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愛用すると分かる信楽焼製植木鉢の実用性とデザイン性を兼ねた魅力

はじめに

信楽焼といえば狸の置物で有名であるが、壺や皿などの美術品の他、ガーデンテーブルセットや傘立て、睡蓮鉢・めだか鉢、花瓶、食器などあらゆる種類の製品が製造されている。

私は、信楽焼のたぬきの置物の他にガーデンテーブルセットと傘立て、それにコーヒーカップセットなどをかつて購入したことがあるが、最近は信楽焼の植木鉢にはまっている。

特に、「信楽ブルー」の海鼠釉【なまこゆう】の植木鉢を気に入っており、自宅の庭にある化粧鉢の大半がこれであるといっても過言ではない。

何故この海鼠釉の植木鉢を気に入っているかについて私の思いを本稿で書いてみたいと思う。一見、マニアックにみえないこともないが、ガーデニングを趣味とされているシニアの方にはきっと賛同して頂けるものと確信している。


<目次>
はじめに
海鼠釉植木鉢の誕生の歴史
美しい「信楽ブルー
海鼠釉植木鉢の形状
海鼠釉植木鉢の使用例
  • 南天の鉢植え
  • コハウチワカエデの鉢植え
  • イロハモミジの鉢植え
  • 花梅の鉢植え
実用性
あとがき

海鼠釉植木鉢

誕生の歴史

室町時代後期から江戸時代中頃までの信楽焼は、茶碗や花入れなどのお茶道具が茶人たちの人気を集めていたという。

明治時代になって、お茶道具の製造が落ち着きはじめたのきっかけに、信楽焼の特徴である耐火性を生かして「火鉢」の生産が始まったという。火鉢の生産に伴い、釉薬【ゆうやく】の研究も進んだらしい。

そして火鉢に施されたのが海鼠釉【なまこゆう】と呼ばれる釉薬である。この釉薬を用いて焼いた陶磁器の青色の地肌に現れる流紋や斑紋が青海鼠【あおなまこ】の色の鮮やかなものに似ているところから「海鼠釉」と命名されたという。こうして信楽焼に「青」が登場することになった。

どうして火鉢の色が青色であったかというと、青は水を連想させる色であったからである。火を起こす火鉢であるから、火事などを防ぎたいという願いが込められていたのだろう。

信楽焼の火鉢は昭和30年代まで全国シェアの80%を占めていたとされる。火鉢の出荷増に伴い、青色の信楽焼は認知され、海鼠釉を用いた陶磁器は信楽焼を代表するまでに広まったらしい。つまり、後に「信楽ブルー」と称される海鼠釉を施した信楽焼は火鉢が原点というわけである。

戦後の復興とともに販売不振になった火鉢の代わりに登場したのが「信楽ブルー」の植木鉢であったという。高度成長時代にはこの信楽焼の植木鉢は売れに売れ、信楽焼を代表する焼き物となったらしい。だから信楽焼の植木鉢と言えば、この「信楽ブルー」の植木鉢を指すくらいポピュラーなものである。

しかしながら、安価なプラスチック製の植木鉢の出現によって、この信楽焼の植木鉢もその生産量は見る陰もないぐらいに減っているという。そのため購入も容易ではなくなり、高価になっているのは実に残念なことである。


美しい「信楽ブルー

信楽ブルー」は海鼠釉という釉薬を用いることは先述のとおりであるが、何故その独特の色合いが出るかについては記していなかったので下記に述べる。

海鼠釉は、二重掛けして行う失透釉(表面に光沢ができる不透明な釉薬)で、白濁色を基調とする。下釉の上に類似の釉を上掛けすると、釉薬の流動によって斑文や流文などが現れる。釉薬の主成分は灰釉で、長石にケイ酸分を多量に含有する成分を混ぜて高温度で焼成するという。

尚、現在の焼成方法はガス釜の時代であるので、明治時代に開発された海鼠釉の二度掛けではなく、一度掛けで生産されているようである。だからかも知れないが、青色の地肌に現れる流紋や斑紋が二度掛けに比べるとかなり少なくなっている。両者を並べて比較するとその差は歴然としている。

海鼠釉は、元々は中国の宋の時代に日本に入ってきたものらしいが、海鼠釉で焼いた陶磁器は遊色効果(オパールの宝石などが示す光学効果)を示して美しい青白い呈色が得られることから美術鑑賞用の陶磁器に施されることが多いという。

海鼠釉を用いた日本の陶磁器では、「信楽ブルー」と称されるように信楽焼が最も評価が高い。食器や花瓶は勿論のこと、植木鉢のような大きめの陶器にも「信楽ブルー」の製品がある。


形状

先述のように「信楽ブルー」の海鼠釉植木鉢は、信楽の植木鉢で最もポピュラーな化粧鉢である。

いろいろな大きさや形状のものが生産されているが、なかでもティルトケンガイ鉢と呼ばれる形状の海鼠釉化粧鉢は背丈のある観葉植物用に作られたものであるという。

また、背の低い海鼠釉植木鉢は、花木、実物盆栽や松柏盆栽などにも広く使われていた。


使用例

私が「信楽ブルー」の海鼠釉植木鉢を好んで自宅の庭で使用するのか、その理由はシンプルである。どの植物の鉢植えにも合うからである。

植木鉢の色やデザインは、鉢植えの植物にとって非常に重要である。強いて言えば、鉢植えの植物と植木鉢の関係は料理と食器の関係に似ている。想像してみてほしい。フレンチのお洒落な料理が趣味の悪い柄物の食器で出されたとしたら皆さんはどう感じるか? 粋な和食料理がそれに似合った器で提供された時の私たちのテンションはどうか? 素晴らしい料理にはそれに見合った食器が使用されるように鉢植えの植物にもそれに見合った植木鉢を使用したいと思う。

