はじめに
トラベルライターは、雑誌やガイドブック、Web媒体などのメディアで、旅行取材で訪れた場所や名所、グルメ、人、経験などを紹介する記事を書くのが仕事の職業である。但し、「旅行に関する記事を書く人」以外の明確な定義は存在しないようで、自分が実際に訪れたことのない場所について書いてもトラベルライターと呼ばれるらしい。そして、フォトグラファーは、写真撮影から写真の加工・編集を行う職業である。
一方、トラベルフォトライターの仕事は、要するに従来から知られているトラベルライターとフォトグラファーを掛け合わせたような職業である。したがって、トラベルフォトライターは、基本的に旅行サイトに寄稿し、原稿料を貰って生活する職業だと言えるかも知れない。
執筆媒体については、旅行サイトなどのWeb媒体、書籍、雑誌などのメディアが考えられるが、今の時代はWebを中心にして活動すべきだと思う。インターネットにつながったパソコンさえあれば、いつでもどこでも仕事ができるからである。
トラベルフォトライターは、世間での認知度はまだ低い。トラベルフォトライターとして活躍している人はまだ少ないし、有名人としてメディアに登場する機会がほとんどないので、世間ではまだよく知られていない職業の一つである。しかしながら、最近はネットなどでも目にする機会が増えてきたように思うし、検索してもヒットする頻度も確実に増えてきているのは確かだ。
トラベルフォトライターの仕事は魅力的な一方で、過酷な業務事情も存在する。本稿では、トラベルフォトライターの過酷な業務事情の実態を探っていきたい。
トラベルフォトライターの仕事
トラベルフォトライターは、旅をテーマにした文章を書き、その魅力を写真とともに伝えるクリエイティブな職業である。
トラベルフォトライターの仕事は、要するに従来から知られているトラベルライターとフォトグラファーを掛け合わせたような職業であるから、主な仕事の流れは、次のような形が基本である。
① 企業から執筆依頼企業から執筆依頼
② 取材場所へ行き、撮影や取材をする
③ 記事を執筆する
この仕事は、旅の感動や風景、美食、文化、歴史などを多彩な視点で切り取り、読者や観客に共有する役割を果たす。トラベルフォトライターの具体的な仕事内容をみていきたい。
1. 執筆とライティング
- 旅行中の体験や訪れた場所の魅力を、読者に共感してもらえるような記事やストーリーとして執筆する
- 雑誌やウェブメディア、旅行ガイドブック、ブログなどが主な発表の場である
- 文章には情報提供だけでなく、旅の空気感や感情を伝える力が求められる
2. 写真撮影
- 文章に合わせた写真を撮影し、ビジュアルを通じて旅の魅力を伝える
- 撮影する内容は風景、建築物、地元の人々、料理など多岐にわたる
- 写真は文章の補完として重要な役割を果たす
3. リサーチと情報収集
- 訪れる地域の文化や歴史、観光スポット、食事、宿泊施設などを事前にリサーチする
- 地元の人々へのインタビューや実際の現地調査を行うことで、記事の深みが増す
4. クリエイティブなストーリーテリング
- 単なる情報提供にとどまらず、旅そのものの魅力を物語として描くスキルが求められる
- 読者がまるで自分も旅をしているような気分になるような臨場感が重要である
5. 柔軟性と適応力
- 様々な場所を訪れるため、異文化の理解力や予測不能な状況に対応する能力が必要である
- 旅行中の予算や移動手段を自己管理することも含まれる
6. 発信の場
- 雑誌、新聞、ウェブメディアなどのほか、最近では個人ブログやSNSを活用して発信するトラベルフォトライターも増えている
- これにより、フリーランスとして独自のブランドを築くことも可能である
このように、トラベルフォトライターは旅への情熱だけでなく、ライティング力、写真撮影スキル、リサーチ能力が必要とされる、多面的な職業である。
収入の不安定さ
フリーランスとして活動する場合が多く、収入が安定しないことが一般的である。特に駆け出しの頃は、低単価の案件が多く、生活費を賄うのが難しい場合があるという。
