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スパツーリズムとしての由布院温泉の魅力と九酔渓・耶馬渓への旅

はじめに

由布院温泉は、大分県のほぼ中央部に位置する人気の温泉地である。四季折々の自然の風景が旅の心を和ませてくれ、特に、秋から冬にかけて朝霧に包まれる風景は幻想的であるという。

由布院温泉の所在地(地名)は、元々は「由布院町」だったらしいが、昭和30年(1955年)に湯平村と合併した際に、両方の地名を取り入れて「湯布院町」という地名が誕生したという。そして平成17年(2005年)に近隣の挾間町や庄内町と合併して「由布市」が誕生したため「湯布院町」という町名は消滅した。しかし、地名は残されている。つまり由布院温泉の所在地は、由布市湯布院町となっている。

由布院温泉は、豊後富士と呼ばれる標高1,583mの由布岳(活火山)の山麓にあって、湧出量(49トン/分)・源泉数(853)共に全国第2位を誇る。豊富な湯量と周辺の美しい自然を兼ね備えていることから、国民保養温泉地にも指定されている。

由布院温泉からの由布岳の眺望(撮影:私の妻)

大半の旅館には露天風呂が完備されていて、日帰りの温泉施設も多数ある。由布院では一般家庭でも温泉が利用できるほどに湯量が豊富らしい。本稿ではそれらを詳しくみていきたいと思う。


<目次>
はじめに
由布院温泉
  • 人気の理由
  • 泉質
  • シンボル【金鱗湖】
  • 金鱗湖のほとりの古社【天祖神社】
  • メインストリート【湯の坪街道】
九酔渓
  • 峠の展望台
  • 九重”夢”大吊橋
耶馬渓
  • 深耶馬渓
  • 本耶馬溪
  • 奥耶馬渓
あとがき

由布院温泉

由布院温泉・人気の理由

由布院温泉は、温泉地としての歴史はそれほど古くなく、人気の温泉地として知られるようになったのは昭和が終わり、平成になってからだと言われている。

由布院温泉は、元々は別府湾一帯に点在する別府十湯の一つに数えられていたという。しかし明治末期から大正にかけて行われた区画整理の一環で由布院温泉と塚原温泉が別府十湯から除かれ、別府湾に近い地域にある温泉のみが別府八湯と呼ばれるようになった。

別府十湯から除外された由布院温泉と塚原温泉は、別府の奥座敷として親しまれていたが、別府のような歓楽街や大型ホテルが進出してくることはなかったらしい。約40年ほど前まで由布院温泉は小さな旅館が十数軒建つだけの温泉街であったらしい。

由布院温泉(撮影:私の妻)

しかし、そのことが逆に由布院温泉を人気の温泉街へと引き上げる原動力となったというから面白い。逆転の発想で、飲み屋街もネオンもなく、自然豊かで静かな温泉街として、ファミリー層や女性客からの支持を集め、人気の温泉街へと成長したという。

現在の由布院温泉には、若いアーティストのギャラリーを集めた個性的な美術館、お洒落で個性的なショップやレストランが散在し、そこには昔ながらの温泉地という趣はない。そのことが、特に女性に人気を博し、彼女たちが憧れる温泉地になっている。

由布院温泉は、旅行雑誌などによる人気温泉地ランキングでも常に上位に入り、リピート率も高いという。

由布院には、旅館、食事処や土産物屋が多数軒を連ねて、多くの観光客で賑わっているが、その近くには800年以上の歴史を有する湯平がある。そこでは今なお静かな時間が流れている。さらには近隣の塚原高原では、大自然に囲まれた草原の中に工房やレストランが点在する。

このようにそれぞれ違った雰囲気を有する由布院の温泉地が、休暇と保養を求める人々にとって魅力的なものとなっているのかも知れない。

現在の由布院温泉における宿泊施設数は約150軒ほどで、温泉地全体としての収容人数は約7,400人弱の規模になっているから当初から比べると大きく発展している。

由布院温泉(撮影:私の妻)

将来の保養地は、休暇プラス保養という性格をより強めていくと推測されるので、保養地の絶対的条件は静けさ、緑(自然)、空間(パーソナルスペース)であることに間違いはなさそうだ。