「信楽ブルー」の海鼠釉植木鉢はどの植物の鉢植えにも合うから不思議である。この植木鉢さえ手元にあれば、植物に合わせて植木鉢を準備する必要がない。無精者の私にはもってこいの植木鉢と言える。

私が「信楽ブルー」の海鼠釉植木鉢をどのような鉢植えに使用しているかを数例紹介したいと思う。


南天の鉢植え

ナンテン(南天)は、「難を転じて、福をなす」の語源から縁起の良い庭木とされている。風水では北東側を指す鬼門の方向に植えるのが良いとされているが、半日陰であればよく育つので玄関近くや庭の隅に植えることが多い。

私も庭木としてナンテンを露地植えにしている。しかしながら、ナンテンは鉢植えにしても良いものである。それは葉が露地植えのものより小ぶりになり、特に秋の紅葉が露地植えのものとは比較にならないほどに綺麗になるからである。ナンテンの葉の色の変化や季節感を楽しむなら鉢植えがお勧めしたいほどである。但し、鉢植えにすると実をつけることは何年かに一度になる。それは多分、植替えをしないまま何年も同じ植木鉢で育てているからかも知れないが、逆に言えば植替えせずとも育つ強靭さがある。


イロハモミジの鉢植え

イロハモミジは、ムクロジ科カエデ属の落葉高木である。自然のままに育つと樹高が15mほどにもなる。いわゆる紅葉山などで見かけるモミジである。庭木の場合は剪定をして庭の広さに合うように樹高も整える必要がある。

私もイロハモミジを露地植えにしているが、その庭木の種が落ちて育った幼木を鉢植えにして育てている。鉢植えにしても秋にはしっかりと紅葉してくれる。最近では、鉢植えの方が気に入っているほどに魅力的である。


花梅の鉢植え

梅の植え付けに適している時期は12月から3月頃である。鉢植えの方法は、8号くらいの鉢を用意し、鉢底石を並べてから用土を入れる。梅は土の種類にこだわらなくても育つが、水はけのよい土を用意する。赤玉土7に対し腐葉土3の割合で混ぜたものがよいだろう。

その後、苗を植え付け、さらに上から土を入れて安定させたら水を与える。鉢の底から流れ出るほどたっぷりとあげよう。鉢は日当たりのよい場所に置き、土の表面が乾いたら水をやり、特に夏場は水を切らさないように注意しよう。


実用性

植木鉢には素材の違うものがあり、その性質を知って使い分けることが重要である。植木鉢の中には木製鉢、コンクリート鉢や金属鉢などもあるが、通常、私たちがよく使用するのはプラスチック鉢素焼き鉢化粧鉢の三種類であろう。

プラスチック鉢は、比較的安価で、軽量で割れにくく、持ち運びしやすいのが大きな利点である。色や形、サイズも豊富に揃っているので、様々な種類の植物に使うことができる。

一方で、素材がプラスチックなので、通気性や透水性はない。乾燥や水切れを嫌う植物を育てるのには良いが、夏場の管理には注意が必要とされている。

素焼き鉢は、粘土を高温で焼いた多孔質の陶器の鉢であり、通気性と排水性に優れており、土が乾きやすいのが特徴である。鉢が空気を通し、余分な水分を排出してくれるので、植物が育てやすい。私は生長を促したい花木の鉢植えにはこの素焼き鉢を使用している。衝撃に弱く、割れやすいという短所もあるが、比較的安価であるのが助かる。

一方で、植物にとって都合(環境)がよい鉢であるので、植え替えのタイミングが悪いと根がびっしりと張ってしまい、鉢を割らなければ取り出せない場合もあるので注意が必要である。デザイン性、つまり見かけが今一つと思われる方には、海外から輸入されているテラコッタ鉢と呼ばれる植木鉢はどうだろうか。

さて、信楽焼の海鼠釉植木鉢のような植木鉢は、素焼き鉢に釉薬をかけて1100~1200℃の高温で焼いた鉢であるので化粧鉢と呼ばれる。綺麗な色と艶やかな表面の質感が特徴で、汚れが付きにくく、デザイン性にも優れている。

一方で、釉薬がかかっているので熱を通しにくいが、通気性や透水性が劣る。逆に保水性があると言える。そのため、水はけの良い用土を使用して調節することがポイントとなる。

私が使用している信楽焼の海鼠釉植木鉢(化粧鉢)は、比較的高価であるものの丈夫で長持ちする。なかには使用後すでに20年以上も経過している鉢もある。十分に元がとれているはずだ。

信楽焼の海鼠釉植木鉢は、美しい上に、とにかく丈夫である。デザイン性に惚れて買ったものの信楽焼でない化粧鉢は10年もしないうちに自然に欠けてしまったことと比較すると大きな違いである。尤も同じ植木鉢を十年以上も使っているのは私くらいかも知れない。しかし、信楽焼の海鼠釉植木鉢には愛着を覚える。だから大事に長く使いたいのである。


あとがき

信楽ブルーの海鼠釉の植木鉢(信楽焼の海鼠釉植木鉢)は、今では私のガーデニング、特に鉢植えには欠かせないアイテムとなっている。しかし、年々入手が困難になってきているのは非常に残念なことである。私のような愛好家が少なく、需要が少ないから供給も減少しているのかも知れない。もっと多くの方が信楽焼の海鼠釉植木鉢に魅力を感じ、購入者が増えれば流通量も増えてくるかも知れない。かつてのように信楽ブルーの海鼠釉の植木鉢がどの店でも購入できる日が再び到来することを願っている。


【参考資料】
信楽焼とは? | 信楽陶器工業協同組合
窯元情報 | 信楽焼窯元 山文製陶所