はじめに
マツ(松)は、常緑樹であり、一年中葉が青いため「永遠の命」の象徴とされているらしい。さらに寿命の長さと堅牢な幹の姿から「庭木の王様」と呼ばれることもある。門松で知られるようにマツは古来より縁起の良い木とされ、人々に愛されてきた。
しかしながら、庭木の剪定の中でもマツの剪定は特に難しいと言われている。素人には厄介な作業が多いからである。私の自宅の庭にはマツの中でも比較的手入れが容易なゴヨウマツ(五葉松)が一本だけ植えてある。今まで自分では全く手入れをしてこなかったがリタイアを機に自分でも手入れをしてみようと思う。
一方、義母の自宅の庭にもクロマツとゴヨウマツが植えられている。他界した義父が大事に育ててきたものである。長年手入れをしてくれていた庭師さんも亡くなり、最近ではマツの剪定を依頼できる庭師を探すのも苦労する時代となった。なんとか趣味の一環として私にもマツの剪定ができるようにならないかと考えたわけである。
私の趣味の一つはガーデニングであり、私にとってガーデニングの醍醐味は庭木の剪定である。庭の雑草取りより何倍も楽しい。しかしながら、庭木の中でマツの剪定は私にとっては非常にハードルが高いものであった。その理由は、マツの剪定は一種のアートのようなもので、技術的な剪定方法が他の庭木とは全く異なるものであるからだ。
細かい枝の選別や剪定の仕方は、経験が求められるためである。庭師さんに庭木の剪定を頼んだ場合でも、マツを担当するのはベテランの庭師さんであって、経験の浅い庭師さんは他の庭木を担当するのが常である。マツの剪定は、他の庭木よりも技術と時間を要するため、シルバー人材センターに依頼するようなことはなく、腕の良い庭師さんに依頼する必要がある。当然ながら、費用も高くなるが、腕の良い庭師さんがリスペクトされる理由がここにある。
ガーデニングを趣味にする者の一人としてクロマツの剪定にチャレンジしてみることは、次のステージに登るような高揚感を感じさせてくれる。勿論、実際に剪定ができるようにならなければ、単なる妄想でしかない。初めての剪定でも楽しめるよう確実なステップを踏んでクロマツの剪定にチャレンジしてみたい。
素人がいきなりマツの剪定するのはハードルが高いので、書籍やネットで基礎を学び、分からないところは知り合いの庭師さんに相談し、自分の庭のマツで少し練習をした上で近い将来には義母の庭のマツにもチャレンジしたいと思う。
前述したようにクロマツの剪定はアートのようなものである。初心者の私たちには最初からうまくできなくても気にせず、時間をかけて、楽しみながら取り組んでいくことが大切である。そして成功したときの達成感は格別であることを胸に秘めておく。初心者の私がクロマツの剪定にチャレンジするプロセスについてときおりUpdateしながら本稿を記したいと思う。
本稿が私のようにはじめてマツの剪定にチャレンジしようとする読者の参考に少しでも役立つのであれば嬉しいかぎりである。
<目次> はじめに クロマツ(黒松) 剪定の目的 マツの剪定時期 全体を観察 基本の形を保つ マツの剪定の基本 みどり摘み 透かし剪定 もみあげ マツの剪定が難しい理由 剪定に必要な道具のの準備 【実践】クロマツの剪定 クロマツの剪定のポイント クロマツの剪定でよくある失敗例 クロマツの剪定の実施例 マツの剪定の仕上げ確認 あとがき |
クロマツ(黒松)
マツ科マツ属の常緑低木であるクロマツ(黒松)の原産地は日本であり、襖絵などにも描かれ古来から日本人に愛されてきた。クロマツは寺社仏閣の境内で多く植栽されている他、防風林や防砂林として海岸にも植栽されている。
海岸林(防風林・防潮林 ・防砂林 )は、海からの風や潮、津波や高波、飛んでくる砂などから海沿いの暮らしを守るために植林された森林である。
クロマツの最大の特徴は塩害の厳しい海岸でも育つ強健な性質である。養分の少ない海岸の土壌でも大きく育ち、森林をつくることのできる木はクロマツのほかにはないという。