国民保養温泉地に指定されている由布院温泉が今後も「静けさ」や「自然」を保てるかどうかが今後も保養地として発展し続ける試金石になるに違いない。エコツーリズムが国民生活に浸透していく近未来のためにも由布院温泉が今後も発展し続けていくことを期待したい。

名 称由布院温泉
所在地大分県由布市湯布院町
Link由布院温泉 観光協会

由布院温泉の泉質

由布院温泉の泉質は単純温泉である。単純温泉の多くは、無色無臭刺激が少ない泉質である。

単純温泉とは、炭酸水素ナトリウムなどをはじめとする溶存成分(ガス成分を除く)が1kg当たり1,000mg未満で、泉温は25℃以上の温泉のことをいう。(引用:環境省「温泉法」)

尚、単純温泉の中でもpH8.5以上の温泉は、「アルカリ性単純温泉」に分類され、肌の角質をとってなめらかにする「美肌の湯」となる。

由布院温泉(撮影:私の妻)

由布院温泉の源泉温度は41~98℃である。単純温泉は、刺激がマイルドなので、高齢者や病弱者・子供・妊婦まで安心して浸かれる。また、単純温泉を飲用する場合にも、胃の粘膜に与える刺激は弱いとされている。

そのため、疾患や疾病を持っている人が初めて温泉療養を行う場合は、単純温泉が推奨されている。単純温泉の効用としては、一般的には下記のようなものがある(環境省)。

  • 自律神経不安定症(浴用)
  • 不眠症(浴用)
  • うつ状態(浴用)
  • 慢性胃腸病(飲用)
  • 関節痛(飲用)
  • 慢性便秘(飲用)
  • リューマチ(飲用)

由布院温泉の適応症

由布院温泉の効用(適応症)としては、下記のような疾病や障害に効用があると記されている。

自律神経不安定症不眠症うつ状態
筋肉、関節の痛み筋肉のこわばり軽い喘息・肺気腫
痔の痛み冷え性末梢循環障害
胃腸機能の低下軽症高血圧ストレスによる諸症状
耐糖能異常軽い高脂血症病後回復期
疲労回復健康増進
由布院温泉の適応症

疲労回復・ストレス解消

入浴時の浮力作用でお湯の中では体が軽くなり、筋肉の緊張がほぐれ心身ともにリラックスする。そのため、疲労回復に繋がりストレスが軽減する。まったくそのとおりであり、温泉好きの私が温泉に求めるものが正しくこれである。


由布院温泉のシンボル
【金鱗湖】

由布院温泉のシンボル的存在と言えば、金鱗湖【きんりんこ】ではないだろうか。

由布院温泉・早朝の金鱗湖(撮影:私の妻)

実は、私は由布院の温泉自体にも勿論、関心があったが、金鱗湖の湖面から立ち上るという朝霧の写真が撮りたくて連泊をした経験がある。そのときは11月とは言え、気温が高くて朝霧を見ることができなかった。非常に残念であった。

由布院温泉・早朝の金鱗湖
(撮影:私の妻)
由布院温泉・早朝の金鱗湖
(撮影:私の妻)

その金鱗湖は、面積は約0.8ha、水深2mほどの池のような天然湖沼である。湖底からは温泉と清水が湧き出していると言われている。そのため水は常に清らかな流れを保ち、温度が比較的高めであるらしい。だからこそ秋から冬場の朝方に、気温が下がると湖面から霧が立ち上って幻想的な風景を作り出すのだろう。

由布院温泉・早朝の金鱗湖
(撮影:私の妻)
由布院温泉・早朝の金鱗湖
(撮影:私の妻)

金鱗湖の周囲はおよそ400mくらいなので、私のように早起きをして散歩がてらに一周する人もいる。

由布院温泉金鱗湖

湖畔に建つ建物や樹木が湖面に映り込む写真を撮影するのも楽しいものである。風が吹き、湖面に波が立つ日は難しい。

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由布院温泉金鱗湖
名 称金鱗湖
所在地大分県由布市湯布院町川上1561-1
Link金鱗湖 | 大分県の観光情報公式サイト

金鱗湖のほとりの古社
【天祖神社】

天祖神社【てんそじんじゃ】は、金鱗湖の湖畔に鎮座している。池の中に建つ鳥居と大きな杉の木(御神木)が目印になっている。この神社は、ヤマトタケルの父、景行天皇の時代に創建されたと伝えられているから、非常に歴史が古い。

