はじめに
ススキは、イネ科ススキ属の植物で、俳句などではその形態から尾花とも呼ばれている。茅葺(萱葺)【かやぶき】の屋根の材料にも使用される有用植物ではある。
しかし、個人の庭に生えられては非常に困る多年性草本である。個人の庭にススキが茂っていたら、それは管理を放棄した庭に等しい。
ススキは野原で自然のままに生息すべき植物である。ススキの穂は高原の野原で眺めたい。
秋の夕暮れ時、夕日に輝くススキの穂が靡く【なびく】光景は秋の風物詩の一つと言えるだろう。
ススキは、8~9月頃に開花して、10~11月頃に穂がふわふわとした銀色の綿毛に変わり、やがて茎が枯れて全体が金色に色づき始める。この頃がススキを観賞するベストシーズンとなる。
本来、雑草の一種でしかないススキの群生が創り出すこの上ない美しさは、古の昔から人々の心を魅了してきた。特に夕暮れ時の幻想的な雰囲気は、言葉ではなかなか表現できない。
その言葉にできない絶景を写真でならば少しはできるかも知れないと思い、その絶景を求めてススキが群生する高原を訪ねた。
ススキの種類
ススキは、高原、草原、道端、空き地など至る所で目にすることができる。頑丈な根を周囲に伸ばし、多数の茎が群がって大きな株となる。日当たりのよい場所に群生して草原の主要構成種となっている。
ススキの穂は15cm程度の長さで、銀色に光る毛は芒【のぎ】と呼ばれ、これが風に乗ってタネを遠くに運んでいく。
ススキは秋を象徴する植物として日本文化の中では重要な役割を果たして来た。例えば、十五夜の飾り、花鳥画や、蒔絵などの秋草紋様などである。
また、ススキはかつて家屋の屋根をふく材料としても重要であった時代があり、人里近くには必ず萱場【かやば】と呼ばれるススキを採集するための場所があったという。
ススキの葉の縁は鋭く、触ったまま手を動かすと皮膚を切ってしまうことがある。
また、花粉症のアレルゲン植物の一つでもあるので、イネ科植物にアレルギーをもち、症状が出る人は秋は要注意である。
私たちがよく見かけるススキは、シマススキ、イトススキおよびタカハノススキの3種類である。
シマススキ
草丈は100〜200cmほどでススキの中では最も背が高く、葉に縦の白い斑が入っているのが特徴である。
非常に強健な性質である。真夏の暑さや強い日差しでも縞斑は焼けず、きれいに保たれる。
ススキが群生する高原で最も見応えのする種類と言えよう。私が写真に撮るのはこのシマススキであることが多い。
イトススキ
草丈は80cmほどの小ぶりなススキで、葉の幅が5mm程度しかなく非常に細いのが特徴的である。
葉が立ち上がって株幅があまり広がらないススキである。葉に白い斑が入る品種もあるという。
タカハノススキ
草丈はかなり小ぶりで50〜80cm程度のススキである。細い葉に縦の白い斑が入るのが特徴である。
ススキが群生する名所
青山高原【三重県】
青山高原は、津市と伊賀市の境にある笠取山から南北約15kmに渡って広がる高原である。標高756mにある三角点は、伊勢湾を一望できる絶景スポットとなっている。
また、山頂付近は風力発電基地にもなっていて、89基の風車が建ち並ぶ様子は迫力満点である。何十年ぶりかで青山高原を訪ねて、風車の数が増えていることに率直に驚いた。ススキの群生地の数よりも風車の数の方が多いのではないかと思う。
青山高原公園線と東海自然遊歩道が整備されているのでアクセスも良く、春はアセビやツツジの群生、秋はススキの白い穂が風に揺れてハイキングを楽しむには最適の場所である。
特に、9月下旬~10月下旬頃はススキの穂と迫力満点の風車とを一緒に写真に収められるのが嬉しい。遊歩道をゆっくりと散策するもよいし、ベストアングルを探して高原を歩き回るのもよい。
青山高原は、星空が綺麗に見れる場所としても知られている。
名 称 | 青山高原三角点駐車場 |
所在地 | 三重県伊賀市勝地1852-63 |
Link | 青山高原|津市観光協会公式サイト レッ津ゴー旅ガイド 青山高原|観る・体験する|津市観光協会公式サイト 青山高原〜風わたる南伊賀〜 – 青山観光振興会・青山高原周辺の施設と観光 |
曽爾高原【奈良県】
曽爾高原【そにこうげん】は、奈良県東北端の曽爾村に位置し、日本三百名山の一つ倶留尊山【くろそやま】(標高1,037m)の麓に広がる約40haの草原である。
亀山峠からの眺望を求めて曽爾高原を春から秋にかけてハイキングを楽しむ人が多い。
曽爾高原は、亀池の周辺を中心にススキの群生地であり、関西有数のススキの名所として知られる。
特に夕暮れ時のススキが美しいことでも有名である。
ススキが見頃となる10~11月の夕暮れ時に夕陽を浴びて黄金色に輝くススキは、確かに一度見ると忘れられない美しさである。
この景色を一目観ようと全国各地から多くの観光客が訪れる。
名 称 | 曽爾高原 |
所在地 | 奈良県宇陀郡曽爾村太良路 |
Link | 奈良県曽爾村 -ぬるべの郷- 曽爾村・曽爾高原の温泉「お亀の湯」 |
葛城高原【奈良県】
葛城高原【かつらぎこうげん】は、奈良県と大阪府の県境に位置する大和葛城山(標高959m)の山頂付近に広がる高原である。
葛城高原・山頂からは大和盆地や大阪平野を一望できる。
葛城高原は、ツツジの大群落(見頃は5月)で知られているが、ススキの大群生もあるので10月中旬~下旬頃に見頃を迎えるススキの穂の美しさを楽しめる。
