を考えてもらいたい。つまり、シニア時代を楽しく生活できるよう早めに生活の糧を準備してもらいたいと思う。
私の場合は「泥縄」になってしまったので大いに反省している。ハッピーリタイアメントからは程遠く、これから先、元気で働けるうちは働くことになるだろう。働くことは嫌いではないが、できることなら好きな仕事で稼ぎたいものである。
【参考資料】
日本年金機構HP |
加給年金額と振替加算|日本年金機構 |
厚生労働省HP 公的年金 | 厚生労働省 (mhlw.go.jp) |
ゆうちょ銀行HP |
マネーフォワード クラウド給与HP |
保険市場HP |
国税庁 高齢者と税 |
国税庁 タックスアンサー(よくある税の質問)より No.2260 所得税の税率 |
東京都主税局 個人住民税 |