天祖神社・手水舎【てみずや】
(撮影:私の妻)
天祖神社・鳥居(撮影:私の妻)

天祖神社の御祭神は下記の4柱である。

  • 天之御中主神【あめのみなかぬしのかみ】(天祖神)
  • 素盞鳴男命【たけはやすさのおのみこと】
  • 軻遇突智命【ひのかぐつちのみこと】
  • 事代主命【ことしろぬしのみこと】

大昔から伝わる伝説によれば、この地にあった大きな湖から水が流れ出て盆地となった際、湖底に棲んでいた一匹の龍が住処を失い神通力を無くして困り果てていた。この地に辿り着いた龍は、天祖神に湖全部とは言わないが安住の地を少しばかり与えてほしいと懇願したそうな。天祖神は、龍の願いを聞き入れて「岳本の池」を残した。龍は、その池で神通力を取り戻し昇天したという。その残された池が現在の金鱗湖であると言われている。

名 称天祖神社
所在地大分県由布市湯布院町川上
Link天祖神社・金鱗湖 | 龍神伝説アーカイブス

由布院のメインストリート
【湯の坪街道】

由布院のメインストリートと呼ばれる「湯の坪街道」には、洒落たスイーツショップやレストラン、工芸品を販売する土産物店や小さなギャラリーなどが所狭しとずらりと建ち並んでいる。

由布院のメインストリート【湯の坪街道】

そこは歓楽街と呼ぶような雰囲気ではなく、どこか宿場町といった風情がある。一見ひなびたような昔ながらの風情を持ち続けながらも、活気と温かみのある不思議な街並みとなっている。

由布院・湯の坪街道(撮影:私の妻)

この街並みこそが由布院の人気の理由の一つであるという。確かに通りは多くの老若男女の観光客で賑わい、活気がある。食べ歩きや買い物をしながら通りをぶらぶら散策するのに恰好の場所、つまり、歩いて楽しい街といえよう。ゆったりした休暇を過ごしてもらいたい。

名 称湯の坪街道
所在地大分県由布市湯布院町川上湯の坪
Link湯の坪街道 | 大分県の観光情報公式サイト

九酔渓

九酔渓【きゅうすいけい】は、大分県玖珠郡九重町にある渓谷であり、渓谷美が見事なことから大分県の名勝に指定されている。

九酔渓峠の展望台からの眺望
(撮影:私の妻)
九酔渓峠の展望台からの眺望
(撮影:私の妻)

高低差は約200メートルに上るV字谷で、両岸約2kmに渡って断崖絶壁が続く。斜面一面をカエデやブナの落葉樹が覆い尽くし、九州地方有数の紅葉の名所としても知られる。

九酔渓九重”夢”大吊橋からの眺望(撮影:私の妻)

大分県には滝が多いが、九酔渓にも震動の滝という名瀑がある。滝の景観が美しい渓谷として知られているのも九酔渓である。

九酔渓震動の滝(撮影:私の妻)
九酔渓震動の滝(撮影:私の妻)
九酔渓女滝(左側)よ震動の滝、別名、男滝(右側奥)(撮影:私の妻)

見頃を迎える11月上旬になると、多くの観光客で賑わう。峠の展望台のほか、2006年に完成した九重”夢”大吊橋からもこの渓谷の景色を望むことができる。

九酔渓九重”夢”大吊橋(対岸の展望所からの眺望)(撮影:私の妻)

九重”夢”大吊橋は、高さ173m、長さ390mの日本一の歩道専用吊橋で、観光スポットとして人気が高い。妻もテンションが上がっていたようだが、高い所が苦手な私は意気消沈ぎみであった。

九酔渓九重”夢”大吊橋(撮影:私の妻)
名 称九重”夢”大吊橋
所在地大分県玖珠郡九重町大字田野1208番地
Link九重“夢”大吊橋公式サイト

耶馬渓

耶馬渓【やばけい】は、大分県中津市にある山国川の上・中流域及びその支流域を中心とした渓谷であり、耶馬日田英彦山国定公園に含まれている。

新生代第四紀の火山活動によって生成された凝灰岩や凝灰角礫岩の熔岩台地が侵食されてできた奇岩の連なる絶景が見事であり、名勝に指定されている。

耶馬渓は、いくつかのエリアに分かれており、中でも特に有名なのは深耶馬渓【しんやばけい】、本耶馬渓【ほんやばけい】および奥耶馬渓【おくやばけい】である。


深耶馬渓

深耶馬渓一目八景(撮影:私の妻)