トラベルフォトライターとして働き方の選択肢はそれほど多くはない。主な働き方は外部ライターとしての働き方であるという。つまり、依頼元の企業と業務委託契約を結んで執筆するフリーランスの外部ライターである。このあたりの事情は、Webライターの働き方と一部共通するように思う。
在宅ワークの案件が比較的多く、時間の自由が利くというメリットが特徴である。柔軟な働き方ができるだけでなく、多くの媒体をかけもちして働くこともできる自由度の高さが魅力的である。
報酬は記事単位で支払われることが多い。自分のがんばりが報酬に直結するためやりがいが感じられる、
その一方で、執筆できなくなった場合には無報酬となるため、働き方としては不安定と言える。それを覚悟しておく必要がある。
旅行ライター(外部ライターの場合)の報酬体系には主として固定報酬と出来高制の2つがあるという。
固定報酬とは、例えば、1記事あたり3,000円、あるいは1文字1円など、単価が決まっている報酬体系である。
この報酬体系の場合、書類選考やポートフォリオの確認、面接を経て業務委託契約を結ぶことが多いため、必然的に質の高いライターがこうした報酬体系で働くことになる。
ライター側のメリットは、報酬が決まっているので安心して執筆できることである。
記事を依頼する側(クライアント)のメリットとしては、良質な記事を期待できることである。SEO対策や画像の提供もライターにまるごと依頼することができれば、やりとりの工数を削減でき時間短縮・コスト削減にもつながる。
一方、出来高制は、WEBメディアでよく見られる報酬体系で、アクセス数に応じて報酬が決まるものである。個人が自由に投稿を寄せる形式の媒体はこの体系をとることが多いという。
固定報酬に加え、アクセス数が多ければその分を上乗せする形での出来高制をとる企業もある。
ライター側のメリットとしては、未経験でも挑戦できるため実績の無い人でも始めやすいことである。また実力のある人なら、固定報酬制よりも多く稼げるチャンスがある。
記事を依頼する側のメリットとしては、記事の量産が可能なことである。特に、立ち上げ間もない旅行系WEBメディアやコンテンツ量をとにかく増やしたい場合に向いている。
固定報酬および出来高制とも、取材が必要な場合には取材費が支払われることもあるようだ。
執筆料の相場
固定報酬の場合、執筆料の相場は1文字1円程度であるという。だから文字数の多い記事を量産できるようになれば報酬は上がる仕組みともいえる。
またアクセス数が稼げて読了率の高い記事にともなれば、文字単価が上がるだけでなく、ゆくゆくは指名で仕事がもらえる可能性もあるだろう。
初めの単価は安くても、将来を見据えてコツコツと書き続けることこそが、結果的に報酬アップへの近道になるはずだ。
上述のことから理解できるのは、トラベルフォトライターの収入は、経験やスキル、契約先、記事の内容や文字数などによって大きく異なるということである。
トップクラスのトラベルフォトライターにでもなれば、1記事あたり50,000円以上の高単価で執筆することも可能である。その場合は、平均月収100万円、年収も1000万円を超えることも夢ではないかも知れない。しかし、それはトップクラスのトラベルフォトライターの話であり、誰もが皆、トップクラスになれるわけではない。
一般的には、初心者や単発ライターの場合には、1記事あたり1,500円〜3,000円程度であり、専属ライターになった場合は、1記事あたり5,000円〜10,000円程度が相場と言われている。
いずれにせよ時給に換算すれば、最低賃金を下回ることは確実だろう。収入面ではかなり厳しい状況と言わざるを得ない。本当にこの仕事が好きでもなければ、選ばない方が賢明な職業の一つと言えなくもない。
体力と精神力の消耗
取材は早朝から深夜まで続くことがあり、連日スケジュールが詰まることもあるらしい。これにより、体力的にも精神的にも疲労が蓄積しやすいという。
少なくとも取材旅行ができる気力や体力がないとトラベルフォトライターにはなれそうにない。
旅のスケジュールを組むときには、「元気で旅行ができる」ことを前提にしているので、その前提が崩れるとスケジュール通りの旅行をこなせなくなる。

