はじめに
自宅の庭に花梅【ハナウメ】の庭木を植えていたら種が落ちて自生してきた。その小さな苗木を鉢植えにしていたら早いもので20年が経過した。だから年季の入った老木のような風格をもつ幹になっている。よく無事に育ってくれたものである。
ウメは実生の場合は中々花が咲かないという。一説によると、花芽がつくまでに10~18年ぐらいは要するらしい。私の実生の鉢植えの梅もようやく数年前頃から花が咲き始めたので、案外その説は正しいのかも知れない。
毎年2月~3月に花が咲き、目を楽しませてくれるようになったので、盆栽にしてみようかという誘惑に心が動いた。しかし、梅の盆栽は管理するのが意外に難しいらしい。鉢植えから盆栽にして数年後に枯らしてしまっては元も子もない。長生きをしてくれているウメにも申し訳ない。
結局、私の実生の花梅の鉢植えは植え替えて、今後も鉢植えで育てていくことに決めた。その方が管理がしやすく、これからも私を楽しませてくれることだろう。
本稿は、花梅の地植え並びに鉢植えの作り方と植え替え方法、そして四季折々の管理における注意点を記したものである。きっと私のような初心者の方には役立つはずである。
四季を通じてウメを楽しむ方法
ウメは四季を通じて楽しむことができる植物である。四季を通じて楽しむことで、ウメの魅力を理解し、より一層ウメの魅力を感じることができるはずである。
春の観賞
春はウメの開花時期である。この時期は、美しい花を楽しむことができる。ウメの開花は気温の上昇に敏感であるため、暖冬の年は例年よりも早めに開花する。
ウメは露地植えだけでなく鉢植えでも十分な数の花芽をつけ、私たちを楽しませてくれる。
また、花が終わった後は剪定を行い、形を整えることができる。この剪定は、素人にとってガーデニングの楽しみの一つになる。
夏の観賞
夏にはウメの実が確認できるようになる時期である。私は花梅を育てているので、実は大きくなる前に基本的に摘み取っている。
夏はウメの成長期であるので、この時期には適切な水やりと肥料の管理が重要である。
秋の観賞
秋にはウメの葉が色づき、モミジの紅葉ほどではないが、風情があって良いものである。私の庭には花梅しかないが、もし実梅を育てていれば、下記のような楽しみ方ができるはずである。
1. 実の収穫
ウメの実は6~7月頃に熟す。
2. 梅酒の製造
ウメの実を使って梅酒を作ることもできる。梅酒は数ヶ月間熟成させる必要があるため、秋にはちょうど良いタイミングで楽しむことができるはずである。
3. 梅干しの製造
梅干しを作ることも可能である。梅干しは保存性が高く、秋になっても美味しく食べることができるはずである。
冬の観賞
冬季にはウメは落葉しているので、幹や枝があらわになる。年季のある樹木であれば、寒樹の風格も観ていて楽しいものである。
冬はウメの開花の準備時期に入る。寒い季節でもウメは花芽をつけて、その花芽が季節の推移(気温の上昇)に合わせて膨らんでくる。その姿はとても愛らしいとともに季節の推移を実感させてくれる。
そして1月末又は2月初旬には開花を始める蕾も出てくる。これが冬の寂しい庭に彩りを与えてくれる。冬の間もウメを楽しむことができるのである。
このように、ウメは四季を通じて楽しむことができる。四季を通じて楽しむことで、ウメの魅力を理解し、より一層ウメが好きになるはずである。
ウメの育て方
鉢植えの作り方
ウメは土の種類にこだわらなくてもよく育つが、水はけがよく、有機質の多い用土でよりよく生育する。そのため赤玉土(中粒)2に対し、完熟腐葉土または樹皮堆肥1の比率で混ぜたものなどが良いとされる。
梅の苗の植え付けに適している時期は落葉期の12月から3月上旬(芽吹き前まで)である。ただし、厳寒期の作業は避け、開花期と重なる場合は花が咲き終わってから行う。
鉢植えの方法は、8号くらいの鉢を用意し、鉢底石を並べてから用土を少し入れる。
その後、苗を植え付け、さらに上から用土を入れて安定させたら水を与える。鉢の底から流れ出るほどたっぷりと与える。
鉢は日当たりのよい場所に置き、土の表面が乾いたら水をやり、特に夏場は水を切らさないように注意することが肝要である。
準備するもの
- 苗木
- 植木鉢
- 鉢穴用防虫ネット
- 鉢底ゴロ石
- 用土(赤土小粒、腐葉土または培養土)
- 剪定はさみ
- ジョウーロ
植え替えの方法
ウメを鉢植えで育てる場合には2~3年に1度、植え替えが必要となる。根が伸びて鉢の中で一杯になると通気性が悪くなり、根腐れが起こりやすくなるからである。
ウメの植え替えは落葉期間中の12月~3月頃に行う。一回り大きな鉢を用意し、鉢植え法と同じ要領で植え替える。