ススキの穂の美しさは天候にかなり影響されるが、陽光を浴びて銀色に輝くススキの穂は本当に美しい。筆舌に尽くしがたい。
ススキの穂は日中と夕暮れ時では全く違った表情を見せる。
葛城山ロープウェイの運行は午後5時が最終発であるので日没時の夕陽に輝くを黄金色のススキの穂を観ることができないのは残念である。
名 称 | 葛城高原 |
所在地 | 奈良県御所市櫛羅 |
Link | 葛城高原|[公式サイト] あをによし なら旅ネット |
生石高原【和歌山県】
生石高原【おいしこうげん】は、有田川町と紀美野町の境にある生石ヶ峰(標高870m)の山頂付近に広がっている草原である。
晴天の日の生石ヶ峰山頂からの360度の眺望は大変素晴らしく、和泉山脈や淡路島などを望むことができる。
生石高原は、四季折々の草花に彩られ、特に秋はススキの名所として有名である。
生石高原のなだらかな山肌にはススキの群落が大海原のように広がり、その光景は関西随一と言われる。
ススキは、9月中旬から開花し始め、9月下旬から10月下旬頃にかけては綿毛をつけた銀色のススキが広がる。
夕日で金色に染まって見えるススキの群落の美しい光景は筆舌では語れない。
山の斜面にせり出した「火上げ岩」は大人気の撮影スポットであり、インスタ映え抜群とSNSで話題になっている場所でもある。
高所が苦手な私には絶対に立てない場所でもある。写真を撮るだけでもハラハラドキドキで心拍数が高まっているのが分かる。
ススキの穂を観に来るのは私のようなシニアだけかと思っていたら結構若者のカップルも多かった。中にはメモリアルフォトを撮影するカップルも複数いたのには正直驚いた。昭和の時代の古い価値観で若者を判断してはいけないという証左だろう。
名 称 | 生石高原 |
所在地 | 和歌山県海草郡紀美野町中田899-29 和歌山県有田郡有田川町生石 |
Link | きみのめぐりコンシェルジュ@紀美野町観光協会 ホーム/有田川町 |
砥峰高原【兵庫県】
砥峰高原【とのみねこうげん】は、兵庫県のほぼ中央に位置する神河町にある高原で、ススキの群生地として知られている。
高原の広さは約90haで、西日本有数のスケールを誇る。
砥峰高原は、映画「ノルウェイの森」や「燃えよ剣」、大河ドラマ「平清盛」や「軍師官兵衛」のロケ地に使用されたことでも有名である。
9月下旬~11月上旬頃にはススキの穂が眼前に広がり、圧巻の風景を楽しむことができる。天候が良ければもっと綺麗であろう。
名 称 | 砥峰高原 |
所在地 | 兵庫県神崎郡神河町川上801 |
Link | 砥峰高原 | 兵庫県神河町公式観光サイト |
上山高原【兵庫県】
上山高原は、鳥取との県境にある扇ノ山山麓に広がるススキの名所である。見頃は例年、9月中旬~10月下旬頃とされている。
上山三角点(標高943m)直下の登山口のすぐ手前の駐車場まで、ススキの群生地の間につけられた道をドライブできる。
道が狭いので対向車があると大変であるが、車窓からのススキもよい眺めである。
対向車を気にしなくてもよい助手席が勿論、特等席である。
上山三角点の付近にはススキの群落はほとんどない。しかし山頂から眺める景色は良いので、天候が良ければ登ってみることをお勧めしたい。ゆっくり登っても所要時間は20分ほどで、スニーカーでも楽に登れる。
上山三角点のある場所は開けていて葛の木で組まれたちょっと風変わりな展望台があり、そこからの360度の景色も爽快である。
上山高原には滝が多く存在しているようで、滝を観るための登山道がいくつも整備されている。しかし登山装備、特に登山靴が必要である。登山道には鎖場などがあり、スニーカーでは危険な道のようである。残念ながら滝を観に行くのは別の機会にするしかなかった。
名 称 | 上山高原 |
所在地 | 兵庫県美方郡新温泉町海上 |
Link | 上山高原エコミュージアム(扇ノ山山麓) |
あとがき
ススキの穂は秋の風物詩とも言えるものであるが、リタイアしてシニア生活を過ごすようになるまでは、率直に言ってあまり興味はなかった。ススキは雑草であり、晩秋の「枯れすすき」のイメージの方が強く、艶やかなイロハモミジの紅葉とは比較にならないと思っていた。だから現役時代は休暇を取ってまでススキの穂を観に行くことなど考えたこともなかった。
ところが、自分自身が「枯れすすき」のような状況になったからかも知れないがススキの穂を観たくなった。実はススキの穂の写真の出来映えは陽光の影響をかなり受ける。陽光が当たるとススキの穂は銀色に輝き、実に綺麗である。また夕陽に当たれば黄金色に輝く。実に魅力的な被写体である。
ススキの穂が魅力的な被写体であることが分かるとススキの群生地として知られるいろいろな場所に行ってみたくなった。比較的遠方の場所にも毎週のように積極的に出かけており、気がつけば1カ月余りの間に訪れた場所は6ヶ所を数えていた。
毎日が日曜日のような身とは言え、出不精の私がこれほどフットワークが良いわけがない。私の車には本来のエンジンとは別に、妻というハイパワーの無双エンジンが搭載されているからだ。
訪れた場所はいずれも魅力的で甲乙をつけがたい。写真の出来映えは陽光の違いによるもの、つまり天候の影響であって、ススキや群生地の立地に責任はない。来年も好天の日に出かけて行きたいものだと写真を眺めながらアングルの構想を練っている。