クロマツは基本的には日当たりを好むが、半日陰や日陰といった環境にも適応する。さらにクロマツは非常に丈夫で寿命も長い。長年育てると力強い幹立ちと緑葉の美しさのコントラストを楽しめるために盆栽にも適している。そのためクロマツは盆栽の代表格とも称されている。
剪定の目的
庭木を剪定する目的には複数あり、主な目的は下記のようなものである。
- 見た目を美しくして鑑賞を楽しむ
- 樹木の健康を保つ
- 病気や害虫による被害から守る
特に、「透かし剪定」と「もみあげ」と呼ばれる秋の剪定を行う目的は大きく分けて2つある。それは「見た目の美しさ」と「害虫予防」である。
下記の葉や枝を取り除くとマツは非常に美しい樹形を見せる。
- 去年の古い葉
- 今年の葉の一部
- 枯葉
- 枯れ枝
- 不要枝
これらの古い葉や枯れ枝を取り除くことで毛虫などの害虫が身を隠す場所がなくなり、冬を越すことができなくなる。その結果、春になって毛虫などの害虫が出てくるのを予防することになる。
見た目を美しくして鑑賞を楽しむ
剪定の目的の一つは、見た目を整えて美しく見せることである。綺麗に手入れされた松の木の鑑賞は実に楽しい。特に、松は堅牢な幹と複雑に曲がりながらも整理された枝と特徴ある葉は造形的にも美しく、魅力的であり、観る者の心を捉える。
樹木の健康を保つ
剪定の目的には樹木の健康を保つ役割がある。不要な枝を取り除くことで日当たりを良くしたり、栄養を必要な箇所に集中させることができる。また、大きくなりすぎて、周りの樹木や低木の成長を阻害するのを防止できる。
病気や害虫による被害から守る
樹木を放置していると、不要な枝にも栄養分が使用される。剪定することで、必要な枝に栄養が行き渡り、樹木全体の抵抗力も上がるので病気にかかりずらくなる。
また、樹木を放置すると、枯れ葉や枯れ枝に害虫が繁殖する。剪定をして枝を間引くことで、風通しがよくなり害虫が増えるのを防ぐことができる。
マツの剪定時期
マツの剪定は、基本的に年2回、「春剪定」と「秋剪定」を行う。春剪定は「みどり摘み」とも呼ばれ、剪定時期は4~5月末に行う。一方、秋剪定は「透かし剪定」や「もみあげ」とも呼ばれ、剪定時期は11月頃が最適である。
みどり摘みに適した時期は、地域やその年の気候によって多少変動することがあるが、4~5月末に行うのが一般的である。時期が早すぎると、みどり摘みをしたところから新たに芽がでてきてしまったり、逆に遅すぎると手で折れないので鋏を使うことになり時間がかかる。桜が散ったあとの頃が、一つの目安らしい。
透かし剪定はマツの休眠期である11月以降に行うのが良いとされている。しかし、7〜8月の暑い時期でなければ、いつ剪定をおこなっても特に問題はないらしい。
もみあげの時期はマツが休眠期に入る、11〜2月中旬を目安に行うと良いらしい。休眠期にもみあげを行うことでマツへの負担を最小限にすることができるという。
剪定を行うべき時期を間違えると、成長に悪影響を及ぼすことがあるという。クロマツの剪定は通常、成長期が終わった秋から冬にかけて行うのが良い。特に大阪を中心とする関西では、通常2月~3月がクロマツが休眠状態であるため、剪定のダメージを最小限に抑えることができるはずである。つまり、この時期がクロマツの剪定時期として最も適していると言えるのかも知れない。
全体を観察
クロマツ全体をじっくり観察して、自然な樹形をイメージする。無理に均等にしようとせず、自然な形を目指すのがポイントである。
クロマツの自然な姿は、その独特の美しさから多くの自然愛好家に愛されている。具体的には下記のような特徴がある。
- ピラミッド型の樹形
- 若木の頃は特にピラミッド形に近い形状をしている
- 成長するにつれて枝が広がっていく
- 枝の流れ
- 枝は上向きに伸び、先端が徐々に細くなるのが特徴
- 枝の配置は均等ではなく、自然な不規則さを持つ
- 青緑色の葉
- 葉は針のように細く、青緑色をしている
- 密度は高く、濃い緑色のカーテンのようになる
- 大きな幹