ウメは移植には強い庭木として知られている。大木でも適期であれば素掘りでも移植できるという。
植え替えの手順
- 一回り大きな植木鉢を用意し、鉢底ネットを敷く
- 鉢底ネットを敷いた鉢に、鉢底石を入れる
- 鉢の1/3〜2/3の高さまで用土を入れる
- 根鉢から株を慎重に取り出して、根についた古い土や根を整理する
- 根を広げるようなイメージで植え付けて、上から土を詰める
- 鉢の縁から2〜3cm下まで土を盛り、株を安定させる
- 軽く水やりをして株をしっかり土着させる
水やりの方法
露地植えのウメの水やりについては下記のような目安がある。
- 植え付けてから2年未満のウメ
- 土の表面が乾いたらたっぷりと水を与える
- 植え付けてから2年以上経ったウメ
- 特に水やりの必要はない
- 夏の雨が少ない時期は、土の表面が乾いたら水を与える
- 乾燥に気をつけるだけでよい
一方、鉢植えのウメの水やりの目安は下記のようなものである。
- 夏季のウメ
- 毎日、朝または夕方に水やりが必要
- 鉢の大きさの割に木が大きい場合は1日2回与える
- 冬季のウメ
- 戸外で管理する場合は2~3日に1回、暖かい時間帯
- 室内の暖かい場所で管理する場合は、毎日与える
- 開花中のウメ
- よく乾くので、1日1回与える、
- 花に水がかからないよう水やりをする
整枝の方法
ウメは萌芽力【ほうがりょく】があるので、強い剪定にも耐えることができる。しかし、むやみやたらに枝を切ってしまうと花を楽しむことができなくなる。
露地植えのウメの剪定方法については下記のような目安がある。
- 1年目〜4年目の剪定
- 植え込み後、特に1年目〜4年目の剪定方法の注意点
- 1年目は9月〜11月に剪定を行う
- 地面から30〜60cmの高さで幹をカットする
- 2年目は12月〜1月に剪定を行う
- 幹から3本の枝だけを残し、他の枝は全て切り落とす
- 3年目は12月〜1月に剪定を行う
- 形を整えるために剪定を行う
- 春・夏・冬の剪定
- 梅の剪定は、春・夏・冬の3回行うのが良いとされる
- 春(4〜5月)
- 花後の剪定で、太い枝を切り新たな枝をつけさせる
- 夏(7〜8月)
- 収穫後の剪定で、長枝などの無駄な枝を切り落とす
- 実を多く実らせることができる
- 冬(10〜12月)
- 樹形を整えるために枝を切り落とす
- 果実を重視した剪定
- 基本的な剪定は、徒長した枝の長さに着目
- 短果枝や中果枝を発生させるような剪定で、枝を残すことがポイント
- 長くて太い長果枝(30~60㎝)には、花が咲いても、不完全な花芽が多く、果実がつかないことが多い
- 中果枝(10~30㎝)や短果枝(10cm以下)には実がなる確率が高い
- 花を重視した剪定
- 何もしないで放任しておくことが一番
- 庭木のウメは、花も咲かせたいし、樹形をきれいにしておきたい
- 剪定時期は、夏場や繁茂期など、葉が生い茂る時期を避けて、10月から1月ころまでに行なうとよい
- 但し、6月から7月に徒長枝を切り戻し、混み合った不要な枝を間引くとよい
一方、鉢植えのウメの剪定の目安は次のようなものである。
- ウメは、花が終わった直後に強く刈り込むと良い
- 花付きを良くするためには春に伸びた枝は絶対に切ってはいけない。
- 夏芽や秋芽は伸ばさないように管理する
- 夏(8月)の整枝は樹形を作るばかりではなく花つきを良くするのに役立つ
施肥の方法
露地植えのウメの施肥については下記のような目安がある。
- 植え付けてから2~3年のウメ
- 冬に緩効性化成肥料を40g前後、乾燥鶏糞を1kgを施す
- 成木のウメ
- 冬に鶏糞を施す
- 実梅は「お礼肥」として6月下旬以降に化成肥料を施す
- 肥料が多いと徒長枝が多くなる
- 肥料が少ないと下葉が早いうちに落ちる
- 施肥の時期
- 地域や気候によって差がある
- ウメに施肥する主な時期は年3回
- 1回目は花が終わった3~4月
- 2回目は収穫が終わった7~8月
- 3回目は来年の栽培に向けて11〜12月
- 効果的な施肥方法と施肥量の目安
- 根の先から養分を吸収するため枝先の下の土壌に施す
- 深さ10cmくらいの穴を掘って埋めると効果的
- 地表にまくだけだと雨などによって養分が流出
- 梅栽培におすすめの肥料
- ニワユタカ肥料セットがオススメ
- 補助肥料+栄養肥料のセットになっている
- 肥料分を効率良く吸収させることができる
「ニワユタカ」は、植木に必要な栄養素を配合したミネラル肥料で、特に弱っているマツ(松)に対して効果的であると言われている。補助肥料と栄養肥料がセットになっており、肥料分を効率良く吸収させることができるらしい。