いくら旅好きでも、慣れない環境に身を置くのは疲れる。環境が変わっても健康でいられることは、ある意味、トラベルフォトライターの重要な資質の一つかも知れない。
プライベートと仕事の境界が曖昧
旅が仕事になるため、純粋に楽しむ旅行がしづらくなることがある。取材中は常に「記事のネタになるか」を考え、予定を詰め込むことが多いのが原因である。
経費の負担
仕事に必要な機材や旅費は基本的に自腹で負担することが多く、収入に対して出費がかさむことが多い。
フリーランスのトラベルフォトライターが収入を得る方法には、下記のようなものがある。
- スキルマーケットやクラウドソーシングなどで仕事を獲得
- 旅行関連の記事や写真を発注しているメディアや企業に応募
- 自分のブログで記事や写真を発信し、広告収入を得る
まず、スキルマーケットやクラウドソーシングなどで仕事を獲得する方法であるが、仕事の獲得には努力や工夫が必要となる。
スキルマーケットは、自分の得意なことやできることをサービスとして出品し、購入したい人が選んで買うという仕組みである。スキルマーケットのメリットは、自分でサービスの内容や価格を決められることや、自分のペースで仕事ができることである。
一方、クラウドソーシングは、仕事の発注者が案件を公募し、応募した人の中から仕事を依頼するという仕組みである。クラウドソーシングのメリットは、多くの案件の中から自分に合った仕事を探せることや、安定した収入を得られることである。
次に、旅行関連の記事や写真を発注しているメディアや企業に応募する方法であるが、応募者が多くて、採用されるのが難しい場合もある。採用されれば、クライアントと契約して、一定の報酬を得ることができる。
最後に、自分のブログで旅行記事や写真を発信し、広告収入を得る方法であるが、スキルを磨くのには適しているが、収入を得るまでに時間がかかる場合が大半である。
得られる収入を取材等に関わる経費が超過すれば、当然ながら収支は赤字ということになる。如何にして収入を増やすかが、質の高い取材を継続していけるかにも関わってくる。なかなか厳しい世界であることは容易に想像がつく。
人間関係の孤立
フリーランスで活動する場合、職場での人間関係がないため、孤独を感じることがある。新しい人間関係を築くには意識的な努力が必要である。
長期的な継続の難しさ
旅行記事を執筆し続けるには体力と精神力が必要であり、長期間続けることが難しいと感じる人もいる。
あとがき
トラベルフォトライターは、自由でクリエイティブな仕事である反面、なかなか厳しい現実や解決しなければならない課題に直面することが多い職業と言えそうだ。つまり、生活基盤を完全に依存するには非常に厳しい職業であると言えるだろう。そのため、経済的安定性や生活の基盤が整っているかどうかが、この仕事に挑戦する上で重要な要素となるはずである。
私のように新卒者や自分の娘たちには強く推奨できない親心をもつ者が多いのではないだろうか。その一方で、ある一定の経済的基盤を有する私たちシニア世代にとっては、チャレンジのし甲斐がある仕事ではないだろうかと思ったりもする。その理由は、リスクを最小限にしながら楽しみつつ取り組める仕事として、非常に魅力的な選択肢であると言えるからである。
生活基盤が既に整っている場合、収益のプレッシャーを感じることなく、自由に活動を楽しむことができるはずである。私たちシニア世代が人生で得た知識、経験、洞察をトラベルフォトライターとして表現することで、より深みのあるコンテンツを提供できるかも知れない。
写真や文章を通じて個性や価値観を表現できることは自己表現の機会であり、私たちシニア世代にとって充実した活動となり得ると思う。また、写真撮影の技術向上や文章力の磨き直し、新しいデジタルツールの習得など、この分野は学び続ける楽しさを提供してくれるものと期待したい。
そして、旅先の素晴らしさを写真や文章で共有することで、人々に刺激や感動(他者へのインスピレーション)を与えることができたなら、私たちシニア世代にとってこの上ない喜びとなる。
収入(金)では得られない、心の充足や喜び(心の豊かさ)がこの仕事の魅力であると私は信じたい。