- 成長すると幹が太くなり、力強さと安定感を感じさせる
- 樹皮は縦に割れていることが多い
このような自然な姿を保つためには、剪定では無理に均等にしようとしないことがポイントとなる。自然の形を尊重しながら行うことが大切である。クロマツの魅力を最大限に引き出すための一つのポイントかも知れない。
クロマツは独特の成長パターンがあり、自然な樹形を保つためにはこの特性を十分に理解して剪定する必要がある。
基本の形を保つ
自然な樹形を意識しながら、ピラミッド型に整える。そのためには、下枝を長く、上枝を短くする。つまり、下の枝から上の枝にかけて、少しずつ短くなるように整えれば良い。ピラミッド型を意識すると見た目のバランスが良くなるものである。
クロマツは独特の成長パターンがあり、自然な樹形を保つためにはこの特性を理解して剪定する必要がある。
マツの剪定の基本
遠くから全体を観察してバランスを確認し、最初は大きな剪定を避けて、少しずつ枝を切っていく。木の反応を見ながら進めると失敗が少ない。
細かい枝の選別や剪定の仕方は、経験が求められる。クロマツの剪定において、初心者が最初に躓くポイントである。
マツの剪定は、基本を守り、枯らすことのないようにしたいものである。マツの剪定の基本は、次のようなものである。
- 葉(芽)のあるところで切る
- 複数ある新芽は真ん中の芽をとる
- 剪定は上から下に、奥から手前に向かって行う
マツは葉(芽)のあるところで切らないと枯れてしまう性質がある。したがって、剪定は必ず葉(芽)を残して切るようにする。
枝先に複数の新芽がある場合は、成長の強い真ん中の芽をとるようにする。理由は、成長を抑制してバランスの良い樹形にするためである。例えば3本の芽がある場合は真ん中をとり、あとの2芽をY字に残すことで枝の曲がった美しいマツに仕立てることができる。しかし実際には4~5本の新芽が出ている場合が多いので、成長した後の姿をイメージしながら最も良さそうな2本の新芽を残して他の新芽は摘みとってしまうことになる。
ただ2本にするのではなく、芽の伸びる方向と全体の樹形とを見合わせて行うことが大切であり、それが美しい枝配りに仕立てるコツであるという。
剪定は上から下に向かって行うことで、先に剪定した箇所に後から切った枝が引っかかることを防ぐことができる。さらに、奥から手前に剪定することで、剪定済みの枝に身体や腕が当たって傷付けるのを回避できる。
みどり摘み
春になって新芽が出始めたら、成長をコントロールするために不要な新芽を切り取る。マツの枝先から数本の新芽が出てくるが、この新芽を「みどり」と呼ぶ。このみどりを折って取る作業のことを「みどり摘み」という。
みどり摘みの目的は、マツの樹勢を抑えて均一にすることである。元気な芽を取っていくことでマツの樹勢を抑えることができる。春以降にマツがボサボサにならず、スッキリと見せることができる。
マツの枝先から出ている芽の中で、真ん中の強い芽を手で折る。手で折れない場合は、鋏で切っていく。
みどりは付け根で折るようにする。中途半端なところで折ってしまうと、そこからまた芽が出てしまい樹形が崩れてしまうからである。
最後に残した芽の長さが違う場合は短い方に長さを揃える。このときに、小さな芽は触るとポロッと取れてしまうので触らず、長い方の芽を途中で折ることで長さをそろえる。
透かし剪定
不要な枝を取り除き樹形を整えることを「透かし剪定」と呼ぶ。
透かし剪定で、まずやることは、飛び出している樹勢の強い枝を切ることである。根元に小さな芽があれば残すように切る。
木を上から覗き、下が見えないほど枝が密集している箇所を見つけ、枝を間引く。枝先についている芽の数を1~2芽になるように調整する。枝を透かし、葉をもみあげることで美しいマツの木に仕上げることができる。
透かし剪定のポイントは次の2つである。
- 枝をV字になるように残す
- 上下に重なっている箇所は下枝を大切にする
木から離れた場所から樹木全体のバランスを確認する。
- 飛び出している枝はないか?
