はじめに
孫子の兵法【そんしのへいほう】で有名な『孫子』は、紀元前500年頃、春秋戦国時代の古代中国で執筆された書物とされ、戦の際の心得や戦術などが記されている。著者は、武将で軍事思想家だった孫武【そんぶ】という人物で、諸子百家のひとつ兵家の代表的人物であった(ウィキペディア)。
孫武が呉の国に仕えていた当時の中国は、王朝の基盤に不安定さが続き、油断すれば周辺国が攻められる時代であったので各国は富国強兵の政策をとっていた。そんな時代背景のなかで編纂されたのが『孫子』であった。
『孫子』は、当時の中国で読まれただけでなく、武田信玄やナポレオンなど、国や時代を超えてさまざまな偉人たちの間で読まれたと言われている。そして現代社会においても経営者たちやサラリーマンに役立つビジネス書として読み継がれている。
そんな『孫子』のなかでもっとも有名な言葉として知られているのが、「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」であるかも知れない。相手を知り、自分を知ることができれば、百回戦っても負けることはないだろうという意味である。
ビジネスにおいても、顧客やクライアントのことは勿論知らなければならない。しかし自社についても把握しておかなければ、簡単に足元をすくわれかねないというふうに解釈される。
孫子の兵法が生まれた背景
中国の春秋時代(紀元前770年〜紀元前403年)に書かれたとされる『孫子の兵法』は、戦争の理論と戦術についてまとめられた最古の兵法書として知られている。その背景には、当時の中国が群雄割拠の時代であったことが大きく影響していると言われている。
当時の中国では、各国が領土の拡大や防衛を目指して絶えず争い、効率的な軍事戦略が求められる時代であったとされる。この混乱の中で、兵法家の孫武(孫子)は、勝利のための普遍的な法則や戦略を体系化しようとした。この書物が書かれた当時は、単なる戦術書としてだけでなく、指導者の思考法を洗練させる帝王学の基礎としても重要視されていたという。
このように『孫子の兵法』は、戦場だけでなく、政治や組織運営にまで応用できる普遍的な知恵が含まれているため、現代でも広く支持されている。
孫子の兵法から学ぶべき智惠
上述したように『孫子の兵法』は、戦場だけでなく日常生活やビジネス、組織運営にも応用できるものが多いとされる。その中でも『孫子の兵法』から学べる現代に通じる知恵として、特に役立つポイントは下記のような点であろうか。
- 柔軟性と適応力
- 形を持たないことや流れる水のように障害に応じて形を変えるという教えは、変化の激しい現代社会でも重要
- 常に状況に応じた柔軟な対応が求められる
- 情報の収集と活用
- 「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉にあるように、情報戦の重要性を説いている
- 現代では、マーケット調査やデータ分析がこれに該当
- リーダーシップ
- 指揮官は部下を最大限に活かすことが重要
- 孫子は「将は軍の魂」と述べており、組織運営でのリーダーの役割がどれほど重要かを示している
- 持続可能な戦略
- 長期戦は疲弊を招くとして、効率的かつ資源を無駄にしない計画の重要性を教えている
- これは現代のビジネス戦略や環境問題にも通じる
これらの教えを通して、現代の生活で勝ち負けの判断に限らず、より良い選択をするためのヒントを得ることができる。
柔軟性と適応力
孫子の教えの中で、柔軟性と適応力を象徴する有名な言葉として、「水のように敵に応じて形を変えよ」という考えがある。この教えは、『孫子』第六篇・虚実に由来し、状況に応じて戦略を適切に変化させる重要性を説いている。
実際の表現では「兵は水のごとし。水は地形に従いて流れ、兵は敵に従いて勝つ」という言葉となっている。これにより敵の動きや地形に応じて対応する柔軟さが示されている。
水の流れのように、障害に合わせて形を変え、流れる力を利用するという考え方が、現代の問題解決やリーダーシップにも応用できる普遍的な知恵と言われる所以である。私たちはこの考え方を実生活や仕事にどのように活かせるか考えてみるべきだろう。