また、樹木の必須栄養素10種(チッソ、リン酸、カリ、モリブデン、鉄、亜鉛、マグネシウム、マンガン、ホウ素、ケイ酸)を配合しているため、栄養バランスを総合的に整えられるという。ただし、鉢植えや盆栽、草花には使用してはいけない。
一方、鉢植えのウメの施肥の目安は下記のようなものである。
- 施肥の時期
- 鉢植えのウメの施肥は年に数回行う
- 2月下旬
- 4月下旬〜5月下旬
- 7月
- 8月上旬
- 9月下旬〜10月上旬
- 鉢植えのウメの施肥は年に数回行う
- 施肥の方法
- 肥料は有機の上質な肥料を選んで与えると安全
- 肥料が粉状だと飛び散りやすいので穴をあけて施す
- もしくは、玉肥をつくって与えると良い
- 施肥量の目安
- 用土に赤玉土と腐葉土を使っている場合の施肥量の目安
- 6号鉢:茶さじ2杯(5g)
- 7号鉢:茶さじ3杯(7.5g)
- 8号鉢:茶さじ4杯(10g)
- 鉢が1号大きくなるにつれて1杯(2.5g)ずつ増やす
- 用土に赤玉土と腐葉土を使っている場合の施肥量の目安
病虫害対策
ウメの病虫害とその対策については下記のような方法が知られている。
- 黒星病
- 湿度が高い梅雨の時期に多発し、ウメが徐々に枯れていく
- 発生源となる落ち葉はすぐに処分する
- 雨になるべく当たらないようにすることが重要
- 薬剤の散布が予防策となる
- うどんこ病
- 湿度が低く、涼しい環境で繁殖しやすい
- 胞子が原因の病気
- 枝、花首、つぼみ、若い枝に寄生し、全体がうす白く覆われたような状態になる
- アブラムシ
- 葉裏や新芽に寄生し、汁液を吸いながら育成を阻害する
- 強力な繁殖力を持ち、ウメの場合は葉が丸まってしまう
- ウイルスの媒介も行う厄介者
- 長い時間効果が持続する浸透移行性薬剤の散布が有効
- コスカシバ
- 南高梅で多く発生する害虫
- 幼虫で越冬、春にさなぎ、それ以降は成虫となる
- 枝の分岐点や傷後に卵を産み付ける
- 幼虫が幹を食害することで、ウメの樹勢が弱まる
- 幼虫が食害した部分はかなづち等を利用して叩き殺す
- ナイフなどを使い幹の皮を剥がしで捕殺する
- ウメシロカイガラムシ
- 枝幹に付く赤褐色で光沢のある半球形のカイガラムシ
- 放置すると吸汁害で樹が枯死することもある
- 年1回発生し、ふ化幼虫は5月下旬から6月中旬に発生
- 防除法はマシン油乳剤やマラソン乳剤などの散布
あとがき
物事や常識を知らないことを批難する、あるいは揶揄する際に用いられることわざに「桜切る馬鹿、梅切らぬ馬鹿」というのがある。
このことわざは、桜(サクラ)と梅(ウメ)それぞれの特性を知らない者を「馬鹿【バカ】」と揶揄する表現でもあり、サクラやウメを育てる上での常識を知らない者を「馬鹿」と厳しく言い表してもいる。
サクラは枝を切るとそこから腐りやすくなるので切らない方がよく、一方でウメは枝を切らないと無駄な枝がついてしまうので切った方がよいとされている。このようにサクラやウメの庭木の剪定法を指す格言でもある。
サクラの枝は切らずにおくのがよいので放置すると枝を広げて大木になってしまう。広大な公園などでは見応えがあるが、日本の一般的な小さな庭には不向きな庭木と言える。一方で、梅の枝は切る方がよいので、剪定をしていけば小さな庭でも十分に管理ができるという「優れもの」の庭木である。また、サクラと異なり鉢植えにすることもできる「優れもの」の植物である。
ガーデニングにハマると庭木の剪定が一つの楽しみとなる。ウメは素人の剪定の練習台にもなってくれる「優れもの」である。ウメは萌芽力【ほうがりょく】があるので、強い剪定にも耐えることができるからである。但し、むやみやたらに枝を切ってしまうと花芽を付ける枝まで切り落としてしまい、花を楽しむことができなくなる。しかし、一年も我慢すればまた花を咲かせるようになる「優れもの」である。私はそんなウメが大好きである。
【参考資料】
中山草司著;庭師の技術がわかる庭木の手入れ(1993年刊、大泉書店) |
船越亮二監修;庭木の手入れ12か月(1993年刊、主婦と生活社) |
ウメ(花ウメ)の育て方-みんなの趣味の園芸NHK出版 |
自宅で育てられる!鉢植えで簡単、梅の木の育て方 |
自分で仕立てる梅の盆栽 |
盆栽と鉢植えって何が違うの?初めての盆栽鑑賞5つの疑問に答えます |和樂web 日本文化の入り口マガジン |
梅の木の正しい剪定方法!時期によって異なる剪定方法を徹底解説 |
【ウメ(梅)の木】剪定の基本を庭師が伝授 – 庭のプロ集団 庭 |
梅花図鑑|梅を知る|一般財団法人梅研究会 (umekenkyuukai.org) |