- 形はおかしくないか?
- 広がりすぎていないか?
これらは剪定中には気づきにくいので、時々離れて場所から確認する。マツの透かし剪定は慣れるまでは難しい。しかし、経験を積むことで上手にできるようになる。
引用:松(マツ)の剪定方法・基本を現役庭師が徹底解説! | 庭ラブ
引用:松(マツ)の剪定方法・基本を現役庭師が徹底解説! | 庭ラブ
もみあげ
夏に伸びた新しい葉の一部と去年の古い葉を除去することを「もみあげ」と呼ぶ。「透かし剪定」と「もみあげ」は一緒に行う方が効率良く作業できるが、剪定の時期には注意を要する。
もみあげは、新しい小枝が伸びるのを止め、固まった時期に行うとよいと言われている。11〜2月中旬が一般的な適期とされる。
もみあげは、マツの手入れのうちで最も手間のかかる作業とされるが、樹木のふところ部分に日光を入れるために不可欠である。
もみあげの正しいやり方は、葉をむしる方向に注意することである。葉の流れに逆らってむしると、樹皮がめくれることがあるので、斜めか、横方向にむしるようにする。
引用:松(マツ)の剪定方法・基本を現役庭師が徹底解説! | 庭ラブ
古葉もみあげは、手で古い葉を全てむしる。古い葉は軽くむしるだけで簡単にとれる。
一方、新葉もみあげは、今年の葉の枚数が5〜7枚になるように、むしっておくと綺麗に見える。
むしりとった葉が枝などに引っかかっていると、見栄えが良くないので、枝や幹などを揺すって落としておく。
マツの剪定が難しい理由
マツの剪定が難しいと言われている理由は何であろうか? 一般的に知られている困難な理由には下記のようなものがある。
- 剪定箇所を見誤ると枯れる
- 手間がかかる
- マツヤニで汚れる
- 葉が尖っていて触れると痛い
- 数年後の姿を想像するのが難しい
剪定箇所を見誤ると枯れる
マツは葉のないところで切ると、その先は枯れてしまう。そのため切る箇所を間違えると大切な枝を枯らしてしまうことになる。マツのこの特性が剪定を難しくしている要因である。
手間がかかる
マツの剪定においては、一般に「刈り込み」と呼ばれる剪定はできない。「刈り込み」とは大きな鋏でバサバサと切っていく剪定方法を指す。マツの場合は、芽や枝を一つ一つ丁寧にハサミを入れる必要があるので、他の庭木に比べて非常に手間がかかる。
マツヤニで汚れる
マツの幹や切り口からは「マツヤニ」と呼ばれる樹脂が出る。このマツヤニは手につくとベトベトし、そのまま作業すると汚れを吸着して真っ黒になる。服につくと洗っても落ちないことが多いので捨てる覚悟が必要である。
葉が尖っていて触れると痛い
マツの葉は先が尖っているので素手にあたると痛い。手袋や手甲をつければ多少は軽減されるが、痛みに耐える我慢が必要となる作業が続く。
数年後の姿を想像するのが難しい
庭木の剪定は数年後の姿をイメージして行うことが大切であるが、数年後の姿をイメージするには多くの経験が必要である。
剪定に必要な道具の準備
まずは、鋭い剪定ばさみ、ノコギリ、手袋などを用意する必要がある。道具を清潔にしておくこともお忘れてはならない。消毒しておくと病気の予防にもなる。マツの剪定に必要な道具と、あると便利なモノには次のようなものがある。道具次第で剪定の作業効率が大きく変わるので、道具は大切である。
- 植木鋏【うえきばさみ】
- きりばし
- 芽切り鋏
- 剪定鋏【せんていばさみ】
- 小枝を剪定するための鋭い剪定ばさみ
- 切れ味の良いものを選ぶことが大切
- サック
- ノコギリ