深耶馬渓は、山国川支流山移川支流に位置する渓谷で、一目八景が有名である。

深耶馬渓一目八景(撮影:私の妻)

一度に海望嶺、仙人ヶ岩、嘯猿山、夫婦岩、群猿山、烏帽子岩、雄鹿長尾嶺、鷲の巣山の8つの景色が眺望できることから名付けられたという。

深耶馬渓一目八景(撮影:私の妻)

耶馬渓と言えば、通常、深耶馬渓を指すことが多い。

名 称深耶馬渓一目八景
所在地大分県中津市耶馬溪町大字深耶馬3152
Link一目八景 | 中津耶馬渓観光協会

本耶馬渓

本耶馬渓は、山国川上流一帯の渓谷を指し、青の洞門競秀峰で有名である。

本耶馬渓競秀峰(撮影:私の妻)

青の洞門は羅漢寺の禅海和尚が、参拝客が難所を渡る際に命を落とさないよう、ノミ一本で掘り抜いた洞門(トンネル)である。菊池寛がこの話をモデルに『恩讐の彼方に』を上梓したことで、全国にその名を知られることになった。

本耶馬渓青の洞門(撮影:私の妻)
本耶馬渓青の洞門(撮影:私の妻)

現在は車道拡幅工事により当時の痕跡は歩行者用通路の一部にノミの痕跡が認められる程度となっている。目立たないが、隧道を通らずに難所であった崖側を通るルートが今も残っており、険しい場所ではあるが鎖などを伝って通ることができる。

本耶馬渓青の洞門(撮影:私の妻)
本耶馬渓青の洞門(撮影:私の妻)

青の洞門より500mほど下流には、日本最長(全長116m)の石造アーチ橋として知られる耶馬渓橋がある。

本耶馬渓耶馬渓橋(撮影:私の妻)
名 称本耶馬渓青の洞門
所在地大分県中津市本耶馬渓町曽木
Link青の洞門 | 中津耶馬渓観光協会

奥耶馬渓

奥耶馬渓猿飛千壺峡

奥耶馬渓は、山国川上流に位置する。猿飛千壺峡で有名である。耶馬渓猿飛の甌穴群は天然記念物に指定されている。

奥耶馬渓猿飛千壺峡(撮影:私の妻)
奥耶馬渓猿飛千壺峡(撮影:私の妻)
奥耶馬渓猿飛千壺峡(撮影:私の妻)
奥耶馬渓猿飛千壺峡(撮影:私の妻)
名 称奥耶馬渓猿飛千壺峡
所在地大分県中津市山国町草本
Link猿飛千壺峡 | 中津耶馬渓観光協会

あとがき

温泉好きにもよく知られている由布院温泉は、一度は行ってみたいと思っていたが、どこか敷居が高いような気がして自分の中で勝手に敬遠していたところがある。人気のある所は必然的に人が集まるものなのに、基本的に人が多く集まる所が苦手な性格が矛盾した行動をとっていたのかも知れない。

由布院温泉は海外からの観光客にも人気で、中国からの観光客も増えていた。そんな中、コロナ禍で海外からの観光客が全く途絶えた時を姑息にも窺っていたかのようにして行ったの由布院温泉である。

率直に言って、もっと早くに来ておくべき温泉地であったと思った。コロナ禍で観光客が比較的少なかったことにも多少は影響を受けているのだろうが期待したとおりの静寂と自然豊かな風景が相まって転地効果マックスの温泉地であった。

こじんまりとした温泉宿の、「おもてなし」の手本のような応対に感激し、源泉かけ流しのお湯は言うに及ばず、絶品揃いの食事に舌鼓を打っては、非日常的な贅沢な時間を過ごすことができたのはスパツーリズムの極みと言えよう。

由布院温泉を起点に、アクセスが容易な九酔渓はもちろんのこと、遠くは耶馬渓にまで足を延ばした旅は忘れられない記憶として私の脳裏に残る。


【参考資料】
由布院温泉 観光協会
九重“夢”大吊橋公式サイト
中津耶馬渓観光協会