情報の収集と活用
『孫子の兵法』における情報の重要性を説く有名な言葉として、「彼を知り己を知れば、百戦して危うからず」がある。この言葉は、敵の動向を深く理解し、同時に自分自身の状況を把握することで、戦いにおいて必ず勝利を得られると説いている。
これは現代にも通じる知恵で、例えば市場調査や競合分析を行いながら、組織や自分の強みを生かす戦略を立てることが求められるという教えでもある。
情報を活用する力がある人は、困難な状況でも道を切り開くことができるとされる。私たちは、この教えを私たち自身の生活や仕事にどう活用できるか、どう応用できるかを考えてみるのも有意義なことであるだろう。
リーダーシップ
リーダーシップに関して孫子が語った中で特に重要なのは、「将は軍の魂である」という考え方である。この言葉は、指揮官の責任がいかに大きいかを示している。リーダーは、部隊の方向性を決めるだけでなく、士気や信頼を維持する役割も果たす。
さらに、『孫子の兵法』では、「巧みな指揮者は戦いを避け、勝利を確実にする」といった戦術的なリーダーシップの重要性も強調されている。
これらの教えは現代にも通じ、組織運営やプロジェクト管理において、成功するリーダーは問題を予測し、リソースを効果的に活用する能力が求められることを教えている。
現代の私たちが考える理想のリーダー像も時代を超えても基本的には変わっていないように私は思う。如何であろうか?
持続可能な戦略
孫子が説く持続可能な戦略に関連する有名な言葉の一つに、「兵久して国利なし」というものがある。これは『孫子の兵法』第2篇・作戦に登場する言葉で、長期的な戦争や無駄な消耗は国家にとって大きな損害をもたらす、という教えとされている。
この考えは現代にも活用でき、リソースを無駄遣いせず、適切に効率的な目標を持つことが大切であると示唆している。時間やエネルギーを適切に管理して、成功のための基盤を築くことの重要性を考えさせられる。
そして、これは現代のSDGs(持続可能な開発目標)に通じる思想でもある。SDGsでは、環境や経済、社会的な資源を無駄にしないで次世代に引き継ぐことが強調されている。
このSDGsは、孫子が語った「長期的な消耗を避ける」戦略の重要性と一致している。例えば、SDGsでは目標12「持続可能な消費と生産パターンを確保する」が挙げられているが、これは効率性を高め、無駄を省くという点で『孫子』の教えに通じる部分がある。
また、リーダーシップや情報の重要性に関する孫子の洞察も、SDGs達成のための意思決定や協力関係構築に役立つ考え方と言えるかも知れない。このように、孫子の言葉(知恵)が現代の課題にどのように適応されているのか、あるいはどの場面で役立つかを考えるのはとても興味深いことである。
あとがき
孫子の兵法を学び、それをビジネスや処世術に役立てることは、リベラルアーツの学びの実践として非常に有意義であると思う。
リベラルアーツは、幅広い知識の習得だけでなく、それを日常生活や実践に活かすための思考力を育む学問である。孫子の兵法は、その戦略や戦術の知識が現代でも多くの場面で応用可能なため、リベラルアーツの理念にピッタリと合致するはずである。
例えば、孫子の兵法にある「知己知彼、百戦不殆(己を知り、相手を知れば、百戦して危うからず)」という思想は、自己分析や競合分析に通じ、現代のマーケティングや交渉術に活用できる。また、「兵は詭道なり(戦争とは策略である)」という原則は、クリエイティブな問題解決や革新的なビジネスアプローチを導く力になる。これらの戦略的な視点を学ぶことで、より賢く、柔軟に物事を捉え、行動するスキルを養えると思う。
さらに、孫子の兵法は単なる戦術書ではなく、人間心理やリーダーシップについて深い洞察を与える書でもある。これは、人間関係の構築や社会的な振る舞いにおいても役立つ学びである。そのため、孫子の兵法を学ぶことは、リベラルアーツの実践として、自身の人生やキャリアをより豊かにする道しるべになると確信している。