- 太めの枝を切るためのノコギリ
- 切れ味の良いものを選ぶことが大切
- 手袋
- 背抜きのゴム手袋
- 作業中のケガを防ぐために必須
- 耐久性のあるものを選ぶ
- 手甲
- ガーデニング袋
- 剪定シート
- 消毒液
- 道具を使う前に消毒することで、病気の蔓延を防ぐ
- 三脚脚立
- 梯子
- 高い場所での剪定作業がある場合に必要
- 高い場所へ安全にアクセスするために必要
剪定ばさみやノコギリの使い方にはコツがあり、誤った使い方をすると木にダメージを与える可能性があるので要注意である。
植木鋏
植木鋏【うえきばさみ】は、草花などの細かい作業をすることを目的に作られた鋏【はさみ】である。
マツの剪定では、マツの芽を切る際や枝を切る際に使う。あまり硬い枝は切れないが、マツの小枝であれば十分に切断することができる。植木鋏は、一般的には直径10mm程度の枝まで切断できるので、これ一本あればマツの枝の9割程度を剪定することができるらしい。
植木鋏は、草花や細い枝などの剪定に使われることの多い鋏であり、マツの剪定にも非常に使いやすい鋏であるという。切れ味、耐久性および保守性においてバランスが良く、庭師さんにも愛用者が多いと言われている。
また、持ち手が輪になっているので、誤って落とす心配もなく安心して使うことができる。私は手が小さい方なので、D型を使用している。手の大きい人はA型が良いかも知れない。
きりばし
きりばしは、植木鋏によく似ているが、持ち手が輪っかになっていないのが特徴である。主に京都などの関西地方で使われている鋏であるらしい。下記のような特徴があり、プロの庭師さんをはじめ、熱烈なファンがいる鋏であるようだ。
- 植木鋏よりも太い枝を切れる
- 芽切り鋏と違ってガシガシ使える
- 切った時の音が好き
- 見た目が渋い
芽切り鋏
芽切り鋏は、マツの芽切りや中芽をするのに適した鋏であるという。芽切り鋏の特徴は、細かい作業に特化している点である。刃先が細くなっていて、葉と葉の間や、茎の隙間に刃先を差し込んで切れるようになっている。一方、刃の厚みが薄く作られているので太い枝は切れない。
芽切り鋏には両刃芽切り鋏と片刃芽切り鋏の2種類ある。
両刃芽切り鋏は、両刃になっているので切断面が非常に綺麗に仕上がり、皮などの切り残しが無い。太い枝は切れないので用途は限られている。
一方、片刃芽切り鋏は、剪定鋏と両刃芽切り鋏の中間に位置づけられる鋏で、細かい剪定に向いており、かつ、両刃芽切り鋏よりは太い枝も切断できる、「万能な」芽切り鋏と言えるかも知れない。
芽切り鋏はマツの剪定を上達したい人には是非使って欲しい鋏である言われている。用途はマツの剪定専用になってしまうが、その分とても扱い易くて剪定が楽しくなるということなので、私も早速購入してみた。
剪定鋏
剪定鋏【せんていばさみ】は、硬い枝や太い枝を切る鋏である。植木鋏とノコギリの中間に位置する剪定用道具であると言える。
剪定鋏は、枯れた枝や太い枝を切るときに活躍するが、細かい作業には向いていない。植木鋏と使い分けることで剪定を効率的におこなえるという。
サック
植木鋏や剪定鋏を携帯するのに便利である。ノコギリを携帯できるサックもある。
ノコギリ
剪定鋏では切断できないような太い枝はノコギリを使用する。剪定用ノコギリには、ピストル型と折りたたみ式がある。
ピストル型は、持ち手が曲がっているタイプのノコギリである。このタイプは持ち手が滑りにくく、細い枝などを片手で切れるので便利である。刃渡りは長めのものが多いのが特徴である。
一方、折りたたみ式は携帯に便利なのが特徴である。刃渡りは短めのものが多い。
ノコギリの刃の種類には生木用・剪定用・万能・荒目などのように種々のものが市販されているが、いずれか一つを選んでおけば十分である。
ノコギリは、剪定鋏でも切れない太い枝を切るときに使用する。折りたたみ式のノコギリならコンパクトで携帯に便利である。
三脚脚立
マツは背丈よりも高いのが普通であるので、マツの剪定に脚立が必須である。脚立は必ず三脚脚立と呼ばれる3本脚のものを使用した方が安定性と安全性の観点から良いとされる。
三脚脚立は足場の悪いところでも安定して使えるから転落のリスクが減る。マツの剪定のような高所での作業には必須である。
背抜きのゴム手袋
背抜きと呼ばれる手のひら側にだけゴムのついた手袋を使用するとマツヤニで手が汚れるのを防げる。また、マツの葉で手が刺されることも少ない。
手甲
手甲【てっこう】は、汚れや外傷から手首を守るのに重宝する。マジックテープのタイプが簡単に脱着できるので便利である。
ガーデニング袋
ガーデニング袋は大量の剪定ゴミを入れておくことができ、頑丈なので枝を入れても破れずに安心して掃除することができる。袋が自立するタイプは剪定ゴミを入れるのに非常に便利である。
剪定シート
剪定シートを剪定前に木の下に敷いておくと後片付けが簡単になり、便利である。
【実践】クロマツの剪定
クロマツ(黒松)は別名、雄松【オマツ】や男松【オトコマツ】と呼ばれている。アカマツ(赤松)と比較すると次のような特徴がある。
- 葉が硬く、太くて長い
- 灰黒色の樹皮
- 幹に力強さがある
クロマツは、海岸で防風林や防砂林としても利用され、厳しい環境でも生き抜くことができる特長を有するマツである。神社仏閣の境内や日本庭園でもよく見かけるマツである。一般に庭木のマツと言えばクロマツを指すことが多い。
クロマツの剪定のポイント
クロマツの剪定のコツには、次の5つがあるという。
- 下枝を大切にする
- 樹形をひと回り小さくする意識を持つ
- 将来の姿をイメージしながら剪定する
- 上から見下ろしながら剪定する
- 道具への投資は惜しまない
下枝を大切にする
マツは下枝を残すように意識して剪定することが重要である。理由は下枝を残すことで木の重心が下がり、バランスの良い樹形になるからである。下枝を大切に育てることによって、貫禄のあるマツの樹形に仕立てることができる。
マツの枝をよく観察して上下に芽が重なっているところを見つけたら、上の枝を外して下枝を残すように剪定する。上の枝を取り除くことで、下枝についている芽に日光が十分に当たるようになり、日照不足で枯れることを防ぐことができる。
樹形をひと回り小さくする意識を持つ
クロマツの剪定においては、樹形をひと回り小さくする意識を持つことはとても大切であるという。
理由は、基本的にクロマツは樹勢が強い木なので、とくに意識せずに剪定を続けていくと、大きくなってしまうからである。
したがって、脇芽(枝の途中に出た芽)がある場合は積極的に切り戻し剪定(芽のあるところまで切り戻す剪定)、そして不要枝の除去をおこなうことが必要とされる。
切り戻したからといって樹形が崩れることはなく、むしろ切り戻さない方が間延び枝(途中に芽のないヒョロ長く伸びた枝)が増えてしまい樹形を整えるのが困難になってしまう。
不要枝の除去も重要である。不要枝にはいくつかあるが、特に逆さ枝(幹に向かって伸びている枝)に関しては樹形を乱すので見つけたら切っておく。
常に樹形をひと回り小さくする意識を持っておくことで、小さな脇芽での切り戻しがスムーズにできるようになり、不要枝の除去もできるようになる。
将来の姿をイメージしながら剪定する
将来的にどのような樹形にしたいのかをイメージして剪定する。樹形は、ある程度は剪定によってコントロールできるが、大きく樹形を変えるには何十年もの年月が必要である。
クロマツはどのような樹形にしたいかをイメージして剪定することで、上達が何倍も早くなるという。
上から見下ろしながら剪定する
クロマツの剪定は上から見ながらやれば上達する。その理由は次の2つである。
- 枝の流れや芽の混み具合がよくわかる
- 腕が疲れない
枝の流れや芽の混み具合というのは、横から見ただけでは非常に分かりづらいが、上から覗くことで次のようなチェックがしやすくなる。
- 地面が見えないほど芽が重なっていないか?
- 枝がからみあって、ごちゃごちゃしている箇所はないか?
- 芽が少なくて隙間が空いていないか?
このように上から覗くことで枝葉の状況を確認しやすくなる。現状を把握することで、解決するべきポイントが分かり、効率よく剪定できる。また上から覗きながら剪定すると、必然的に腕を上げずに作業できるため、疲れにくくなる。疲れてくると、注意力も散漫になり、剪定に集中できなくなる。
枝葉の状況を上から確認して、楽な体勢で剪定をするだけでも上達は早くなるという。
道具への投資は惜しまない
剪定は道具選びが重要で、適切な道具を使うことで、上達は確実に早まる。剪定の上達だけでなく、安全にも関わることであるから、道具への投資は決して惜しんではいけないという。
クロマツの剪定には最低でも下記のような道具が必要になる。
- 植木鋏
- ノコギリ
- 三脚脚立
- ゴム手袋
この中でも特に三脚脚立とゴム手袋は、適切なものを使うことで上達が早くなるという。
三脚脚立は脚の長さが調節できるものを使用する。脚の長さを調整できることで、平らでない場所でも水平に脚立を立てることができる。作業しやすい体勢で集中して剪定をすることができる。
クロマツの葉は当たるとチクチクするので、ゴム手袋を使うと良い。最近のゴム手袋は非常に薄いものもあるので、指先の感覚を保ったまま剪定することができる。
クロマツの剪定でよくある失敗例
クロマツの剪定によくある失敗例には次のようなものがある。
- 間伸び枝を増やしてしまう
- 芽の数を増やしすぎる
- もみあげの際に誤って芽を落としてしまう
間伸び枝を増やしてしまう
初心者によくある失敗例は、間伸び枝を増やしてしまうことである。間伸び枝が増えてしまうと芽の数が減り、クロマツが弱々しく見えてしまう。
この失敗を回避するためには、枝の途中の小さな芽を育てていくことが大切である。枝先の芽だけを剪定していると間伸び枝が多くなってしまうので、枝の途中の小さな芽を育ていく。小さな芽に十分に日光が当たるように枝の整理をおこなうとよい。
芽の数を増やしすぎる
芽の数を増やしすぎてしまうのもあまり良くない。理由は、芽を増やしすぎてしまうと芽同士の感覚が密になりすぎてしまい、日照不足で下の枝が弱ってしまうからである。
この失敗を回避するためには、残す芽の数は芽の密度によっては1芽にしてバランスを整えることが必要である。
マツの新芽(みどり)は2芽残すことが推奨されているが、これを毎年やっていくと芽の数が増えて行ってしまう。芽を大事にすることは重要ではあるが、混み合っているところは思い切って1芽にすることも大切である。
もみあげの際に誤って芽を落としてしまう
もみあげをする際に誤って芽を落としてしまうことがある。芽を失くした枝は枯れてしまうので注意が必要である。小さな脇芽や弱っているマツの芽は、少し触っただけでもポロッと取れてしまうので細心の注意が必要となる。
クロマツの剪定の実施例
プロの庭師さんによる実例から学ぶことが第一歩である。下記の写真は妻の実家の庭のクロマツの剪定である。剪定の実施時期は4月下旬であった。
【剪定前】
【剪定後】
【剪定前】
【剪定後】
【剪定前】
【剪定後】
マツの剪定の仕上げ確認
マツの剪定を終えたら、最後に樹形全体を確認しておく。チェックポイントは、次のようなものであり、これらを確認して剪定終了となる。
- 棚はお椀をひっくり返した形になっているか?
- 剪定したマツの葉が枝や幹に引っかかっていないか?
- 垂れた枝葉はないか?
- 枯れた枝は残っていないか?
もし、棚に飛び出している箇所があれば切っておく。
剪定したマツの葉を放置すると、茶色くなり見栄えが良くないので、枝や幹を軽く揺するか、軽く叩いて葉を落としておく。
垂れた枝葉は樹形を崩してしまう。垂れた枝は鋏で切り、垂れた葉は手でむしっておく。
害虫被害や美しい樹形のためにも、枯れた枝は必ず取っておく。硬い枝の場合は剪定鋏かノコギリを用いて切断する。
あとがき
マツの剪定に興味を持つと神社仏閣の境内にあるマツや日本庭園のマツの手入れ具合にも自然と関心がいく。庭師さんたちに感謝したいと思う。庭師さんたちの尽力によって私たちは優美なマツの姿を目にすることができ、散策を楽しめるのだから。
難しいとされるマツの剪定も基本を押さえて剪定すれば私のような初心者でもチャレンジすることができるかも知れない。マツは放置するよりは、やはり手入れすることで確実に綺麗になる。時間はかかるがその分達成感を味わうことができる。
タネが風に乗ってやってきて庭に自生したクロマツも最近では大きく育ち、私の演習林ならぬ「演習木」(1本しかない!)になってくれるのは幸いである。
クロマツの剪定は確かに難易度が高い。特に成長パターンや形状を維持するための技術が必要であるからだ。だからクロマツの剪定は初心者にとっては確かにハードルが高く感じられるのは当然である。
しかしながら、基本的な知識を身につけて、少しずつ経験を積むことで初心者でも上手に剪定できるようになるかも知れない。実際に、私自身は基本を押さえて慎重に取り組むことで、少しずつ上達することができることを実感した。
剪定のための細かいポイントを押さえれば、挑戦してみる価値はガーデニングを趣味する者にとっては十分にある。庭木としてのクロマツは、庭の主木になることが多いので、どんな庭にしたいかイメージを膨らませることができる醍醐味がある。
クロマツの剪定は、最初は少しずつ剪定して、木の反応を見ながら進めると良い。たとえ失敗しても次の成長期には修正できるので、思い切って挑戦してみたいと思う。庭が美しくなることを夢みて私の挑戦は続く!
【参考資料】
庭師の技術がわかる庭木の手入れ(中山草司著、1993年刊、大泉書店) |
庭木の手入れ12か月(船越亮二監修、1993年刊、主婦と生活社) |
松(マツ)の剪定方法・基本を現役庭師が徹底解説! | 庭ラブ |
松の剪定におすすめの植木ばさみを紹介 | 庭ラブ |
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